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「不屈の勇気だ」命がけで独居老人を救った男性、韓国の永住権を得る

17年3月、「LG義人賞」授与の様子。

ニマルさんは韓国に住む39歳のスリランカ出身の男性だ。2013年に韓国に入国し、果樹園や工場などで働いた彼は、16年9月にビザが満了した。しかし、スリランカには戻らず、不法滞在者となった。韓国には、病気の親の治療費を稼ぐためにやってきた。

ところが、不法滞在者である自身を世間にさらけ出すある行動をとった。2017年2月10日、彼はある住宅で火災が起きたのを目撃し、家の中に入って一人暮らしの90歳の女性を救助した。スリランカにいる母親が思い浮かび、放っておけなかったという。

救助の事実が知られた2017年3月、LG福祉財団はニマルさんに「LG義人賞」を授与した。また、同年6月には保健福祉部で「義傷者」に選ばれた。

救助過程でニマルさんはⅡ度のやけど(*)を負い、煙で肺と気道が損傷した。1か月ほど入院して治療を受けたが、現在も薬を服用する必要がある。

【*】やけどの深さはⅠ〜Ⅲ度に段階が分けられ、Ⅱ度は真皮の深さまで熱傷が及んだもの。

昨年6月、ニマルさんは継続した治療のため、臨時ビザを受け取ることができた。しかし、”不法滞在”という身分は免れたものの、就労できない上、医療保険の恩恵も受けることができなかった。

このため、ニマルさんへの永住資格の付与が進められていた。

そして約1年後の2018年12月、ニマルさんはついに韓国の永住権を取得した。

韓国・法務部は「外国人人権保護及び権益増進協議会」の全会一致で、スリランカ国籍のニマルさんに永住権を与えることを決めたと発表した。

国民の生命および財産保護に大きく貢献した功労が認められ、永住権を与えられたのは彼が初めてだ。法務部は12月18日、大邱出入国外国人事務所で、ニマルさんへの永住資格授与式を行った。

ニマルさんは、永住証と花束を持って明るい笑顔を見せた。

法務部の関係者は「不屈の勇気で迷わずに火災現場にとびこみ、大切な生命を救ったニマル氏の義を貫いた行動こそ多文化社会の鑑」と称賛した。

ハフポスト韓国版から翻訳・編集・加筆しました。

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音声の誤認識で7000人の留学ビザが取り消された?

英国で留学生が3万件近くビザの発給を取り消され、5000人近くが国外退去処分になるという事件があった。


by Laurel L. Russwurm (CC BY 2.0)

舞台となったのは、外国人留学生へのビザ発給の条件となる英語能力検定試験「TOEIC」。

そこで組織的な「替え玉受験」疑惑が持ち上がった。その検証のために使われたのが音声認識だ。スピーキングの試験で録音してあった音声ファイルから同一人物をあぶり出した、はずだった。

だが、英語が堪能にもかかわらず、音声認識で「替え玉」とされた留学生らから、相次いで異議申し立てが行われる。

そして、音声認識の精度には疑問が指摘され、7000人規模の「冤罪」が生じている可能性もあるという。

問題発生から4年が過ぎても、なお解決の道筋は見えていないようだ。

●発端はBBCの調査報道

フィナンシャル・タイムズガーディアンの報道によると、発端は2014年2月に公開されたBBCのドキュメンタリー番組「パノラマ」の調査報道だった。

英国では毎年10万人程度のEU圏外の留学生がビザの発給を受けているという。

調査報道では潜入取材によって、その発給に必要な「TOEIC」の「替え玉」受験を請け負う専門業者が、500ポンド(約7万円)の料金で、英語の堪能な別人を用意し、スピーキングの試験を通過させ、筆記試験でも正解を教えるなどの不正を行っていた実態を明らかにした。

英内務省はBBCの報道を受け、ビザ申請での英語能力の資格証明として、TOEICの受け入れを停止。不正受験の実態調査に乗り出した。

この疑惑はその後、事件化され、関係者が有罪判決を受けている。

だが、その過程で、思わぬ余波を引き起こした。

●音声認識による「不正」探し

英内務省によるTOEIC証明書の受け入れ停止という措置に、TOEICを運営する米国のイングリッシュ・テスティング・サービス(ETS)が内部検証に動き出す。

検証の対象となったのが、受験生たちのスピーキングの音声ファイルだった。

音声認識機能を使って、受験生の音声ファイルから同一人物の音声を割り出す。複数の音声ファイルが同一人物のものと認定されれば、替え玉受験の可能性が高い、との見立てだった。

その結果、約3万4000件の受験を替え玉による無効と認定。加えて2万2000件以上を替え玉の疑いがあるとした。

この調査結果に基づいて、英内務省は2万8000件を超すビザの発給拒否や取り消しを行い、4600人以上が国外退去となった。その7割がインド人。そして当時の内務相が2016年から首相を務めるテリーザ・メイ氏だった。

だがこの中には、替え玉受験が必要ない英語の堪能な留学生も含まれており、抗議の声が上がり始める。

●音声認識の精度は

そして、ビザ取り消しを不服とした留学生らが、英移民不服申立審判所に申し立てを行う

審理の中で、音声認識の専門家が誤判定の可能性を指摘。2016年11月に、審判所は留学生の申し立てを認める決定を出す。

これに続き、数百件規模の不服申し立てが相次ぐ。

また同年4月から、英議会の内務特別委員会でも調査が始まった

そして、不服申立審判の中では、ETSが使った音声認識の精度は80%程度にすぎなかった、との指摘が示されている、という。

つまり、無効とされた3万4000件のうち、7000件程度は誤判定の疑いがあるということになる。

ただ、ETSは十分な情報を開示していないため、音声認識の精度を見極めることはできない、との専門家の証言もあるという。

●問題発生から4年

問題発生から4年になるが、なお解決への道筋は見えていない。

ロンドンの移民支援団体「ミグラント・ボイス」は今年7月に、騒動の現状について報告書をまとめ、早期解決を訴えている。

AIなどによる自動判定の精度に問題があると、社会で何が起こるのか。

それを考える、一つの手がかりになりそうだ。

——–

■新刊『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(朝日新書)

(2018年12月15日「新聞紙学的」より転載)


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アフガニスタンの地雷対策-希望はどこにあるのか?

