本屋さんの推し本

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言葉のセンスは磨ける。歌人・穂村弘さんと“素人さん”に学ぶユニークな日本語の世界

可能な限り働きたくないと思っていた20代、私は多くの文学作品に触れた。日本人だと阿部公房と初期の村上春樹作品が好きだし、ドイツ文学とアメリカ文学が好きだ。

一方で、イギリス文学とフランス文学は肌に合わない。それが言い切れるくらいに読書をしたお陰で、書店員になり、仙台店の店長までやらせてもらっている。

いざ本を扱う仕事をしてみると、「やはり本屋は言葉を売る仕事だなあ」と思うし、「言葉を扱うのはセンスだなあ」とも思う。

センスまで教えることは難しくても、「本屋が売るのは、言葉」だということは伝えたくて、アルバイトの研修期間にはそのことを繰り返している。

さて、言葉を売る仕事をしていると、独特な言語感覚に出会うことがある。

例えば、短歌。相手に意味を伝えるのではなく、五・七・五・七・七のリズムから相手にその言葉の先の意味を想像させる。それが面白い。

今回紹介する『短歌ください』は雑誌(ダ・ヴィンチ)の読者投稿企画から歌人穂村弘さんが短歌の背景にあるであろう状況の解説を加えてくれているので、こちらの乏しい想像力を補填してくれる。

ペガサスは 私にはきっと優しくて あなたのことは殺してくれる 

(冬野きりん・女・18歳)

世界が張り裂けて溢れてしまった愛の歌、との評。

愛の歌。愛のうたかぁ…。

総務課の 田中は夢をつかみ次第 戻る予定となっております

(辻井竜一・男・29歳)

ふつうは「夢」をつかんだら戻らないと思うんだけど、「予定」では戻る、というところがいい、との評。

仕事を辞めたいなぁと漠然と思っている方の短歌だと思っていたのが恥ずかしい。

要するに、短歌を考えているのも読者もほとんどが短歌素人さん。

世の中にセンスの良い素人が多いのか、解説が良いのか、はたまた両方か。回を重ねるごとに読者の上達が凄い。みんな真面目。

そこにきて思うのは、言葉のセンスは修練できるのだなあということ。雑談力や伝え方の本を読んで「自分には無理だ」と諦めたかたにこそ触れてもらいたい。空前の俳句ブーム(?)の陰に隠れてはいるが、短歌もなかなかいいですよ。

ちなみに、穂村弘さんはエッセイも面白い。話の面白い人が独り言をずーっと言っている感じ。こんな話の面白い人と雑談できたら人生楽しいだろう。友達になりたい。お勧めは同じ角川文庫から出版されている『蚊がいる』。秀逸です。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

穂村弘『短歌ください』(角川文庫)

今週の「本屋さん」

金子圭太(かねこ・けいた)さん/くまざわ書店 エスパル仙台店(宮城県仙台市)店長

どんな本屋さん?

今年で開店4年目となる当店は、JR仙台駅直結のエスパル本館3階にあり、新幹線の時間を気にされているお客様がパッと来てパッと買えるよう整理された売場が魅力です。一方で、地元新聞社のブックガイドコーナーや書評を中心とした時事・教養コーナーなど、地元のお客様や知的好奇心の高いお客様に選ばれる店作りもしっかりと心がけています。10年20年と愛され続ける書店を目指して、日々奮闘中です。

撮影:田中姫菜(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)

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「向上心」「自己責任」といった強者の論理に飲み込まれる前に…世界の構造に近づくための1冊

金曜日の夜。

仕事帰りに、神保町の書店まで一駅分歩く。

週末に読む本はどれにしようか。

店内を彷徨いながらただ書棚を眺める時間。

都内で会社員として働いていた頃は、大きなストレスはなかったものの、このままこの会社で働きつづけるのだろうか、これがやりたかったことなのだろうかという迷いを抱えていた。仕事に楽しさややりがいを見出していたし、人間関係も良好だった。けれど…。

