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男性育休「義務化」は、「誰かが悪役にならなくては」。 議連発足、自民・和田義明氏の決意とは

自民党の和田義明衆院議員

男性の育児参加を促そうと、5月23日に自民党有志による「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟(仮称)」の発起人会が開かれる。

議連発足の契機は、2018年12月に行われた自民党女性活躍推進本部(森まさこ本部長)の会合で、和田義明衆議院議員が「男性の育休は義務化すべきだと思う」と発言したことだった。育休「義務化」への思いを聞いた。

 

「文化を変える。荒療治が必要だ」

ーー「義務化」というワード、思い切りましたね。

潜在的なニーズは感じていたんです。この話をすると、友人でも顔色が変わるほど「本当にやってほしい」という人がものすごく多くて。特に女性は「絶対やって」と切実。男性も取れるものなら取りたいけど、そんな雰囲気でも文化でもないし、というところですよね。

日本の育休は、これだけ以前からいい制度があるのに、取得が進まない。これは文化を変えなければいけない。荒療治が必要だ、と。そういう意味で「義務化」という刺激的な言葉を使いました。それくらいの覚悟でやらないと実効性が担保できない、という切迫した思いがあった。

 

ーー「義務という形で強制するべきではない」というような反発もあるのでは?

報道を見て、地元・札幌の事務所には「中小企業でできるわけがない」とお叱りの電話もありました。経営者の団体、企業の団体からは反発が強いと思う。ただ、中長期的に見れば、「このままではあなた方の未来がないんですよ」ということを丁寧に理解を求めていかなくてはと思っています。

それから、男女とも親の責務は果たしましょうよ、と。日本の一番の問題は少子化ですよね。教育無償化とか対策はやってはいるが、特効薬はない。効くだろうということを、ひたすら打ち続けていくしかない。そして、男性が子育てをすることによって、状況は必ず変わってくる。最大の国益につながる政策の一つだと思っています。

 

ーー議連のゴールは? 「義務」を盛り込んだ法改正も検討していますか?

「義務化」というのは職場側に対するメッセージですよね。議連として目指すのは、法改正というよりも、一定期間、きちんとした期間の育児休業を取りましょういうことと、取得率100%。

ただ子どもとベッタリ一緒にいるのではなく。育休を5日取っても、その後の働き方が変わらなければ意味がないわけです。きちんと育児参加が定着していくことが大事。休むばかりでは限界もあるでしょうが、そもそも現行の育休制度では、育休中でも月80時間までは働くことが可能です。こうした制度や時短勤務などの軽勤務をミックスしてもいい。

 軽勤務は有効活用するればサステナブル(持続可能)だと思うんですよ。じゃあ、育休を何日取るのがいいのか。軽勤務はどれくらいの期間なのか。まだ議論すべきところは色々あって、時間をかけて切り崩していく必要があると思っています。

もちろん法律に落とし込むのは簡単ではない。理念法かガイドラインか分からないが、企業や団体が動いてくれるようなものを作る。何より実効性が大事なので。

 

専業主婦家庭でも、子育ての感動を知らない父親でいいとは僕は思わない

ーー「取りたくない」という人にはどう対処しますか?

うーん、本来なら、職場が「育休を取りなさい、ちゃんと子育てをしなさい」と言ってほしいですね。ただ、個人の働き方の自由を踏みにじってまで、というのはなかなか難しいとは思います。

でも、専業主婦家庭であっても、お父さんが子育てにノータッチでいいとは思わない。僕自身の経験ですけど、子育てに関与することで今まで考えてもみなかった絆や感動が生まれた、というのがある。そういうのを知らないまま父親でいることと、知らずに父親でいることの差は大きいと思います。どなたに対しても、子供と接する経験を一定期間持って欲しいなと思うし、そこを知らずに父親でいていいという風に僕は思わない。

 

ーーご自身、育休の経験は?

5年前に長女が生まれた時は、商社に勤めていました。育休は取らなかったし、発想がなかったです。ただ、平日は妻に任せていましたが、週末は3食作ったり、平日も夜泣きで起こされたり。限られた時間で子どもにはできるだけ関わりました。

赤ちゃんて、何を思って泣いているのかも分からない。どう対処していいかも分からない。怖いですよ。離乳食なんて、せっかく作って食べさせてもすぐ吐き出すし。

限られた時間でも向き合うのは大変なので、毎日1対1で向き合ったら発狂するなと思いましたね。生まれるまでは「母親なんだから根性で乗り切れるんだろう」と思っていた部分も正直あったので、世の中のお母さん方に酷なことを思っていたんだなと反省しました。

今は5歳ですけど、街中の僕のポスターを見て「パピー」と言ってくれます。毎週月曜日は涙、涙です。

 

ーー事務所にも娘さんの描いた絵や写真がありますね。今なら育休取りますか?

取りますね。もともと海外生活が通算10年あり、日本のワークライフバランスはおかしいと思っていました。海外だと父親と母親が両方育児をする、というのはごく当たり前。価値観は人それぞれで、一言でカテゴライズはできないけれど、多くの父親は子育ての義務を果たしていないという気持ちがあった。

それに、少子化対策になる、虐待防止にもつながる、という以前に、単純に子どもといて日々の成長に関わるのは楽しいですもん。ハッピーになれる。

 

 若手の男性議員は「すごく前向き」

ーー議連には男性議員が多いとか。自民党の男性議員が?と少し驚きました。

そんなこと言わないでくださいよ。このテーマは、男女両方の議員がやらないといけない。いろんな議員に声をかけましたが、1〜3期生ぐらいの男性議員はすごく前向きです。パワフルな議連になると思う。

党内でも男性の育児参加のニーズは理解されているし、「男は外、女は家」という感覚をまだ持っている人は、僕らくらいの年代ではいないと思いますよ。

 

ーーもう一つ。義務化反対の声として「育休を取ってもきちんと育児に関わらない夫が多い」というのもあります。

どうしたらいいんでしょうね? 職場でも研修すればいいと思うけれど、社会人になってからの頭の切り替えは難しい。学校教育でもやらないといけないんだろうとは思いますね。

 

ーー動き出せば色々な抵抗もあると思います。理解は得られるでしょうか?