地雷被害者に寄り添い続けて20年

AARの地雷廃絶キャンペーン絵本『地雷ではなく花をください』シリーズの売り上げで、1996年の発行以来これまでに2,652万平方メートルの地雷原の安全を確保しました

AAR Japan[難民を助ける会]が地雷廃絶キャンペーン絵本『地雷ではなく花をください』(絵・葉祥明、文 ・柳瀬房子 発行・自由国民社、61万部発行)の純益を活用し、アフガニスタンでの地雷除去活動を支援し始めてから20年以上。2002年1月に首都カブールに事務所を設けてから18年になります。この間、アフガニスタンには人道支援のニーズが多くある中でも、AARは地雷除去、被害者支援、地雷回避教育を続けてきました。その理由は簡単です。地雷がある限り、人々の生活に平穏が訪れないからです。

AARを含む国際社会の地雷対策は、アフガニスタンの地雷被害の軽減に大きな役割を果たしてきたことは間違いありません。実際、AARが一員を務める地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)が毎年発行する「Landmine Monitor」報告書(年間の地雷の使用状況や被害者数、除去の状況などをまとめたもの)を振り返ると、死傷者がある時点まで順調に減少しています。

数字の背後には一人ひとりの悲しみが。AAR のカブール事務所で会計を担当するナデル・シャーは、9歳のときに自宅近くで不発弾事故に遭い、両腕と右目を失いました

「Landmine Monitor」報告書によると、 アフガニスタンで1973年に地雷や不発弾により死傷した人は1日あたり20~40人。年間にすると7,300~14,600人にものぼります。しかし統計を取るようになった2000年以降は除去活動や回避教育などの地雷対策の効果が少しずつ表れ、2006年は年間死傷者が796人にまで減少しました。その後は2011年まで、例外の年はあったものの毎年数百人規模で推移していました。もちろんそれでも十分大きな数字であることは言うまでもありません。なぜなら、一つひとつの数字の背後には多くの痛み、悲しみ、嘆きが存在するからです。

死傷者数増加の理由

即席爆発装置(IED)。黄色いポリタンクに爆弾が仕組まれています(写真提供:The HALO TRUST)

しかしながら、せっかく減少傾向にあった被害も2012年を境に増加。2018年11月に発効された最新の「Landmine Monitor 2018」報告書によると、2017年にはアフガニスタンで年間2,300人の死傷者が報告されました。この数字は誠に残念ながら、死傷者数が以前の水準に戻ってしまったと言わざるを得ません。被害者数増加の最大の理由は即席爆発装置とも訳されるImprovised Explosive Device(以下IED)です。その名の通り、即席で作ることも十分可能なため、数多く使用されています。

2017年には国連安全保障理事会決議2365号が全会一致で採択され、その中で「武力紛争のすべての当事者に対し、国際人道法に違反する爆発装置の使用を即時に且つ最終的に終了するよう要請し、一般市民を地雷、ERW(Explosive Remnants of War:不発弾や戦争中に遺棄された爆弾)、IEDの脅威から保護する義務に留意し、且つ、国際社会に対し、これらの装置の除去努力の支持と支援、被害者及び障がい者への各種支援の提供を要請する」と宣言しています。それにも関わらず、現実は厳しく、イギリスの国際NGO「ACTION ON ARMED VIOLENCE」は、2018年上半期(2018年1月~2018年6月)には2,002人の民間人が爆発物の被害に遭っており、その80%がIEDによるものと報告しています。

地雷ゼロを目指して

AARは2002年よりアフガニスタンで地雷や不発弾などから身を守る方法を伝える活動を開始し、現在までの受講者数はのべ90万人にのぼります。

現在もAARは全国レベルでのラジオ放送も含めて、アフガニスタンで地雷や不発弾、IEDの危険から身を守るための活動を行っています。2002年の活動開始以来、地域に根差した140人のボランティア指導員が村々を訪れ、のべ90万以上の人々へ地雷から身を守るための教育活動を行っています。しかし、被害を減らすのは容易ではなく、じくじたる思いに駆られることがあります。

そうしたときに思い出すのがカンボジアです。アフガニスタンと同じように戦争を経験し、地雷や不発弾により多くの死傷者を出しながらも、国際的な支援も手伝って死傷者を大幅に減らしています。カンボジアこそ、アフガニスタンでの地雷対策に携わる者にとっての希望です。

TBS開局50周年記念「地雷ゼロキャンペーン」で制作されたCD『ZERO LANDMINE』

「Landmine Monitor 2018」報告書によれば、1998年に1,249人だったカンボジアの地雷・不発弾による死傷者数は、その後の政府や国際支援団体による地雷対策の取り組みにより年々その数を減らし、2017年には58人にまで減少しています。カンボジアはAARが絵本『地雷ではなく花をください』の純益で地雷除去を開始した国であり、株式会社東京放送(TBS)による開局50周年記念「地雷ゼロキャンペーン」および作曲家・坂本龍一さんの呼びかけで制作されたCD『ZERO LANDMINE』の純益や皆さまからのご寄付で除去活動を行った国でもあります。モザンビークも同様で、同国では地雷や不発弾による死傷者数が2014年以降10人を下回り、2018年には7人にまで減少しています。