いつから通うようになったのか、そのきっかけも思い出せない。

神保町にある東京堂書店は、ぼくにとって「本屋」の原体験だ。

見たこともない本が整然と並んでいた。静かな佇まいの本。それらを眺めていると、この世界のことなんてほとんど何も知らないんだなと思った。不思議と焦りはなく、何も知らないということの清々しささえ覚えた。

決断できなくても、期待に応えられなくても、受け容れてもらえる場所。

たくさんの世界、たくさんの価値観が並ぶ場所。

本屋は、大げさにいえばぼくにとって「救い」のような存在だった。

こういう場所のためになら、一生を捧げて働けるのではないか。

仰々しいので、人から尋ねられれば「趣味が高じて」と一言で済ませているけれど。

会社を辞め、青山ブックセンター本店で2年半働き、その後地元である茨城を中心に書店チェーンを展開するブックエースに転職した。現在TSUTAYAララガーデンつくばに配属されて5か月が経つ。

「本当はもっと売りたい本、教えてください」。

そう聞かれて真っ先に浮かんだ本がある。

オーウェン・ジョーンズ『チャヴ 弱者を敵視する社会』(海と月社)だ。

左派論客である著者が、イギリスの労働者階級がいかに蔑視され、貶められているのかを暴いたノンフィクション。「チャヴ」とは、労働者階級を指す蔑称で、そのイメージは「暴力、怠惰、十代での妊娠、人種差別、アルコール依存など」酷いものばかりだ。

サッチャリズム、ニュー・レイバーの政策によって破壊された一次産業とコミュニティ。政治家とメディアが結託して行う差別的なイメージ操作。「いまやわれわれはみな中流階級」であるという欺瞞…。

筆者はこう指摘する。

ニュー・レイバーの政治家たちは、労働者階級の子供の学業成績がふるわないことや、貧乏が世代から世代へと受け継がれていることの理由にも、たびたび「向上心の乏しさ」をあげた。

p.115

結局、メリトクラシーは、「頂点に立っている者はそれだけの価値があるから」とか、「底辺にいる者はたんに才能が足りず、その地位がふさわしいから」といった正当化に使われる。

p.122

メリトクラシーとは「能力主義」のことだ。聞こえはいいし、馴染みもある。民間企業で働く人の多くは「成果主義」という言葉に好意的であるはずだ。だが、ここでは社会問題をあくまで「個人」の問題にすり替えるための口実にされてしまっている。

BNP(極右政党のイギリス国民党/著者補足)は不平等を人種問題にすり替えて焦点を当て、多文化主義を悪用した。つまり、白人労働者階級を、迫害された民族的マイノリティと見なしてプロパガンダに用い、反人種差別的な外見を整えたのだ。

p.289

2000年代には、労働者階級を代表しているかのような体裁を整えた極右政党、イギリス国民党(BNP)が支持されるが、その実BNPの経済政策は労働者階級に資するわけではない。その上、労働者階級には「移民嫌悪」というレッテルまで貼られてしまう。

つまり、あらゆる側面で問題がすり替えられ、隠され、労働者階級が敵視されている。

富裕層による脱税という「何百億もの略奪」は見過ごされているのにだ。

自分の理解が表面的なものであったことに衝撃を受けた。

ブレグジットもニュースは見ていたものの、「右傾化」「移民嫌悪」の表れだと単純に考えていた。だが、根底には「雇用」という経済問題が横たわっている。ないものにされた「階級」は厳然としてそこにあるのだ。それを構造的に支える「エスタブリッシュメント」層とともに。「向上心」とか「自己責任」といった強者の論理が虚しく響く。