こういうことをやらない企業は、人が採用できなくなるんです。生産年齢人口が今後激減し、企業に人が行き渡らなくなる。国民のみなさんの価値観も、「お給料だけではなく、ワークライフバランスや達成感を大事にしたい」と変わってきた。企業も変わっていかないと生き残れなくなるんですよ、と。避けて通れないものを見ないふりするのは誠実ではない。

なかなか政治家の口から言いづらいですよ、はっきり言って。でもしっかり言っていかないといけないし、理解してもらわなくてはいけない。誰かが悪役にならなくては。企業のためなんです。働き方改革も、なんやかんやでそうやって切り崩していったんですから。

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ホスト歴14年の僕が、寿司屋の大将になった理由。

お寿司を作るSHUNさん

僕は歌舞伎町のホストクラブ「Smappa! Hans Axel von Fersen(スマッパ・ハンス・アクセル・フォン・フェルセン)」で代表を務める現役ホストです。

18歳でホストになってから14年。ホストの仕事を続けながら、このたびまったく新しいチャレンジとして、寿司屋の大将になりました。

5月2日にオープンした「へい らっしゃい」というお寿司屋さんで、大将として毎晩寿司を握っています。

ホストと寿司職人のダブルワーク。

色々な方に「なんで!?」と驚かれましたが、僕の中では二つの職業は繋がっています。

SHUNさん

ホストクラブで感じていた、女性ならではの選択肢の少なさ

僕がなぜ寿司屋をやろうと思ったのか?

それは「女性の楽しめる場所を増やしたい」と思ったからです。

ホストになって14年、ホストクラブにいらっしゃる沢山の女性と話してきて、女性が社会で物凄く抑圧されていることを知りました。

夜遊びに関していえば、男性だけで行きやすいお店や、男性しかいけないお店は沢山あるのに、女性が気軽に遊びに行ける場所は少ない。更にホストグラブに行くことが、“悪いこと”のように思われてしまい、人に隠れて行かなければいけない状況。

もちろん、ホストクラブを選んで遊びに来てくださる女性たちには感謝しかありません。

しかし、男性よりも女性の方が選択肢が少ないということには、ずっと違和感を覚えてきました。

そこで僕は、女性がもっと気軽に来れる”遊び場”を提供したいと思いました。

なぜ「寿司屋」なのか

ではなぜ、寿司屋なのか。それは、これまでホストとして働いていく中で、女性に好きな食べ物を尋ねた時に、一番多かった答えが“寿司”だったからです。

僕自身、親族が経営する寿司屋を幼いころから間近で見てきたこともあり、寿司の世界に魅了されている人間の1人。

「へい らっしゃい」をオープンするにあたり、6カ月の間、親戚の寿司屋で修行をさせてもらいました。

ネタは毎朝、親戚と付き合いのある豊洲の鮮魚店から仕入れています。

Smappa!Groupの皆さん

なぜダブルワークなのか

ホストと寿司屋、なぜダブルワークなのか。

寿司屋一本で行けばいいのではと思われる方もいらっしゃると思います。

ダブルワークがベストかどうかはわからない。

でも、僕たちベテランホスト達が、これからどういう生き方をしていくのか?

というのが、我々の業界の課題なんです。

女性のお客様が「遊びにいきたい」と思った時、お寿司屋さんを選ぶ方もいればホストクラブを選ぶ方もいる。どちらも同じように選択肢として提案したいと思うんです。

それに、僕は14年間続けてきたホストという職業に誇りを持っています。これからもホストをやっていきたい。その中で、このキャリアを活かして、ホストのおもてなし精神が、他のサービス業でも通じることを示したい。

そんな思いから、今日も僕は、17時から寿司を握り、21時になったらホストクラブで、ホストとしてお客様を出迎えています。

おこがましいかもしれないけれど、僕みたいにダブルワークをするホストの存在が、一つの生き方の提示になればと考えています。


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「これじゃ日本の女性は輝けない」 男性育休”義務化”に自民・松川るい氏が込めた思い

近く発足が予定されている自民党有志による「男性の育休“義務化“を目指す議員連盟」。設立の中心メンバーとなったのは、和田義明氏と松川るい氏らだ。

2018年12月に行われた自民党女性活躍推進本部(森まさこ本部長)での会合。和田氏が「男性の育児休業は義務化すべきだと思う」と発言し、松川氏が和田氏とともに森まさこ氏に働きかけ議連の設立へと動き始めた。

多くの議員や地方の中小企業にも賛同してもらうため、議連が第一の狙いとして掲げたのは男性育休が円満な夫婦関係にもつながり「少子化対策として有効」ということだ。

そこには、二児の母である松川議員自身の経験から、「家事育児をしなかった」夫への不満が爆発した経験も大いに影響しているのだという。

「夫のような男性が多いから日本の女性は輝けないんだ」

ブログ会合で何度も「男性育休の義務化」を言葉にするなど、男性の育児参加の必要性を訴え続けてきた松川氏に思いを聞いた。  

「夫はかつて、家事と育児を全くしない人でした。同じような職場に務めて同じ額の給料をもらっている夫婦なのに、全部私が負担していました。『お皿ぐらい洗ってよ』と言ったら、本当にお皿だけ洗ったんですよ、お茶碗は残して…。怒り心頭です。なんで私ばっかりって。アンフェアだと思いました」

「『ママだから子どもを見るのは当たり前』とか、『女性と男性は違うんだ』とか。諸外国では外交の現場で活躍する女性たちもたくさんいるのを目の当たりにしていましたから、『夫のような男性が多いから、これじゃ日本の女性は輝けないんだ』と確信しましたね」

 

 

女性が外で働くためには家事育児の夫婦での分担は欠かせない。加えて、夫の育児・家事分担時間の多い家庭ほど、第2子以降が生まれる可能性も高いことが明らかになっている

「夫がイクメン・カジメンだったら、もしかしたら私は政治家になっていなかったかもしれません。24時間しか時間がないのは男性も女性も同じ。女性が男性に比べて過大な時間を家事育児に差し出させられていて、男性同様に活躍できるはずはありません。その時は、2人目の子供を産んで、また、私が全部負担するなんてまっぴらごめんだと思いました」

「統計上も家事育児を夫が分担しない夫婦には第2子以降が生まれる確率が低いことが明らかになっていますが、実感としても当たっています。逆に言えば、夫が家事育児をきちんと分担すれば、子供が増え、活躍できる女性が増えると思います」 

 

 

「10カ月前から分かっている出産、休めないのはおかしい」

「義務化」を言い出した和田氏をはじめ、議連メンバーには男性議員も名を連ねる。 

「男性にとっても、子どもを育てる喜びを分かち合うことで、より家庭円満につながるのではないでしょうか。離婚率低下にもつながるでしょう。丸1か月の育休を取ったある男性キャスターも、子どもと妻との距離が変わった、育休を取って本当に良かった、としみじみおっしゃっていました」