Landmine Monitor 2018

アフガニスタンでは地雷除去作業が今日も続いています

アフガニスタンでは現在も戦闘が続いているため、内戦が終わったカンボジアやモザンビークのようにはいかないでしょう。アフガニスタンがカンボジアのように、ましてモザンビークのようになるにはもっともっとたくさんの時間と支援が必要になるかもしれません。とはいえ、続けていくことでしか解決できないことがあります。AARはこれからもアフガニスタンでの地雷対策活動を続けてまいります。

AARのアフガニスタンでの支援活動についてはこちら

【報告者】

東京事務局 紺野 誠二

2000年4月から約10ヵ月イギリスの地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向、不発弾・地雷除去作業に従事。その後2008年3月までAARにて地雷対策、啓発、緊急支援を担当。AAR離職後に社会福祉士、精神保健福祉士の資格取得。海外の障がい者支援、国内の社会福祉、子ども支援の国際協力NGOでの勤務を経て2018年2月に復帰。茨城県出身


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葛飾北斎の巨大壁画、モスクワの団地に出現

モスクワ市長のTwitterより

葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」の巨大な壁画が、ロシアの首都モスクワに出現した。 モスクワ市長のセルゲイ・ソビャニン氏が12月10日、公式Twitterで紹介した

郊外のブトーヴォ地区に建設された6棟のマンションの壁面に、「神奈川沖浪裏」の巨大な波が描かれている。壁画の総面積は6万平方メートルで、すでに地域のランドマークになっているという。

これは、森に囲まれた「エタロン・シティ」というニュータウンの一部だ。ここを開発した不動産業者エタロングループの公式サイトによると、他のマンションもニューヨーク、シカゴ、バルセロナなど世界各地の街をイメージしたカラフルな壁画が描かれている。

エタロン・シティの完成予想図。不動産業者「エタロングループ」の公式サイトより。

北斎の壁画について、日本語圏のTwitterでも話題になり、「これは迫力!」「素晴らしいアートじゃなイカ」「モスクワでも人気があるんだ」と反響を呼んでいる。

■巨匠に影響を与えた「神奈川沖浪裏」

「神奈川沖浪裏」は、北斎が手がけた「富嶽三十六景」の一つ。ダイナミックな大波に翻弄される人々の向こうに小さく富士山が見える構図で、世界的に知られている。

オランダの画家ゴッホは弟テオに宛てた手紙の中で、この絵を褒め称えた。フランスの作曲家のドビュッシーも、交響詩『海』のオーケストラ用の楽譜の表紙に「神奈川沖浪裏」を使用している。

ドビュッシーの『海』の楽譜の表紙(1905年版)


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フランスを揺るがした「黄色ベストデモ」 大統領の演説は怒りを鎮めたのか?

黄色いベストに身を包んだ人々が起こした、反政権デモが長期化するフランス。11月17日の初動から4週間、毎週土曜日に行われるデモは過激派の破壊行為も相待って、世界中のメディアから注目を集めている。

デモ当初から失言が続き、その後に口を閉ざしていたマクロン大統領は12月10日、テレビ演説を行い、現状を「社会・経済非常事態」と宣言。デモに参加する年金生活者や最低賃金労働者への配慮措置を打ち出し、大企業に協力を要請。事実上、デモの声に応える姿勢を見せた。

マクロン大統領の演説動画をスマホで視聴する「黄色ベスト」の人たち

日本のメディアがその過激さに注目し「暴動」と伝えたデモに対し、フランス政府は「対話」の扉を開いたのだ。民衆のデモを力任せに鎮圧することも無視することもなく、そこで上げられた声を、政界がすくい上げた。

そもそもなぜ「黄色ベストデモ」はなぜ起きたのか。マクロン大統領はなぜ失望されたのか。フランス政府は危機を打破するため、どんなメッセージを発したのか。現地で聞こえる声を拾いながら、「黄色ベストデモ」運動を俯瞰していく。

そもそも「黄色ベスト」とは何か

今回のデモ隊が揃って身につけ、運動の象徴となっている「黄色ベスト」。これはフランスの道路交通法で車内への搭載が義務付けられている、非常用の着衣だ。1枚数百円で購入でき、フランスで二輪・四輪自動車に乗る人なら、誰でも持っている。

この黄色ベストがシンボルに選ばれた理由は、今回の運動が「自動車」から始まったことにある。

マクロン大統領は、社会保障・税制改革を政策の柱に置いており、なかでもガソリン・ディーゼル燃料の増税は最重要課題の一つ。環境負荷の高いディーゼル車を廃止する未来志向を打ち出したが、問題はそのディーゼル車が、いまも人々の重要な足であることだった。

ガソリンに比べて価格の低かったディーゼル燃料は、低所得の労働者や年金生活者たちに多く利用されている。増税によるその層への打撃は大きく、特に車が生活必需品である地方で不満が噴出。

マクロン大統領が富裕税を廃止したことも輪をかけて、ディーゼル燃料の増税に反対する声が巻き起こったのが「黄色ベストデモ」運動の始まりだった。

富裕層VS庶民の階級闘争

運動の参加者の多くは、「お金が足りない」「金持ちは優遇され、自分たちは無視されている」との思いを共有する、幅広い層だ。現時点で貧困ではないが、失業や増税がすぐに影響する、経済基盤が弱い「貧困予備層」といえる。