最後に著者は述べる。

新しい階級政治は、いまやイギリスだけの現象ではない。億万長者のビジネスエリートたちがグローバル化したのであれば、労働者階級の人々もあとに続かなければならない。

p.330

なかなか世界中の労働者と連携して闘うというイメージは持ちづらいが、問題は国家を超えて関係し合っている。オーウェン・ジョーンズがあぶり出した「弱者を敵視する社会」とその構造だって他人事ではないはずだ。

何が起きているのかを知ること。できることをひとつひとつ積み上げていくこと。

『チャヴ』を読むと、暗澹たる気持ちになると同時に、腹の底から力が湧いてくる。

この世界の真実は往々にして見ることができない。あるいは、巧妙に隠されてしまっている。本は、それらの「見えているはずなのに、見えなくなってしまっているものを、人の営みによって見えるようにするもの」だと思う。『チャヴ』を読んでそのことを体感いただけたら書店員冥利に尽きる。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

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今週紹介した本

オーウェン・ジョーンズ『チャヴ 弱者を敵視する社会』(海と月社)

※咋年12月にはオーウェン・ジョーンズの最新刊『エスタブリッシュメント』(海と月社)も刊行。『チャヴ』とあわせて。

今週の「本屋さん」

益子陽介(ましこ・ようすけさん)さん

TSUTAYA LALAガーデンつくば(茨城県つくば市)

どんな本屋さん?

「TSUTAYA LALAガーデンつくば」は、ひたちなか市にあるコーヒー専門店「SAZA COFFEE」との県内初のコラボとなる、BOOK&カフェスタイルの書店です。お子様連れのファミリー層のお客さまが多いため、休日はお店の前にある広場で書店イベントなども開催。広い店内には「お店に置いていない本はないのでは!?」と思うほど、豊富なジャンルの書籍が並んでいます。

ファミリー層に特化したお店なので、児童書と教育書コーナーは広く、お子様が伸び伸びと遊びながら気になった絵本が読めます。

益子さんはビジネス書が大好きということで、「ビジネス書コーナーに革新を!」と思わず手に取ってしまうような素敵な棚づくりを日々実践中、見どころの1つです。

撮影:橋本莉奈(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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読書のレベルをワンランク上げる、ドラクエの“不思議な鍵”的1冊

本屋さんで働きたいなと思ったのは、本を読むことと同じくらい本を紹介することが好きだと気づいたからです。きっかけは、とある読書記録サイトの利用でした。

ちなみに、そのときのペンネームは「あさ・くら」。ちょうどハマっていたのがアーサー・C・クラーク。なんともひねりがなく、お恥ずかしい……。

今回ご紹介いたしますのは、ショーペンハウアー『読書について』です。

曰く、「ただ経験しただけ、本を読んだだけでは、ものを食べたところまでに過ぎず、じっくり考え、思索することで初めて消化吸収し、自分の血肉となる」のだそう。

当時の私は、その言葉を受け、袈裟切りにバッサリ斬り捨てられたのでした。そして、「消化せねば!」という勢いだけで、読書サイトに登録したのです。それが転じて、転じて、いまに繋がっているのかもしれませんね。

さて、突然ですが、私が幼い頃に熱中した1本のゲームソフトがあります。

『ドラゴンクエストモンスターズ2 マルタの不思議な鍵』

2000年代初頭、ゲームボーイに色がついた頃のRPGです。主人公の少年少女は、タイトルにある「不思議な鍵」を使って異世界への扉を開き、経験値やアイテムを稼いで戻っては、元の世界のストーリーを進めていきます。

鍵は無数。じっくり探索するもよし。手早く戻るもよし。得られるものも運や時間、当人のレベルによって様々です。

「これって読書に似てない?」と思うのは飛躍が過ぎるでしょうか。

私はこう思うのです。「ショーペンハウアーさんの言う、読書に似てない?」と。

星の数ほどある本。選書も読み方も人それぞれ。その中に赴き、冒険した後、みな元の人生に戻っていくのです。しっかり冒険すれば、それだけ本筋、つまり人生に活かすことができます。でも、冒険しているだけでは本筋が進みません。