「議連だって、男性である和田義明議員が『育休を義務化すべきだ』と発言してくれたから、つまり、男性自身も育休が必要と思っているんだと確信できたたから、よしやってみよう!と思えたのです。女性だけで男性に育児休業取得を働きかけてもきっと響かないと思っていました」

とはいえ、企業側からの反発は予想される。

「男性の新入社員の8割は育休取得を希望していますから、若者は間違いなく喜ぶでしょう。けれど、『男性社員全員が育休を取り始めたら仕事なんて回らないだろう』とは言われるでしょうね」

「でも、企業にとっても属人化してしまっている仕事のやり方を、外国人含めより多様な人材が担えるようにモジュール化するきっかけになりますし、人手不足の時代に優秀な若者を採用するための戦略の一つにもなると思う。骨折したって社員が1〜2週間休むことはある。出産は10カ月も前からわかっているのですから、3〜4週間休ませることができないってことは無いと思うんですよ」

多忙を極める外務省でも、松川氏によると職員が2週間の夏季休暇を取得することが「当たり前」になっているという。そのターニングポイントを目の当たりにしたことも、松川氏が「義務化」というトップダウンでの改革が有効になると考えた理由だ。

「ある年、事務次官が『上司は部下の職員に2週間の休みを必ず取らせること』と発言されたんです。それだけで雰囲気がガラッと変わりました。男性の育休も同じ。経営トップが『部下に男性育休を必ず取らせないとマイナス査定にする』と宣言するだけで全然違う雰囲気になるでしょう」

「『うちの社員は育休を取りたいとは言ってこないんだよね〜』ではダメなんです。男性社員にはまだまだ自分では言い出せない状況があるんですから」


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「誰一人取り残さない社会に向けての、第一歩になりたい」 世界一周の船旅・ピースボートが目指すもの。

ピースボート 恩田夏絵さん

居酒屋のトイレに行くと、目にすることの多いあのポスター。

 「ピースボート」だ。

 船旅で世界一周するということは、なんとなく知っていても、具体的な内容については知らない人も多いのではないか。

 ジャーナリストの堀潤さんが司会を務めるネット番組「NewsX~8bitnews」5月6日放送のテーマは「分断の時代、対立を乗り越えるために」。ピースボートの恩田夏絵さん、畠山澄子さんがゲストとして登場し、その取り組みについて語った。

 1983年に設立された日本生まれの国際NGO、ピースボート。2019で設立36年目だ。「みんなが主役で船を出す」を合言葉に、地球一周の船旅を通した顔の見える国際交流をコーディネートしている。これまでのべ7万人の参加者と世界中200以上の港を訪問してきたという。

 ピースボートの始まりとなったのは、当時国際問題となっていた「教科書問題」だったという。

 日本の歴史教科書検定の際に、日本のアジアへの軍事侵略が「進出」と書き換えられるという報道に対して、アジアの人たちが激しく抗議したという出来事だ。

「このとき、学生たちが、自分たちが学んできた歴史は本当のことなのか、自分たちの目で確かめに行こう、と始めたのがピースボートなんです。その土地を訪れ、そこで生活している人たちと会って、いろんな体験をする。悲しいこともあるし悔しいことも楽しいこともあります」(恩田さん)

 初めはアジアの4、5港を回っていたのみだったが、90年代から世界を回るようになった。

 船旅の間、訪れる先では、そこの人たちが直面している課題にも触れることになる。そこから様々なプロジェクトが生まれてきた。

 貧困や震災で苦しむ地域を訪れ、日本からの支援物資を届けるプロジェクトや、カンボジアの地雷廃絶のためのキャンペーンなどが一例だ。

「船なので、物資も運んでいけるんです。例えば『ピースボールプロジェクト』では、日本で使われなくなったサッカーボールやスパイクを持って行って、貧しくてサッカーボールを買えない地域の子どもたちに渡しています。楽器を集めたり、文房具を集めたりすることもある。これまでいちばん大きなものでは、救急車をキューバに持って行ったこともあります」(恩田さん)

 さらに、100日間のクルーズを終えた後も、自分が属するコミュニティで平和の担い手になっていってほしいという思いから、ピースボートでは「地球大学」という活動を行なっている。船上では「ゼミ」がありゲスト講師を招いて講義が行われ、寄港地では体験的に理解を深め、自分の問題としてとらえる視点を養う。

 地球大学を担当する畠山さんが説明する。

「例えば、カンボジアのキリングフィールド(大量虐殺が行われた処刑場)に行ったときのことです。頭蓋骨がタワーのように展示されているのを見たときに、私を含め日本からの参加者は『なんて辛いことが起きたんだろう。二度とこういうことを起こしてはいけないなぁ』と考える。その横で、スリランカから来た子たちは怒っていました。『頭蓋骨を見世物にするのは侮辱ではないか』と。こうした考え方の違いを受けて、じゃあどういった歴史の継承の仕方があるのか、過ちを起こさないためにどうしたらいいのかという議論を、船に戻った後で深めていきます」

 国連との特別協議資格を持つNGOとして、「持続可能な開発目標」 (SDGs) の達成を目指すさまざまなプロジェクトにも取り組むピースボート。

「私たちは、誰一人取り残さない社会を実現しようというのをテーマにしています。平和というと先進国が途上国を助けてあげるというイメージをしがちですが、そうではなくて、対等なパートナーとして一緒に持続可能な世界を目指していく。先進国と呼ばれている国にも取り残されてしまっている人、苦しい思いをしている人はいます。そういう人に目を向けられる人を作ることも、平和や持続可能な社会への第一歩なのではないかと考えています」

【文:高橋有希/ 編集:南麻理江】

堀潤さんがMCを担当する月曜の「NewsX」、次回は5月20日夜10時から生放送。番組URLはこちら⇒https://dch.dmkt-sp.jp/title/tv/Y3JpZDovL3BsYWxhLmlwdHZmLmpwL2JjLzBjMWQvNWU3MQ%3D%3D


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元TBSアナ、今は広島・原爆被害の伝承を目指す研究者に。久保田智子さんがオーラル・ヒストリーを学ぶ理由

かつては女性アナウンサー。今は原爆被害の伝承を目指す研究者──。そんな異色の経歴を持つ人がいる。久保田智子さん。TBSのアナウンサーとして数々の番組を担当し、ニューヨークに取材記者として派遣されるなどの活躍をしてきたが、今は広島の原爆被害などを伝える活動をするため、オーラル・ヒストリーの手法を東京大学大学院で研究している。

オーラル・ヒストリーとは、人々が語ったことを記録し、歴史の検証に生かす手法。久保田さんはなぜ、人生の「転換」を決心したのか。本人に聞いた。

元TBSアナウンサーの久保田智子さん

事実よりも大切な、1人ひとりのストーリーを残したい

──「オーラルヒストリー」と出会ったきっかけは?