彼らには保守・左派の政治思想の区別がなく、「富裕層VS庶民」の階級闘争として、一気に火がついた。11月18日の初回デモから、フランス全土2034箇所・28万人の参加する大規模な抗議行動となった。

凱旋門で行われた大規模デモ

当初、事態を甘く見た政府は、対応を怠ったまま2週間をやり過ごす。そのすきに極右や極左などの過激派が運動に入り込み、12月1日の第3回デモの際には、パリのシャンゼリゼ大通りや凱旋門といった観光名所でも破壊行為が起こった。

過激な破壊行動も行われた。

諸外国のメディアがそれを大々的に報じたことから、政権に不満を持つ他の団体も便乗してデモを敢行。極左・極右の政敵も、これを機に政権批判を強めていった。

デモの声に応えない政府に、中流階級も不信感を募らせた結果、12月8日の第4回デモの際には、国民の7割が黄色ベスト運動に共感を示すようになっていた。

 

「国を良くする責任は国民が担え」マクロン大統領への批判

1789年から始まったフランス革命で市民が絶対王政を打倒して以来、フランスでは、政権や政策への不満をデモで表明するという伝統がある。「圧政への抵抗権」は、憲法にも示された人権の一つだ。

近年では、2013年オランド政権時に同性婚合法化に対する賛成・反対のデモが記憶に新しい。2005年シラク政権時には従業員の解雇を容易にする新雇用契約法に反対するデモが行われた。ともに参加者は数十万〜数百万人に上る大規模デモとなった。

2015年に行われた反同性婚のデモ。当時、賛成のデモも実施された。

通常、デモの実施は警察への事前届出が義務付けられており、過激派が暴れたとしても、デモの開催地以外の場所や時間は、普段通りの生活が営まれる。

政府は、実害が出ない限りデモ隊を鎮圧しない。デモは市民の権利であり、それを対話の端緒として耳を傾け、政策を調整してきた。政治家が市民の声を無視することは、革命を経て培われた現代フランスのあり方として許されないからだ。 

ところが、マクロン大統領はこれまで、生活苦を訴える市民を前に、傲慢ともとれる姿勢で「国を良くする責任は、全国民が担え」と要求してきた。自身の出身で支持母体でもある富裕層や大企業・銀行の優遇政策をくり出しつつ、だ。

国民の代表であるはずの大統領のそのような態度は人々に受け入れられず、フランス全土で、デモのほか、道路や料金所の封鎖などの抗議行動が拡大。初動から4週間経った今も続いている。

長期デモ、じわじわと国民生活に影響

長期化する抗議運動は、じわじわと、国民生活に影響を及ぼし始めた。

例えば、通勤・通学に、通常の倍以上の時間がかかる。交通状況の悪化から遠足などのイベントが中止になる。地方の流通が滞り、生鮮食品などの小規模生産者の中には2日で百万円近い損失を被った人もいる。

クリスマス前のフランスは、1年で最も消費が盛んになる時節だが、デモが週末に開催されるため、商店を訪れる客が激減(フランスの商店は基本的に日曜休業)している。

南仏ニース・コードダジュール商工会議所による調査では、運動開始から売り上げが50%以上落ちた商店が15%あった。同調査では全体の8割近い商店が、少なくとも1割以上の収入減を答えている。

実際、これらの商店で働いているのは、黄色ベスト運動の参加者、もしくは彼らに近い社会階層の人々だ。運動の長期化は彼らの生活をさらに逼迫する。が、政府が市民の声に応えない以上、デモは続けなければならない、という認識が一般的だ。

「遅かれ早かれ、こうなっていたんです」

そう答えるのは、フランス中部で大企業の管理職を務める60代の男性だ。彼自身は黄色ベストの階層より余裕のある層におり、デモに参加はしないが、運動を支援している。

「フランス社会はここ40年間、少しずつ悪化してきた。政治家は市民の代表としての立場を忘れ、私利私欲に走ってばかり。経済活性化のために庶民は消費を求められるけれど、社会負担ばかり増え、購買力は落ちる一方です」

「市民は無視され、絶望しています。そんな時に社会がどうなるかは、歴史が証明している。絶望した市民が怒りに立ち上がるのは、当然の成り行きです」

「このまま政府が対応を誤り続けるなら、自分も黄色いベストを着る」。そうこぼす同僚が、彼の周囲にも出始めているという。

ついに対話に乗り出したマクロン大統領

「どんな税金も国の分裂には値しない」

デモの開始から3週間経った12月3日、エドゥアール・フィリップ首相は燃料増税施行の6カ月延期を発表した。また12月15日から翌年3月1日までを「国家大討論期間」と定め、全ての分野・階層の国民と意見交換をすると宣言。デモに対し、「対話」で応える姿勢を見せた。

燃料増税の延期を発表したエドゥアール・フィリップ首相

しかしフランスは大統領権限の強い国で、「首相は大統領のメッセンジャー」と揶揄する声もある。失言続きで口を閉ざしたマクロン大統領は、フィリップ首相を代弁者として、1週間以上表舞台から姿を消した。

「マクロンは何をやっているんだ」「ここでダンマリなんて、大統領としてどうかしている」

マクロン氏の資質を問う批判は、黄色ベスト以外の層からも強くなった。そして12月8日、第4回目を迎えたデモは勢いが衰えず、全国で約13万6000人が参加。市民と対峙し続ける警察隊や治安維持部隊の疲労が深刻視され始めた頃(彼ら自身も黄色ベスト層だ)、「マクロン大統領が国民への演説を行う」との報が流れた。