なんだか本筋が停滞気味という方、おられませんでしょうか。あるいは、冒険してばかりの本の虫な方、おられませんでしょうか。

そんな方々には『読書について』をお勧めしたいと思います。

本は読むだけ、食べるだけで終わってしまっているなら、ぜひ本書を読んでみてください。栄養として吸収してこその「読書」です(もちろん感想・書評として排泄するのもまた一興です)。

読書のレベルを一段階上げる不思議な鍵の1本、『読書について』は本屋に売っています。

忙しく過ぎ去る毎日の合間、私は”不思議な鍵”を空想します。

「今日書棚に並べた1冊が、今日POPを書いた1冊が、きっと異世界への不思議な鍵で」

「そこで得た経験値やアイテムは、血肉となってストーリーを進めていく助けになる」

「本筋のストーリーに行き詰った人は、また別の鍵を探しにお店に足を運ぶ」

そんな鍵屋をやりたいなぁ、と思いながら、私はいま本屋をやっております。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

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今週紹介した本

ショーペンハウアー『読書について』(光文社古典新訳文庫)

今週の「本屋さん」

萩原健太(はぎわら・けんた)さん

フタバ図書 ジ アウトレット広島店(広島県広島市)

どんな本屋さん?

「フタバ図書 ジ アウトレット広島店」は、広島市に昨年オープンしたアウトレット商業施設内にある書店。いつも多くの人で賑わっています。売れ筋の本が手に入るのはもちろん、華やかな広島カープグッズコーナーも見どころの1つです。入り口のフェアコーナーでは、おしゃれ、かつ、珍しい書籍のフェアを常時展開中。ある意味、フタバ図書”らしくない”お店です。 ツイッターのアカウント(@futaba_toh)も要チェックです。

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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江戸時代の“マインドフルネス”本? 気持ちがはやる師走にこそ、カバンにこの1冊を。

もともとヤマハピアノ音楽教室で講師をしていた私は、上海の音楽学校で学生さんを指導するアシスタントとしてボランティアに参加しました。しかし、ピアノ指導の傍ら、カタコトの中国語や英語でコミュニケーションをとったり、ビデオカメラを回したり…と、緊張の連続からか帰国後に強度のヒジ痛に悩まされ…。

その治療のため通っていた整骨院の近くに、私が学生のときから通っていた書店があり、ある時、従業員募集の貼り紙を発見。少子化のあおりを受けて音楽教室の生徒数も減少していたこともあり、これは! と応募し、現在に至ります。

そんな私がいま、おすすめする本は中公文庫の貝原益軒『養生訓』、訳は岩波書店『育児百科』の著者である小児科医の松田道雄さんです。

貝原益軒『養生訓』

著者の貝原益軒は江戸時代の本草学者、儒学者です。本草学というのはいまでいう東洋医学、あるいは漢方医学のようなもの。ちなみに私、益軒さんと誕生日が一緒です。益軒さんは享年84歳で、当時としてはかなりの長命。『養生訓』には、その彼が自ら実践した東洋医学、自然治癒力を用いた医者や薬に頼らない健康法が書かれています。

この本との出合いは、私が姿勢を整えるために通っているトレーニングジム。東洋医学の知識をもとに筋トレやストレッチ、マッサージの指導をしていただいているパーソナルトレーナーの方から、「実用書もいいけれど、時を経て読み継がれているものも読んでみては?」とすすめられたのです。

正直、最初は「江戸時代の本でしょ。 聞いたことはあるけど、どうなん?」くらいの気持ちで読み始めました。しかし、健康指南書としてだけでなく、読むだけで心が落ち着く世界がこの本の中には広がっていて、ページをめくる手が止まりませんでした。