夫の転勤でニューヨークに行くことになって、会社を退職するというタイミングでした。

走り続けてきた仕事から解放されたし、せっかくアメリカに行くのだから私も何かしたいと考えた時、自分が広島出身であることを生かして、被爆者たちの声を世界に広めるお手伝いが出来たらいいなと思ったんです。

それで色々と情報を調べているうちに、今の研究と出会ったんです。 

Facebookの広告に出てきて、「やってみたい事、これだ!」って。現代のアルゴリズムって凄いなぁと感じましたね…(笑)

それをきっかけに、2017年9月から米・コロンビア大学の大学院でオーラルヒストリーを学ぶことになりました。

──インタビュー自体は局アナ時代にも数多く経験してきたと思います。インタビューとオーラルヒストリーにおける違いは、なんでしょうか?

当初は、これまで仕事でインタビューをしてきたし、ある程度インタビューの基礎がある中でそれを深めていけるだろうと思っていたんです。

ところが、実際はとんでもなく…学んでみると方法論が全く違いました。

局アナ時代のインタビューは、客観的な視点に立った上で、かつ時間という制約がある中で、常に事実を探すという姿勢でした。

一方でオーラルヒストリーは、むしろ逆に時間をたっぷり掛けて、話し手のペースに寄り添って聞くことに重点が置かれています。事実の追求よりも”意味付け”の方を重要視するんです。そして私にとっては、こちらの方がしっくり来たんです。

例えば、1945年8月6日に広島に原爆が投下されたということは日本人なら誰もが知る事実ですが、オーラルヒストリーは、そのことが1人の個人にはどんな意味をもったのかを考えるということ。

被爆経験者の方で今もご存命の方は、被爆した当日よりも、今に至るその後の人生の方が大変な苦労をされています。

ただ、現代の平和学習って、その部分がすっぽりと抜け落ちてしまっているように思うんですよね。原爆が投下された当日のことを伝承することだけで終わってしまっている。新たな時代を迎えた中で、平和学習の形骸化は特に問題だなと感じます。

じっくりと話を聞いて記録するからこそ、一つの事実から立体的に歴史が見えてくる。

今、広島市が養成している被爆体験伝承者になるため、研修を重ねている最中ですが、そんな自分も話を聞くたびに「知った気になっていたんだなぁ…」と改めて思います。

──文献ではなく、口述の記録を残すことへの価値はどこに感じますか?

単に事実だけを並べられても、やはりそこに感情が伴ってないものって頭に入ってこない。歴史の文脈をきちんと残すことに価値を感じるし、それには感情が乗った”活きた会話”が大切だと思います。

原爆投下の経験の伝承に限らず、例えば平成の30年間でも、東日本大震災をはじめ、甚大な被害をもたらした自然災害が本当に多くありました。ですけど、だいたい”震災”とかそういう風に大きな枠に括られてしまうじゃないですか。

そうではなくて、一人ひとりのストーリーとして、その人にどんな意味があったのかということを掘り下げることを大切にする。文献を遡ったり、事実を追求する報道とはアプローチが違うんですよね。 

TBS退社後、久保田さんは米・コロンビア大学の大学院でオーラルヒストリーを学び、修士課程を修了した

オーラルヒストリーは深刻な世界の「分断」の解消に繋がる

──研究を進めてみて、見えてきた事はなんでしょうか?

世界の「分断」が深刻だ、ということは感じましたね。

──なぜ、そう感じたんですか?

特に社会の分断が深刻なアメリカの状況を見ていると、例えばトランプサポーターの人たちは、相手側の話を聞かない。一方リベラルの人たちも、「トランプ」という冠が付くことに対しては、とにかく聞く耳を持たない。2016年の大統領選の頃からそうですが、互いが話し合う状況がすごく難しくなっています。

その理由は、互いに対して何らかのバイアス(先入観)を持ってしまうからなんですよね。まだ何も話を聞いていないのに、何らかのバイアスを掛けてしまっているという状況。

ただ、このバイアスを無くす事に、オーラルヒストリーは貢献できるのではと感じます。

──具体的にどういうことでしょうか?

人の話を聞く時、「どうせこの人はこういう人なんだろう」という先入観を持ったり、既に分かったつもりになったり諦めた上で聞いてしまうことが多いと思うんです。

例えば、「被災者だからきっと大変なんだろう」「被爆者の人はこうなんだろう」とか。

オーラルヒストリーのアプローチは、「分かってないかもしれない」という前提の下で、相手の視座に立って話を聞いてその証言を残すことなので、1つ1つそのプロセスを積み重ねていけば、少しずつでも分断された溝が埋まっていって、解消に繋がるのではないかと思います。

──実際に、オーラルヒストリーの実践は進んでいるのでしょうか?

日本ではまだまだ発展途上ですが、アメリカではマイノリティの人たちのボトムアップのためにオーラルヒストリーが活用されています。

例えば、黒人差別の撤廃や女性の地位向上、LGBTQなどといった議論でも社会的なインパクトを持たせるための手段の1つとなっています。

大切なのは、その人たちを一つの枠に当てはめずに、声をあげる一人ひとりのストーリーを先入観なく聞くこと。そうじゃなきゃ変われないですから。それが、本来の意味での「寄り添う」ということなんじゃないかと思います。

米・コロンビア大学大学院でのオーラルヒストリー研究発表会後=2018年4月18日撮影

”歴史の継承”において、AIにはまだ限界がある

オーラルヒストリーは何度も何度も当事者の元へ足を運び、証言を記録する。将来アーカイブに残すために録音するインタビューは、時に1回につき3時間から5時間を超えるという。手法としてはかなりアナログな作業だが、近年では技術革新が進み、人工知能によるインタビューの実施例も出てきた。

しかし歴史の伝承においては、AIにはまだ人間に取って代われない、と久保田さんは話す。

──なぜ、そう思われますか?

やっぱりインタビューって、人と人とのやりとりなんですよね。その場の雰囲気でどう自分が返すか、当事者が何と言うかとか…。例えば、場所や空間一つ取っても、引き出される話や証言は変わりますから。

その「空気感」を含めたやりとりは、これからの時代でも、人と人とのやりとり以外に取って代わるものはないと思います。

──実際、AIによる伝承やインタビューも実践されたりしています。これについては、どう見ていますか?