大統領5年任期の行方を決する、歴史的な演説になるーー。

全国民が注目する中、2018年12月10日午後20時、マクロン大統領の13分の演説が、地上波3局・ニュース専門番組4局で放映された。

演説するマクロン大統領。

「いかなる暴力も許されない」と演説を始めた大統領は、「しかし、その背景に市民の怒りがあることを、私は理解しています」と続けた。現状を「社会・経済非常事態」と宣言し、年金生活者、シングルマザー、障害者、低所得者など生活苦にある人へ平易な言葉で語りかけながら、「私の言葉が人を傷つけたこともあったと思う」と振り返った。

そしてデモを受けての具体策として、以下の政府対応を語った。

・最低賃金を月額100ユーロ(約1万3000円)引き上げる。雇用主負担なしに実施。

・年金受給者の社会保障費増額改革に受給額下限を設ける。

・今年の年末ボーナスを非課税とし、雇用主にボーナス支給を依頼する。

・富裕税は復活しないが、別の形での「貢献」を話し合うため、大企業・銀行を招集する。

・AmazonやFacebookなど、フランスで利益を上げている外国企業を免税対象から外し、国内収益分は社会保障税や税金を納めさせる。

肝心の燃料増税に関しては、演説では触れなかった。最後に、フィリップ首相がすでに告知した「国家大討論期間」に触れ、「意見を求める層を拡大する」と加えた。「国家のための新しい契約、その基盤を作るため、私自身が全国を回り、自治体の首長と話します」と語った。

日刊紙ル・フィガロによると、合計視聴者数は2300万人、視聴率は81.4%。同演説はラジオでも放送されたが、聴衆数が統計できないため、リアルタイムで演説を聞いた人数はさらに上回るといわれている。

マクロン大統領の演説に聞き入る人々

「今のフランスは、みんなが苦しんでいます」

マクロン大統領の演説を受け、国民の反応は様々だ。

まず、傲慢さが影を潜め、まっすぐな視線で語りかけた姿を「一山超えた」と評価する声。政策に関しては「実行性が疑われる」「肝心の増税に関しては何も言っていない」との批判と同時に、「確かに助かる層もいる」との受容の声も出ている。

黄色ベスト運動の参加者でも意見が分かれている。穏健派は「一時休戦で対話の扉を開こう。永遠に道路封鎖を続けるわけにもいかない」と語り、強硬派は「大討論期間が3カ月あるなら、抗議もその分続くだけだ」と息巻く。

「演説を見て、少しだけ、安心しました」

パリ郊外で小規模の画材工房を経営する40代女性は、ほっと息をつきながら語った。

「話しぶりから、市民の苦しみが伝わったことが理解できました。やっと対話が始まるのだと。対応策を批判する声もありますが、私は一定の評価をしたい。私自身、課税が大きすぎて、従業員に年末ボーナスを払えなかった経営者ですから」

デモには参加していないが、黄色ベスト運動に共感してきた。しかし今後はどうか意固地にならず、対話に向かって歩んで欲しいと言う。

「今のフランスでは、みんなが苦しんでいます。でも庶民も、政治家も、雇用主も、お互いを責めるばかり。お互いがどこにいるのか、何が困難なのかを見ようとしてきませんでした。黄色ベスト運動は、互いが向き合うきっかけをくれたと思っています」

有力政治家の一人、現ボルドー市長のアラン・ジュペは言う

「大統領は対話の道を作った。黄色ベストの人々にも、責任を果たして欲しい。これからは方法を変えて、差し出された手をどうか取って欲しい。私もあなた方と話す機会を作ります」

政治と国民、「対話」の行方は

レピュブリック広場近くのお店を閉鎖する人たち

12月15日の第5回デモは予定通り行われる見込みだ。

黄色ベスト運動が今後どのように収束して行くのか、その行方はまだまだ、見えない。たしかなのは、フランス市民が苦しんでいること。そしてその苦しみから上がった叫びが政治に届き、「対話」の道が開かれたこと、の2点だ。

フランス社会は過去150年、こうして歴史を刻んできた。デモと対話の繰り返しを、「社会の前進」という人も、「モラルの後退」という人もいる。しかし常に市民が声を上げ、政治がそれに耳を傾けた結果、フランスが欧州の盟主で居続けていることもまた事実だ。

これからの3カ月、国を挙げての大討論期間は、どのように進んで行くのだろう。そしてその結果見出される新しいフランスは、どんな姿をしているのだろうか。

消費社会で中流が薄くなり、貧富の格差が開いている現状は、どの先進国にも共通している。日本もまた、疲弊する資本主義社会の一員だ。

市民の声をどうやって政治に届けるのか。デモを介して国民と政治が対話をするフランスという国が、どんな回答を導き出すか。日本の未来を考える材料の一つとしても、フランスの今後を注視して行きたい。 

(文:髙崎順子、編集:笹川かおり)


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「2枚の写真かと思ったら1枚だった」 エチオピアの光景に世界が首をかしげた。

エチオピアの首都アディスアベバで撮影されたという1枚の写真が、世界に衝撃を与えた。どう見ても2枚の写真を並べてあるように見えるのだが、実は1枚の写真だというのだ。

12月13日ごろ、morphdarkoさんが画像共有サービス「reddit(レディット)」に投稿した

The pole in this picture makes it look like two different pictures. from r/mildlyinteresting

明るい晴天が広がる左半分と、曇り空のような雰囲気の右半分は実は同じ1枚の写真だというのだ。よく見ると、確かに電柱の左右で同じ光景だ。信じられない人は、拡大写真で確認してみよう。光線の加減でこのような奇妙な写真が生まれたようだ。