数年前、故スティーブ・ジョブズが火付け役となり、欧米で”マインドフルネス”が流行し、日本のビジネスマンにもブームが起こりました。”マインドフルネス”とは「心のエクササイズ」のようなものですが、江戸時代、すでに”マインドフルネス”に通じる本があったのです。

例えば、『養生訓』にはこんな一節があります。

「完璧を望むな。

すべてのことは十のうち十までよくなろうとすると、心の負担になって楽しみがない。不幸もここからおこる。

また他人が自分にとって十のうち十までよくあってほしいと思うと、他人の不足を怒りとがめるから、心の負担となる(略)」

さらに、読み進めると…

「調味料は(中略)塩、酒、醤油、酢、蓼、ショウガ、わさび。

胡椒、芥子、山椒はそれぞれの食物に加えてちょうどよくなる調味料である。これを加えるのはその毒を抑えるのである。ただその味がよくなるだけが目的ではない」

…と、日本料理の解説のような内容に。読むだけでどこか心がゆるみ、時間の流れがゆっくり感じられ、少し笑えてほっこりするような、いにしえの日本の空気感を感じることができます。訳を手がけた松田先生のツッコミのような注釈と解説も、味わい深いです。

私は毎日、美しい姿勢を保つため、自分の身体の状態に合わせて選んでもらったストレッチ3ポーズを1日1回実践しています。

「習慣にしてしまえばそれほど苦にはならない」

貝原益軒先生の言葉です。

いつもカバンに『養生訓』、開いたページのひと言に気をつけて、みなさま、今日も1日元気に過ごしましょう。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

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今週紹介した本

貝原益軒『養生訓』(中央公論新社)

今週の「本屋さん」

たかつきさん/水嶋書房

撮影:橋本莉奈(ディスカヴァー・トゥエンティワン) 

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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見栄を張って疲れているあなたへ。 不安や苛立ちに苛まれてる君へ。くまで「フフッ」と笑ってほしい。

本屋さんの「推し本」

書店員というのは、なんとも不思議な仕事です。

給料はぜんぶ本につぎ込んでいます!、と言い切れるほど読書家でもない私が、なぜか魅了されてしまう「本屋」という場所。

かなりの肉体労働だし、接客業特有のストレスもヘヴィーだし、時給も安い…それでも、本のデザインやイラストを鑑賞したり、インクや紙の匂いを感じたり、ページを捲る音や指先に感じる感触を楽しんだり、と五感で本と触れることができる書店員という仕事に、えもいわれぬ愛着を感じながら、今日まで続けてきました。

そんな私が、年齢も性別も職業も関係なく、全ての方に「これ、どうですか?」とおすすめしたい一冊があります。

それは、『ともだちはくま』(KADOKAWA)という本です。

ともだちはくま

何だかシュールで、フォルムがサイコーに可愛い。

喜怒哀楽の表情が豊かで、鼻に寄る皺でさえキュート。

見ていて飽きない。

なぜか「女装が好き」という、ちょっぴりシュールな癒やし系くまです。

元々はLINEスタンプのキャラクターとしてこの世に生まれた、名も無きくま(以下、愛を込めて「くまちゃん」と称します)でしたが、作者である「さいきたむむ」さん(以下、敬愛を込めて「たむむさん」と称します)が、Twitterでもイラストやマンガを投稿するように…。

たむむさんのアカウントは日に日にフォロワー数が伸び、その増殖が止まらず、今やフォロワー数8万超えとなっています。

かきフライの日だよー pic.twitter.com/h7MIVhV8Ba

— さいきたむむ (@tamsorogi) 2018年11月21日

Twitterに上げるイラストやマンガの主なテーマは『今日は○○の日』。「フランスパンの日だよー」「今日は鮭の日ヽ( ‘ω’ )ノ」「ピザの日だよー ピザ食べたい」といった具合です。

ツイートを見ていると、フォロワーさんたちの方から『今日は○○の日らしいですよ』だなんて情報を受けて、たむむさんがイラストを作成なさっているのを、よくお見掛けしています。