南カリフォルニア大学を拠点とする研究機関が、博物館での展示を目的として、ホロコースト・サバイバー(第二次世界大戦時、ナチス・ドイツがユダヤ人に対して行った大量殺戮の生存者)の方々の姿をホログラムで投影して、録音された証言を聞くことができるという試みをやっています。

それで私も実際に過去の人々と対話をしてみたんですが、ホログラムとの1時間のオーラルヒストリーのインタビューでは、証言を聞いていても向こう側は私の反応を見ることが出来ません。一問一答みたいな淡白なやりとりになってしまって、非常に機械的でした。

結局、人間と人間の間に成り立つような対話のダイナミズムというか、残していくべき文脈が読み取りにくいんですよね。あくまで今の時点ですが、そこにAIの限界を感じました。

──今後は、どうなっていくと思いますか?

最近、人間がやってきたことがどんどんAIに取って代わられると言われていますけど、使い方次第だと思います。人間にしかできないものと、AIに任せた方が良いものの2つに分かれていく気がします。

単に情報を伝えるだけだったらAIでもいいかもしれないですが、インタビューみたいなものは、今後も人間が担っていくべきだと思います。

ただ、オーラルヒストリーを通じて集めた証言をどう世界に広めていくか、という点についてはテクノロジーを積極的に活用すべきなのかなと思いますね。

最終的にはより身近で”カジュアル”な伝承手法を築きたい

──オーラルヒストリーを応用して今後実現したいことは何ですか?

今はまだ被爆体験の伝承や過去の戦争の話などに限られた形ですが、これから実現したいのは「家族」など小さな単位を対象とした伝承です。

「インタビューをしてみたい」という家族にインタビューに臨んでもらい、録音したものは後日差し上げるという取り組みを考えています。

──大きく・広くではなく、小さく・狭い範囲ですね。その意図は?

実際にインタビューをしてみると、身近な存在なのに自分の家族や身内のことを案外知らない方が多いと感じたんです。

例えば祖父や祖母が孫に過去の経験を声で残せたら、それも伝承の一つの形となって、もしかしたら家族にとって宝物になり得るし、音として記録に残すことで、「聞きたかったのに、聞けなかった」という後悔もなくなる。

社会的にも大きな意味があって、音源をアーカイブ化することが出来れば後世に資料として残るので、時代が進んでもそれを元に誰かが研究できる。

だからこそ、今後は戦争体験などを伝承するという目的の範疇を超えて、よりカジュアルな形で家族や友人の間で簡単にインタビューを残すという手法を確立したいんです。

元号が「令和」に変わっても、私はむしろ「時間に区切りがない」ということを意識していきたい。

伝承のために社会にとって自分が出来ることを探して、それをこれからも進めていこうと思っています。

2019年4月からは東京大学大学院の博士課程で研究を続ける元TBSアナウンサーの久保田智子さん

(聞き手・執筆:小笠原 遥)

健康な地球で、みんなが平等に平和に生きる。

2030年に、それを実現するための目標がSDGs(持続可能な開発目標)です。
ハフポスト「はじめてのSDGs 」では、日本をはじめ世界中の問題や取り組みを紹介。

私たちに何ができるんだろう… みんなで一緒に考えてみませんか?


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『進撃の巨人』エレン役の梶裕貴さんが声優を続ける理由 「悔しくて、諦めたくなかった」15年の歩み

インタビューに応じる梶裕貴さん

進撃の巨人」の主人公エレン役を務める声優・梶裕貴さんが、デビュー15周年を迎えた。4月下旬には、最新シーズンが始まった。

最近では週刊少年ジャンプの人気作品「鬼滅の刃」で錆兎役を務めるほか、これまでに週刊少年サンデーの「マギ」のアリババ・サルージャ役や、週刊少年マガジン「七つの大罪」の主人公メリオダス役を担当している実力派だ。

声を吹き込む仕事だけでなく、歌手としてCDを発売し、2017年からは日テレプラスで初のTVでの冠番組を持つなど、多方面で活躍してきた。この春には、テレビドラマで俳優として演技に挑んだ。

今後も「舞台やミュージカルにも、チャレンジしてみたい」と語る梶さん。様々な業種に挑む裏側には、声優としてのポリシーがあるという。

そんな梶さんに、15年間続けてきた声優という仕事について、そしてこれからの活動についての思いを聞いた。 

 あれも、これもなりたかった子ども時代

梶さんが声優に憧れたのは、中学2年生の時だった。それまでは、目に映る色んな職種に憧れを抱き、その都度やりたいことが移り変わっていた。「子どものころから、色んな夢を持つことや夢に向かって頑張ることが好きでした。“週刊少年ジャンプ”みたいな子どもでしたね」と笑う。 

 「サッカー選手になりたいと思ったら、サッカーボールしか蹴りたくなかったし、漫画家になりたいと思ったら、絵しか描きたくないとか、結構極端な子どもでした。色んなものに影響されて色んな夢を持ちました。授業があれば友達と遊ぶこともある、そんな中学校生活のなかで、その都度その都度、その道のスペシャリストになりたかった」 

サッカーボールのイメージ写真

 そんな中で、中学校2年生のときに現在の職につながる言葉を耳にした。「『声優という職業は何を頑張っても全部自分の力になる職業』だと。これを聞いたとき『自分にピッタリだな』と感じました」と振り返る。

何にでも興味を持って、何でも頑張りたい人間だった。そのすべてが集約されている仕事は「声優だ」と思った。思い続けて、その夢だけは変わらず今に至っている。

いまは足りないものだらけ。「声優」の仕事に思うこと

「今は、自分でやれるだけのことを“声優”としてやりたい。まだ足りないものだらけなので、『磨く』ことだけしか考えていない。でもやる以上は、そこに誇りをもってやっています」

アニメの吹き替えやナレーションを担当する「声優」の仕事を飛び出し、マルチに活動する梶さんは、ともすればがむしゃらに色んな分野に挑戦しているようにも見える。

今回、ドラマに出演を決めた理由について問うと、少し間をおいてぽつりと話した。

「声優も、色んな形があっていいのかなって」。梶さんはその挑戦に意味があると言う。

「大前提として“声優”としての自分がしっかりとあるなかで、色んなことを経験して声優業にフィードバックしていきたい。生きていくうえですべてが役に立つ。無駄なことはないんじゃないかな」と頷いた。 