保健大臣のツイートによると、12月9日は、エチオピア全土で自動車の交通が禁止された日だった。

We are launching nationwide #CarFreeDay initiative beginning Sunday Dec. 9! Everyone is encouraged to go Car-Free & engage in bike ride🚲walking🚶‍♀️& running🏃‍♀️on the day. Roads in major cities will be cleared for a limited time for mass sport, health screening & educational events. pic.twitter.com/dkQNfa9oUZ

— Amir Aman, MD (@amirabiy) 2018年11月21日

アディスアベバは交通渋滞がひどいことで知られているが、この日は公道から自動車が消えた。morphdarkoさんは、「自動車の騒音が聞こえなくて、みんな歩いて移動してるのが奇妙に感じたので写真を撮りました。私の場所からは、人々が光の方に向かって移動しているように見えました」とredditに投稿している。

reddit上では「あなたが何を言ってるのか全く分からない」と戸惑う声の一方で、「こいつはすげえや」「アフリカに行きたい」などと称賛する声も広がっている。


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お風呂でスマホを充電してはいけない。ロシアで15歳少女が感電死

お風呂でスマホを使っている人は、このニュースを聞いたら震え上がるかもしれない。

ロシア・シベリアで、入浴中の15歳の少女が、スマートフォンを浴槽に落として感電死するという悲劇が起きた。

Newsweekなどの海外メディアが12月13日に報じた。

死亡したのは、シベリアのブラーツクに住むイリーナ・リブニコフさん。12月8日、スマホを浴室に持ち込んだが、濡れた手で持っていたため、浴槽に落としてしまった。

Yahoo!News UKによると、リブニコフさんは感電し、心臓マヒで死亡したという。スマホはケーブルに繋いで充電中だった。

両親が浴室で横たわるリブニコフさんを発見した際、既に死亡していたとみられる。

«И пусть счастье не оставит вас в покое.»

🇷🇺Russian Federation🇷🇺さん(@_sergeevna_pankration_)がシェアした投稿 – 2018年 2月月14日午前1時13分PST

リブニコフさんは、古代ギリシャの総合格闘技「パンクラチオン」の若手チャンピオンで、ロシア代表チームにも選ばれた実力の持ち主だった。友人やスポーツ協会などから、彼女の死を悼む声が上がっている。

イルクーツク国立大学無線電子学部のユーリ・アグラフォノフ部長は、「水は電流を伝えやすい性質があるので、スマホが水に落ちた時に電気がショートしたのでしょう。もし、スマホが220ボルトのコンセントに差し込まれていなければ、悲劇は起きなかったでしょう」とNewsweekの取材に話している。

充電中のスマホによる感電死は、過去にも各地で相次いでいる。

BBCによると、2017年3月にはイギリス・ロンドンで、32歳の男性が浴室でスマホを充電しながら使っていたところ、充電器が水に触れて感電死した。

2015年2月にも、ロシア・モスクワで24歳の女性が浴室で死亡。充電していたスマホを浴槽に落としたとみられている。


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SDGsの達成を目指して~「イコール・メジャーズ2030」~

12/10「人権デー」に調査報告書を発表

2030年までにジェンダー平等を達成しよう 世界的な大望は根拠あるデータとともに行動することで実現する

政策決定のためのデータの重要性は日々高まっています。SDGs(持続可能な開発目標)達成のためには根拠あるデータを、最良のタイミングに、適切な政策決定者やジェンダー平等推進者の手に届けることが重要です。

このような動きを加速するため、プラン・インターナショナルの呼びかけで結成したパートナーシップが「イコール・メジャーズ2030」(以下、EM2030)です。12月10日に70周年を迎えた「人権デー」にあわせて、調査報告書『イコール・メジャーズ2030:データが変化を起こす~SDGジェンダー指標~』の日本語版概要(PDF:1 MB)を発表しました。

調査から改めて見えてきたこと

85%のジェンダー平等推進者が政府のデータは不完全であると回答

2018年は、ジェンダー平等のために活動してきた、世界の約50カ国、600人以上の推進者に対する調査を実施しました。2015年のSDGsの制定からすでに3年が過ぎ、2030年の期限まで残すところ12年となりました。しかし、調査に参加した推進者の約半数は、過去5年間でジェンダー平等は何ら進捗が見られないと回答しました。また、85%の推進者が、女の子や女性の置かれている苦しい状況を反映した、男女別のデータ収集が徹底されていないことがジェンダー平等達成を阻む大きな障壁であると答えました。

ジェンダー指標で課題がより鮮明に

EM2030は、統計やジェンダーの専門家からの助言、政策決定者や推進者への調査を基に検討を重ね、現時点で12のSDGs目標に対して43のジェンダー指標を導入しました。2018年はこの指標を使い、昨年より対象国として選定されたコロンビア、インド、インドネシア、ケニア、エルサルバドル、セネガルの6カ国の現状を調査しました。

6カ国はそれぞれ地域や歴史的な背景が違い、経済発展の進捗、環境、宗教、文化などさまざまな要素が異なっています。同様に、女の子や女性が直面している困難も各国で異なっていることが鮮明になってきました。例えば、ケニアとエルサルバドルはともに低中所得国ですが、ケニアでは妊産婦死亡率や思春期の出生率が高いことが、エルサルバドルでは早すぎる結婚が多いこと、女性を対象とした殺人が頻発していることが課題として挙がってきました。一方で、法律や制度が整っていたとしても、実際には地域の慣習法が勝り、法が機能していないことや、ジェンダーに基づく暴力と女性の性と生殖に関する健康と権利は6カ国に共通する課題であることが再認識されました。

2019年にEM2030の指針を発表

2015年に193カ国が2030年までにジェンダー平等の達成を約束 私たちは正しい道をすすんでいるのか?