書籍『ともだちはくま』は、こんな風に作者とファンとの絆で育まれたTwitter上の作品を纏めた(勿論、描き下ろしも加えた)作品となります。作り手と受け手が一緒にキャラを育てていくーーまさにSNS時代を象徴する一冊だと思うんです。

くまちゃんの言動のひとつひとつには、胸に熱く来るものがあります。

くまちゃんは獣であるだけに、とにかく『本能』に忠実なんですね。

主に食欲や睡眠欲などの生理的欲求に、気持ちが良いほど素直にしたがって行動します。

好奇心旺盛で失敗を恐れない。

失敗をしても、めげない。

痛い目に遭ったり、自分の思うような結果にならなくても

そばにいる仲間を決して責めたりはしない。

これは、どのくまちゃんにも共通していることです。

私は、そんなくまちゃんたちが美しいと思うし、愛おしくて堪りません。

私たち人間は、生きていく上で必要な虚飾を纏っているものですが、そんな虚飾を一糸も纏わず生きる、くまちゃんたちの『強さ』と『優しさ』に憧れと尊敬の念すら抱きます。

……とまぁこれは、私が頭を一生懸命、回転させて分析した内容であり。

実際に本を読んでいる時には、ただただ萌えたり、笑ってしまったり、一言で言えば『癒される』訳です。

普通は、そこまで深く考えながら読むことなんてないと思います。

それでも、たいていの方が読めば「フフッ」と、笑ってしまうだろう。

そんな気がします。

どんな老若男女も、直感的に「癒し」を感じることが出来るのでは?と、信じています。

近年はストレス社会に重ねて、世界的に政治も不安定で、自然災害が容赦なく襲い掛かってくる頻度も高まり、不安や苛立ちは更に募りやすいという状況です。

そういった悲しみや怒りという感情は伝染するもので。

それらを振り払うには、やはり「楽しい」とか「嬉しい」というプラスの感情が不可欠ですよね。

世の中には様々なストレス発散法があって、人によって効果はそれぞれ違うけれど、『本を読む』という方法はすごく身近で手軽な存在です。

だからこそ『本』や『本屋』は、これからの世界にも必要であり、たとえ細やかな力だとしても、たくさんの人の生きる糧になり、人生を豊かにするものだと思います。

出来ればひとりでも多くの人が笑って楽しく過ごせたら…という願いを込めて。

私は『ともだちはくま』をおすすめしたいと思います。

どうか、あなたが明日も元気で頑張れますように。

「フフッ」と、笑ってくれますように。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

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今週紹介した本

『ともだちはくま』(さいき たむむ)

今週の「本屋さん」

三井洋子/ 東京都内某所の書店に勤務

撮影:橋本莉奈(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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「咳をしても一人」の作者を知っていますか? 書店員歴20年の私の日常を変えた1冊とは。

「友人に誘われて…」。

部活を決めるときみたいな、そんな安易な理由で、私は書店員になった。それから20年。こんなにも長く、書店で働くことになるとは思ってもみなかった。

思いのほか体力が必要だったり、本に向き合う時間が取れなかったりすることも、あまり気にならず続けてこられたのは、毎日これでもかと入荷してくる、見たことも聞いたこともない言葉や世界にあふれた本に接することが楽しかったのだ。

本を愛する書店人と働くことも愉快だった。

太宰治の『道化の華』を延々とそらんじる人、シェイクスピアの『夏の夜の夢』が読みたいと言ったら「これがいい入門になるから」といって『ガラスの仮面』を貸してくれた人、忠臣蔵がきっかけで歴史好きになったのに、最終的には1300年前の書簡を読み解く新書『飛鳥の木簡』を読んでいた人……挙げればきりがない。