インタビューに応じる梶裕貴さん

 そして「機会がなければ、こうした映像のお芝居はやらせてもらえない。そこで学べること、気づくことがある。いつも、絵が動いてくれていたものが、自分だったらこういう動きをするのかなって発想につながっていった。これは挑戦しないと分からないことでした」と続けた。

人気を得たいまも「悔しい思いはたくさんします

これまでも「Over Drive」の主人公・篠崎ミコト役、「ギルティクラウン」の主人公・桜満集役、「アクエリオンEVOL」の主人公・アマタ ソラ役などを演じ人気を博してきたが、2013年に、進撃の巨人でエレン役に抜擢されたことで、一躍トップ声優としてブレイクを果たした。

だが、人気を手に入れた今も、デビュー間もなくで仕事がなかったころの悔しさや焦りは常に背後にあるという。「オーディションは今でも落ち続けています。9割以上はオーディションで配役が決まるので、悔しい思いは今もたくさんします」と語る。

特に新人のころは、同期との仕事の優劣を比べてしまい、心が折れそうになったことも。「そもそも『仕事がない!』から始まるんです。同期がどんどん色んな仕事をしていく中で、自分はチャンスすら得られなかったこともあった」という。

もし声優にならなかったら。

梶さんは子ども時代を振り返り「声優とは全然関係ない仕事を面白そうだなと思っていた時期もありましたよ。お花屋さんとか、保育士さんとか。あとはコピーライターとか。知識があるわけじゃないですが、お花結構好きなんです」とはにかんだ。

直後、少し目線を落とし「でも、どんなお仕事でも大変ですよね。どれも途中で『嫌だ、辞めよう』と思うことはあるでしょうけど、そう思ったらそれまで。声優を続けられたのも、やっぱり悔しくて、諦めたくなかったから」と話した。

そんな不遇の時代を経て、主役級のオーディションに通るようになった経緯を「『いつか自分のお芝居を見てもらいたい』『自分の声を聞いてほしい』という思いで続けてきたことが大きい。腐らず続けてきたこと、ですかね」と力を込めた。

「求められる役者」でありたい

梶裕貴さん

 「お芝居がしたい」というよりは「生きている全部が自分の仕事に生きてくる」ことに魅力を感じ、スタートした声優の道。 

これからも、声で演じる仕事を続けていくうえで「求められる役者」でありたいという。

「クリエイターの方々…0から1を生み出す方々に『面白い』と言われる演技でないと、そこから先、視聴者の皆さんにも届かない。やっぱり新しいところに挑戦し続けて、新しい表現ができる役者でありたいと思います」と語る。

初めて芝居に触れたのは、高校生になって部活で演劇を始めてからだという。

今回、声優としてではなく、ドラマの出演者として演技をする。dTVで配信される「遊戯(ゲーム)みたいにいかない。~dTV限定版~」の裏沢直人役は、芝居になると熱い気持ちが爆発して豹変する「芝居バカ」。コミカルで強烈なキャラクターだ。

「演劇部のころを思い返してみれば、“その夢その夢に向かって頑張っていた自分”を演じていたところもあったのかな、と思います。いま、声優という仕事で、色んな役を通して、色んなお仕事を経験している。そういう意味では、僕も直人の『芝居バカ』がちょっと分かる気がするんです」

【番組情報】

遊戯(ゲーム)みたいにいかない。

日本テレビにて毎週水曜 深夜24:59~25:29 放送中

「遊戯(ゲーム)みたいにいかない。~dTV限定版~」(全2話)

dTVで見逃し配信中

dTV特集サイトはこちら。(https://mitaini.dtv.jp/

 

進撃の巨人」season3(#50~)

NHKにて毎週月曜 午前0時10分 放送中(日曜深夜) 
※関西地方は同日 午前0時45分から

〈地上波以外の配信先〉

GYAO!

2019.4.29(月) 12:00~

ひかりTV

2019.4.29(月) 12:00~

dTV

2019.4.29(月) 12:00~

dアニメストア

2019.4.29(月) 12:00~

ビデオパス

2019.4.29(月) 12:00~

Netflix

2019.4.29(月)

U-NEXT

2019.4.29(月) 12:00~


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安倍首相「令和の御代の平安と皇室の弥栄をお祈り申し上げます」 新天皇陛下の即位で国民代表の辞(全文)

安倍晋三首相(写真は4月10日の天皇陛下即位30年を祝う「感謝の集い」)

 新たに即位された天皇陛下が初めて国民の代表に会われる「即位後朝見の儀」(そくいごちょうけんのぎ)が5月1日午前、執り行われた。

天皇陛下が即位後初めての「お言葉」を伝えられ、その後、安倍晋三首相が「国民代表の辞」を述べた。

安倍首相による「国民代表の辞」全文は以下の通り。

謹んで申し上げます。
天皇陛下におかれましては、本日、皇位を継承されました。
国民を挙げて心からお慶び申し上げます。
ここに、英邁なる天皇陛下から上皇陛下のこれまでの歩みに深く思いをいたし、日本国憲法に則り、日本国および日本国民統合の象徴としての責務を果たされるとともに、国民の幸せと国の一層の発展、世界の平和を切に希望するとのおことばを賜りました。
私たちは天皇陛下を国及び国民統合の象徴と仰ぎ、激動する国際情勢の中で、平和で希望に満ち溢れ、誇りある日本の輝かしい未来、人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つ時代を創り上げていく決意であります。

ここに令和の御代の平安と皇室の弥栄をお祈り申し上げます。


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英国人ジャーナリストが語る「統計不正」の本質 問題はなぜ解決しないのか?