EM2030は、統計やジェンダーの専門家からの提言、政策決定者や推進者への調査を基に検討を重ね、12のSDGs目標に対して新たに43のジェンダー指標を設定しました。EM2030は、この43の指標だけで女の子や女性の抱える困難を見定め、ジェンダー平等にむけた各国の動きを捉えていくことができるとは考えていません。引き続き、世界の有識者からの意見を求め、意見をできる限り反映し、ジェンダー平等の進捗を測る指標の選定をしていきます。今後2019年6月までに指標選定を完了させ、対象国を6カ国からさらに増やすことを目指しています。

EM2030の調査結果はウェブサイトでもご覧いただけます。今後も最新の情報をアップデートしていきます。

イコール・メジャーズ2030「データが変化を起こす~SDGジェンダー指標~」英語版全編

イコール・メジャーズ2030「データが変化を起こす~SDGジェンダー指標~」英語版概要

イコール・メジャーズ2030「データが変化を起こす~SDGジェンダー指標~」日本語版概要

プラン・インターナショナル アドボカシーチーム澤柳孝浩 プラン・インターナショナル アドボカシーチーム

長野県出身。民間企業勤務を経て、2011年から公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンへ入局。水と衛生(ハイチ)、ジェンダー平等促進(グアテマラ)、南スーダン難民(ウガンダ)の支援などに携わる。2018年からアドボカシーチームで調査研究および政策提言を担当。


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サムスン電子中国法人が”偽supreme”とのコラボを発表した。

サムスン電子が中国でファッションブランド「Supreme」とのコラボを発表した。世界のヒップスターたちが歓呼したのもつかの間、とんでもない疑惑が浮上した。

サムスン電子がコラボを宣言した「Supreme」が、”偽ブランド”という主張が出たのだ。

WEIBO/SAMSUNG

サムスン電子の発表

サムスン電子の中国法人は12月10日、中国でGalaxy A8sの公開イベントを開催した。

このイベントでサムスン電子の中国法人の関係者は「Supreme」の代表2人を壇上に招き、コラボレーションを発表した。自身を「Supreme」代表だと主張する2人の男性は「今回のコラボをきっかけに北京に直営店を開く予定で、2019年には上海メルセデス・ベンツ・アリーナで初のランウェイショーを行う」と語った。

WEIBO/SAMSUNG

* 発表の様子はここで見ることができる。 32分頃からコラボについて言及する。

“偽ブランド”

しかし、サムスン電子とコラボする「Supreme」は、イタリアに本社を置く”偽ブランド”であることが分かった。テックメディア「THE VERGE」によると、”偽Supreme”はSupremeとの訴訟で勝訴し、商標権を使えるようになっていたという。

波紋が広がると、サムスン電子中国法人デジタルマーケティングマネージャーのレオ・ラウ氏は中国版Twitter「微博」で「我々はニューヨークに本社を置くSupremeではなく、イタリアのSupremeとコラボする」と説明したが、ヒップスターたちのからかいは収まっていない。現在、この投稿は削除された状態だ。

Supremeの立場

supremeはファッションメディア「hypebeast」の取材に対し、コラボは「事実無根」と明かした。これによると、Supreme側は「(イベントで発表された)主張は明白な嘘であり、”偽企業”によって誤って広められた」と主張した。

ハフポスト韓国版から翻訳・編集しました。


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「まさかそんなところで?」太平洋のある島の出産事情に思うこと

太平洋にある人口27万人の小さな国・バヌアツを知っていますか。日本ではまだまだ馴染みのない国です。私はその国のクリニックで保健師として2年間働きました。そこで出会った患者さんのストーリーは、日本の常識からはみ出るようなことばかりでした。でも、恋愛をして、結婚して、家族が出来て、という過程は国が違っても、根本は同じです。

全10回の連載で、バヌアツのディープな性事情を紹介しながら、そこから見える日本の性や生きることを皆さんと考えていきたいと思っています。

出産をする場所と言えば、皆さんはどこをイメージしますか。

多くの方が「病院」と答えるのではないかと思います。

日本ならば、出産場所も出産方法も、様々な選択肢から選ぶことが出来ます。

しかし、バヌアツには産む場所の選択肢はほとんどありません。

病院、診療所、自宅、または「まさかそんなところで!?」というケースにもしばしば出会います。

日本とバヌアツのお産の事情を比べてみると、バヌアツの出産事情に関する課題がたくさんあることを感じます。でも、課題だけではありません。

今ある限られた資源の中で、人々は出産をライフイベントの一つとして、自分たちで上手く対処しているバヌアツらしい強みもあります。産婦人科医師や助産師という専門職だけがお産を知っているのではなく、素人でも「人が生まれる」という過程を身近に感じる環境があります。

一方、日本の高い周産期医療レベルは本当に誇らしいもの。でも、「安全さ」を追求し「医療化」されすぎて、専門家にお任せしていれば安心という雰囲気になっているのかもしれない、と感じることもありました。

そう感じるようになったバヌアツでの経験の中から、今回はバヌアツの医療施設での一般的な出産、イレギュラーな場所での出産のストーリーを紹介しようと思います。

産後の避妊についての病棟巡回指導の際に出会った出産を終えた女性とその赤ちゃん

1.医療施設での出産

首都ポートビラの国立病院であるビラ中央病院の産科病棟は約40床。年間の出産件数はビラ病院だけで3000件、そうすると毎月の出産件数は250~300件、一日平均7~8件、というところでしょうか。日によって違いはありますが、とてもとてもとても忙しそうです。