インタビューに応じるピリング

リセットされない問題

元号が変わっても、問題が解決するわけではない。例えばGDP(国内総生産)である。各種統計データに基づき算出される経済成長の最も重要な指標は、いま疑念の目で見られている。日本で言えば、厚労省による統計不正は深刻そのもので、算出方法の変更によって時の政権にとって都合の良いデータを出せることを示した。

 

GDPだけを指標にしていていいのか?とフィナンシャル・タイムズ元東京支局長のデイヴィッド・ピリングは問いかける。各国メディアで高い評価を得た著書『幻想の経済成長』(早川書房)を書き上げたピリングが来日し、単独インタビューに応じた。

日銀VS内閣府

ピリングが問題視する政府統計について、いくつかの記事から問題に迫ってみよう。2018年11月13日の日経新聞はこんなことを伝えている。

 「日本の現状を映す統計を巡り、内閣府と日銀が綱引きしている。国内総生産(GDP)など基幹統計の信頼性に日銀が不信を募らせ、独自に算出しようと元データの提供を迫っているのだ。内閣府は業務負担などを理由に一部拒否しているが、統計の精度をどう高めるかは、日本経済の行く末にも響きかねない大きな問題をはらんでいる」

記事によると、日銀はすでに政府統計にかなり疑念を持っていたことがうかがえる。一連の統計不正問題の端緒になったのは、西日本新聞のスクープだった。

「政府の所得関連統計の作成手法が今年に入って見直され、統計上の所得が高めに出ていることが西日本新聞の取材で分かった」(2018年9月12日)

ここで動機の考察はしない。ポイントは実態の経済よりも、見かけ上成長しているように見せかけることは容易であるということだ。

ピリングが語る安倍政権の問題

ピリングは「日本で起きている問題は2つある」と語る。第一にGDPに過剰にこだわる政治サイドの問題だ。

あらかじめ断っておくと、ピリング自身は決して経済成長悲観論者でも、GDP否定論者でもない。

彼が警告を発しているのは、経済成長の指標がGDPのみになっていること、GDPが国の幸福度の代替的な指標になっていることだ。

《GDPそのものは優れた発明とも言うべきものですが、現代においてはそれだけで経済成長を捉えたり、国の幸福度を測れたりするものではありません。GDPはとても複雑な計算で算出されるものです。

どこかのデータを入れ替えたり、計算方法を調整したりすれば、見かけ上の数値は良くすることは容易なのです。

そうしてできたデータは国の実態を正しく反映していると言えるでしょうか?日本だけでなく、政府がGDPを良く見せようとすることは実際にあることです。

問題の根源は一つの経済指標を盲信していることにあります。経済は人のためにあるのであって、経済のために人がいるのではないということです。》

統計スタッフが足りない

第二に統計に関わるスタッフの少なさである。前出の日経新聞は、日本の統計職員は2018年4月時点で1940人であり、2009年に比べて半減したことを伝えている。

 ちなみにアメリカは1万4000人超、フランスは2500人超、カナダは約5000人の統計スタッフを抱えているという。

 《日本の統計スタッフは人材不足であると思います。いま問題となっているデータスキャンダルとも言うべき統計不正についても、原因の一つはリソース不足にあるでしょう。正確な統計調査にはコストがかかります。

 イギリスでも統計調査を巡って問題が起きています。ウェールズにある国家統計局は、2007年にロンドンからこの土地へ移転しましたが、ロンドン在住のスタッフの多くは退職するという道を選びました。

 この中には高度な専門知識を備えたスタッフも含まれています。リソース不足という問題が起きています。》

 

経済を伝えるメディアの問題 

日本もイギリスも、「メディアにも問題がある」とピリングは見る。

《GDPはあくまで一つのデータでしかないのに、経済成長を測定する絶対的な指標として報じています。短い行数でニュースとして伝えるにはいいやり方かもしれませんが、一つのデータでしかないのです。

 例えば、一人当たりGDPに着目して同時に伝えていく必要があるでしょう。日本のような国では、昔のように国全体で大きな成長は望めません。

そこで大事なのは、一人当たりはどうなっているのか、という指標です。

 全体よりも個人に注目する。そして、メディアでよく見かける「平均」というのもやめたほうがいい。

経済で大事なのは、平均ではなく「中央値」です。これを使って報道したほうがいいのではないか、と思います。》

中央値というのは、簡単に言えば上から数えてもしたから数えても真ん中にある数字のことだ。

例えば日本の30代の平均年収で考えてみよう。平均は誰かが極端に高い収入を得ていると、一気に高くなる。平均は決して「真ん中」を意味しない。

中央値は日本の30代で、一番収入が高い人から低い人を並べたときに、ちょうど真ん中に位置する人を抜き出す。

この人の収入が「真ん中」であり、そこをベースに議論をしたほうが、実態を映し出すというのがピリングの主張だ。

人のための経済へ

彼の主張は一貫して、「人のための経済」が必要であり、そのために現実の経済を可能な限り捉えるデータ、データの見方が必要になる。GDPだけでは不十分ではないか、ということだ。

では、経済を測るために何かGDPだけではない別の方法があるのか。詳しくは彼の著作で言及されている。ここでは、いくつかの指標を組み合わせる見方を紹介しておこう。

《車のダッシュボードを思い浮かべてください。見た時点のガソリンの残りがどのくらいか、どのくらいのスピードが出ているかが一目でわかりますよね。国の経済も同じように、いくつかの指標で現状を捉えればいい。

私ならGDP、一人当たりGDP、富の再分配の指標としてジニ係数、健康寿命、環境問題に対する指標として二酸化炭素の排出量、それから会社と同じようにバランスシート(貸借対照表)ですね。

会社も利益だけ見ているだけでは何もわかりません。国も同様に、資産と債務を同時に見ていく必要があります。》

ピリングは単純にGDPを増やすというだけでなく、健康寿命も伸ばしていくという政策であったり、再分配への意識が向かったりする政策も重要だという。

「経済成長」をGDPだけではかると、時の政権の意向に「配慮」した統計データが出てくる可能性もある。それは測り方を変化させるだけで達成できる目標かもしれない。

一つの統計だけでなく、複数のデータから経済のダイナミズムであり、社会のあり方を考える。今こそ、必要な思考法と言えるだろう。


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天皇陛下最後のお言葉「象徴としての私を受け入れ、支えてくれた国民に心から感謝します」(全文)

天皇皇后両陛下

天皇陛下の退位の儀式「退位礼正殿の儀」が4月30日に執り行われ、天皇陛下が最後のお言葉を述べられた。 

 お言葉では、国民への感謝と共に、新たな令和時代の平和への祈りを伝えた。

天皇陛下の最後のお言葉は次の通り。

今日(こんにち)を持ち、天皇としての務めを終えることになりました。

ただいま国民を代表して安倍内閣総理大臣の述べられた言葉に深く謝意を表します。

即位から30年、これまでの天皇としての務めを、国民への深い信頼と敬愛をもって行えたことは幸せなことでした。

象徴としての私を受け入れ、支えてくれた国民に心から感謝します。

明日(あす)から始まる新しい令和の時代が平和で実り多くあることを皇后と共に心から願い、ここに我が国と世界の人々の安寧と幸せを祈ります。

 


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これは、あなたを眠りにつかせ、目覚めさせる物語だ。気づけば本棚に8冊ある本の話

人間であることを確かめたくない作家がふたりいる。
どちらも現代に生きているのだから、会おうと思えばたぶん会えるのだし、実はそのうちのひとりには直接サインを頂戴したこともあるのだが、まだ信じたくない。
知ってしまったら、人の遠近法が崩れてしまう気がする。

神聖視をしすぎるあまり、自室や店には、同じ本がいくつもある。仕入れたというより、たんに、見つけると買ってしまうのだ。お金もないのに、それらを前にするとなにかがおかしくなってしまうようだった。

今まででいちばんたくさん集めてしまったと思われる本では、文庫と合わせると7冊所有していたこともある。これだけあると、ちょっとした間違いとも言いようがなく、友達にあげるにしても限度があり、本棚に点在させてみてもやたら目立つ。それでもあるだけで安心するので、持ち出す用の文庫、眺める用のハードカバーと使い分けて、至福を感じていた。

無闇な収集癖は、本屋をはじめることになってだいぶ落ち着いてきたのだが、つい先日、こんなことがあった。

店の取材のあと。ライターの方がかばんからなにかを抜き取り、わたしに差し出した。「お好きだと言っていたので」と言われ、つい素直に受け取ってしまう。見るとそれは、箱に入った1冊の本だった。わたしが崇拝するふたりの作家のうちのひとり、幻想小説家・山尾悠子の『ラピスラズリ』。7冊持っていたこともあるという、その本である。

聞けば、サインが入っているという。「そんな特別なものを」と思う気持ちの一方で、わたしのなかに悪いくせが頭をもたげ、舞い上がったまま、キットカットと引き換えにありがたく受け取ってしまった。8冊目となったその本はまだ開くことのできないまま、自室の本棚のなかに置いてある。

山尾悠子『ラピスラズリ』(ちくま文庫)

1冊の本を紹介する機会をいただいたとき、すぐに承諾してから、考え込んでこの本に決めた。わたしにとって大切な本であることはもちろんだが、しかも本当は必要としている人が、まだこの本に出会わずにいることもあるように思ったからだ。

『ラピスラズリ』には高校生のとき、当時通いつめていた新刊書店で出会った。
幻想小説、SF、ミステリなどが並ぶ本棚のなか、わたしは気になって抜き出しては、恐れをなしてしまい込んだ。きれいな青色の、かたい箱に入った本は、厳かな雰囲気をかもし出していた。本を出して開くだけでも、そわそわしてしまう。
何度も本棚の前に立ち尽くしたが、結局当時のわたしには買うことができなかった。

そういうわけで、はじめて読んだのは文庫化されてからだった。発行は2012年とあるから、大学生になってからのことだ。本を開いたわたしは、物語のはじめに書かれた「睡眠不足で赤い眼をした画廊の店主」の台詞に心のすべてを連れて行かれてしまう。それからは、幾度となく読み返し、本屋で見かけるたびに買い集めた。

『ラピスラズリ』は「銅版」「閑日」「竈の秋」「トビアス」「青金石」の5篇から成る、連作長篇小説だ。〈冬眠者〉を取りまく、眠りと覚醒の物語である。
〈冬眠者〉という言葉だけで、落ち着かない気持ちになる。小学生のときに読んだ萩尾望都の漫画『ポーの一族』のせいか、わたしは自分と違う、しかしこの世界にいてもおかしくない者たちに、憧憬を抱き続けている。

『閑日』『竈の秋』で描かれるところによると、〈冬眠者〉は、冬になると鍵を掛けて眠り、春になると目覚める人びとだ。そういうことになっている。それはその体質というよりもむしろ身分制度であり、文化ともいえる。〈冬眠者〉たち、世話をする召使いたち。そして〈ゴースト〉、それから……。数多くの登場人物たちは、ただそこに存在し、動いている。そしてそのうつくしすぎる別世界は、読み進めればいともたやすく読者自身と接続される。そのことに、心を動かされないわけはない。

昨夜、わたしは布団の上にクッションを重ねてもたれかかって文庫版の『ラピスラズリ』をめくっていた。午前1時前、いつもならもう眠っている時間だが、「駄目——眠ってしまっては駄目よ。起きていなければ。きのう話したことを覚えていないのね」と、〈ラウダーテ〉が言う。わたしは眠いまぶたをこすり、読むことをやめられないでいた。こんなふうに夢中で読みふけるのは、久しぶりのことだった。わたしは〈ゴースト〉のように物語に入れてもらい、人形のひんやりとした感触を得る。舞台は深夜営業の画廊、〈冬眠者〉の館、東の国、西暦1226年のアッシジ近郊へ。

物語を読むときには、そのなかに入り込みやすくするためのいくつかのやり方があると思う。
たとえば、心地いい温度の落ちつける部屋のなかにいること。ひとりきりの静かな時間があること。それから、登場人物の、情景の問いかけに、真剣に答えようと試みることだ。
本に慣れている人ならば造作もないことだろうが、わたしなどは、本のなかに問いかけを見つけても、あるいは見つけることすらできずに通りすぎてしまうことが多い。しかし、じっくり文字を見つめ、問いを、横たわる違和感を見つければ、書かれた言葉はすべて徴候となり、読者の身体は物語に合わせるようにして、伸びたり縮んだりしながら入り込んでいける。徴候はうねるように、わたしを、あなたを最後の1ページまで、そしてまたいちばん最初へと、導いていく。

気付けば午前2時をすぎていた。わたしは本から目を離せないまま、何度も巡るように読んでいた。布団のなかで夢心地になりながら何度も反復するのは、画廊の店主が〈わたし〉にいう台詞。

「画題(タイトル)をお知りになりたくはありませんか」

だれかに本をすすめることはむずかしい。でも、願わくばわたしの本棚に並べられるように、あるいはまったく違う形で、この本を必要とするだれかのそばにも『ラピスラズリ』があればいいと思う。今ではなくても、いつか。でも本はなくなってしまうことがあるから、できればすぐにでも。それはもしかすると、あなたを眠りにつかせ、あなたを目覚めさせる物語となる。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

山尾悠子『ラピスラズリ』(ちくま文庫)

今週の「本屋さん」

伊川佐保子(いかわ・さほこ)さん/ほんやのほ(東京都中央区)

どんな本屋さん?

2019年2月1日、東京メトロ日比谷線小伝馬町駅より3分のビルの2階にオープンした会員制本屋です。入会資格は「なんだか本が気になること」。山尾悠子『ラピスラズリ』は「ほんやのほ」でも販売中です。

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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