子どもはたくさん生まれる、でもスタッフがいなくて大忙しのバヌアツの産科病棟。

妊婦さんたちはどのようなお産をしているのでしょうか。

バヌアツの産科病棟を見学させてもらったときの驚きや感心したことを、私目線でご紹介します。

<プライバシーという概念の違い>

●患者さんの病室、といっても大部屋にベッドが並んでいるだけ。一応カーテンはあるもの、カーテンを下げている人は殆どいない。日本だとプライバシーがない、って驚かれるかもしれない。でも、バヌアツでは人との距離感が近い。カーテンがなければ、妊婦さんも付き添い者も自由に周りの人と話し出す。「先生に診察に呼ばれたから、私の赤ちゃん見ておいてね」と言って、お隣さんにお任せしていることも。自分と他人の境界線が曖昧だからこそ成り立つバヌアツらしい人付き合いの様子を、病院でも感じます。そして、病室には付き添いやお見舞いの女性がたくさん。みんなちょっぴり肥満体型でお腹が大きめなので、妊婦・産後のママ、付添者の区別がつかない!笑

病室の一角。カーテンが仕切られている様子を見たことがありません。

<母親に授乳指導や沐浴指導はしません!!!>

●病院には「新生児室」という場所はありません。母子は出産後から退院まで24時間一緒に過ごします。そして、母体にも子どもにも問題なければ翌日には退院。日本のように、出産後に授乳や沐浴などの退院指導は一切ありません。では、母親達はどうやって新生児を面倒見る方法を習得するのか?これも家族のサポートが大きいのです。病院のベッドサイドには家族や親戚が来て身の回りのお世話を手伝っています。母乳をあげるのも、沐浴させるのも、洋服を着替えさせるのも、布おむつの当て方も、看護師や助産師は一切お手伝いをしませんが、家族や親戚の女性達が母親をサポートしています。

バヌアツの産科病棟を見学して感じたことは、病院はあくまでも「出産」をお手伝いする場所、ということ。生まれる前、生まれた後のケアは家族や友人、入院中のママ同士で行います。

医療職者の役割は何なのか?

お産を取り上げるだけでいいのか?、、、そんな疑問を感じました。

もちろんバヌアツ人助産師達も、せっかく病院に来ているのだから、良いケアを提供したい、というのは感じていることです。でも、やりたくても出来ない、どこからやればいいのか分からない、日々の仕事で精一杯。というのが、今の現状でした。

日勤帯の助産師は3人のみ。実習生の存在は日々の病棟ケアを行う上では大切な存在。

では、続いて病院以外で起こる「まさかそんなところで!」な出産エピソードのご紹介。

2.医療施設以外で起こった出産例

前回の妊産婦検診についての回で紹介したように、島や村では医療機関へのアクセスにはたくさんの課題があります。まったく健診を受けずに自宅出産をするケースもありますが、病院に向かう途中で「生まれちゃった」ケースもたくさんあるのです。

Case①「島からの搬送中に、、、」

産科病棟で出合ったお母さんとご家族のお話。

母「島で健診を受けていたんだけど、逆子だって言われて念のためこっちに移動してきたの。でも、移動している最中に子どもが生まれちゃったのよ!大変だった~!」

私「移動中に生まれるってどういうこと?」

母「飛行機のなかだよ!」

私「!!!(驚きのあまり言葉が出ませんでした。)」

逆子の赤ちゃんを飛行機で無事に出産できたことに心の底から驚き、そして疑問が次々と溢れます。

誰が介助したんだろう?一体どうしたら飛行機の中で出産できるんだろう?(ちなみに、首都とその島間の飛行機は定員10名くらいの小型飛行機で、大人が横になることは難しいくらいの狭いスペースです。)母子ともに無事であることが奇跡だと思いました。

小さな島同士を結ぶ小型プロペラ機。定員は10名ほど。

ケース②「私が出産の介助したんだよ!」

クリニックにてボランティアとして手伝ってくれていた助産師志望の女子学生のお話。

私「どうして助産師になりたいの?」

女学生「私の村はヘルスセンターから遠くて村に看護師もいないところ。自分の親戚が妊娠しているときに、ヘルスセンターに間に合わなくて、私が赤ちゃん取り上げたの。助産師になって自分の村に戻りたいんだ。」

その時の年齢は16,17歳ぐらいだったそうです。そんな状況に居合わせて手伝えた彼女も凄いし、そんな経験を経て助産師を目指している彼女を尊敬しました。

彼女の例以外にも、「道端で赤ちゃんを取り上げた」とか「入院中に院内を散歩していたら庭で赤ちゃんが生まれた」とか、驚きエピソードは何度か耳にしました。

「もう数十人の孫とひ孫はいるけれど毎回嬉しいのよ」と話すおばぁちゃん。

そんな話を度々耳にしますが、それはきっと無事に生まれたから話せる一つの武勇伝なのでしょう。妊産婦死亡率は出生10万人あたり約80人で、日本の約30倍という規模で起こっています。

安全なお産が出来るように、検診を受けてもらおうと啓発活動を行っていますが、離島や村へは医療者も頻繁に行き来することが難しいのです。物理的に村へのアクセスが悪いところは、教育や情報についての考え方も閉ざされたままのことが多くて、首都と同じレベルでは話が進んでいきません。(第4回にて詳しく)

出産に関する知識も同じで「今まで大丈夫だったから今回も大丈夫」という考えが、僻地の島や村の母親達やコミュニティにあります。設備の良いヘルスセンターや病院への受診を勧めますが、アクセスの問題や金銭的な問題を考えると、彼らの考え方を変えるのは一筋縄では行かないのです。

「出産は病気ではない」けれども「正常を逸脱するリスク」が存在するライフイベント。

バヌアツの妊婦さん達が、安全で安心できるお産が出来るようになるまでは、まだまだ課題がたくさんありそうです。


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