たくさんの本と変わった人たちに囲まれて、書店での日々は退屈しなかった。

飽きない、ということは、仕事を続けていく上で一番大切なことかもしれない。

教科書に載ってた、「咳をしても一人」の人

書店員になってよかったことの一つに、本との思わぬ出会いがある。

『尾崎放哉全句集』(ちくま文庫)がそうだ。

『道化の華』をそらんじていた人に紹介してもらった宮沢章夫の『牛への道』(新潮文庫)の中で、尾崎放哉(おざき・ほうさい)の句が紹介されていた。

 咳をしても一人

圧倒的な淋しさの余韻が尾をひくこの句に聞き覚えがあった。確か学校で習ったはずだが、自由律俳句と言えば俳人の種田山頭火が有名で、放哉の名前はすっかり忘れていた。

 入れものが無い両手で受ける

この句なんか、とても放哉らしくて味わい深い。

「どういう状況だよ!」とまず思うし、入れるもの次第ではこぼれるんじゃないかと心配で仕方ない。

入れものがないくらい貧乏なら哀しすぎるし、手近に入れものがなく無精したならお馬鹿さんだ。

考えれば考えるほど放哉の句が頭から離れなくなり、私は『尾崎放哉全句集』を手に取った。

 墓のうらに廻る   「怖いよ!」

 爪を切ったゆびが十本ある   「だから何?」

 淋しい寝る本がない   「女子かよ!」

ツッコミをいれずにはいられない、クセの強い句が並んでいた。

尾崎放哉全句集

読むだけでも十分おもしろいのだが、どう解釈するかが難しい。「解説を読めば」と言うなかれ。それでは放哉の句に向き合えていない。どう読むかは私の自由にさせてもらう。

まずは黙読、音読、そして考えを巡らせる。ただそのままを詠んでいるだけかもしれない、いやきっと深い意味があるに違いない。

わかったような気になって、結局ちっともわからなくて、そのまま受けとめるしかないかとまた音読する。答えはどこにもない。それで構わない。

人間誰しも、わからないことは不安だ。恥をかいたり、失敗したりするかもしれない。

特に仕事や人間関係ではより速く、より簡単に正解がほしいと思ってしまう。

そんな時「わからないことを楽しめ」とほくそえんでいるような、放哉の句を思い浮かべる。

わからないを受け入れて、わからないを考える。答えがないかもしれないなら、おもしろがるほうがいいじゃないかと開き直るのだ。

他にも放哉の句は、私たちの日常に取り入れられる。

何もいいことがない日にはこの句を。

  犬よちぎれるほど尾をふつてくれる

無駄に過ごしてしまった日にはこの句を。

  昼の蚊たたいて古新聞よんで

替え歌ならぬ替え句にしてしまってもいい。

柱の角に小指をぶつけたら、「小指をぶつけても一人」

コンビニでプリンを買ったのにスプーンが入ってなかったら、「スプーンがない箸ですする」

淋しさ、哀しみ、怒りが少しやわらぎませんか。

さあ、あなたの人生に放哉を!

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

今週紹介した本

『尾崎放哉全句集』(ちくま文庫)

今週の「本屋さん」

中村明香/ ジュンク堂書店天満橋店ビジネス書担当

どんな本屋さん?

中村さんが勤める「ジュンク堂書店天満橋店」は、品揃えの豊富さとジャンル分けの細かさが特徴のジュンク堂の中でも特に、話題書やフェアにかける思いがびびっと伝わる売り場になっているんだそう。ある出版社の営業さんは、入り口付近のコーナー棚に誘われて入店すると、なかなか出てこられなくなってしまう、と語ります。

ジュンク堂

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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もう半世紀、本屋さんで働いてきました。 そんな僕が紹介する1896年の名作。

14歳、中学2年の時からアルバイトで書店で働きはじめた。

半世紀近く本屋さんに関わっている事になる。

思い起こせば、最初に勤めた今は無き老舗書店の社訓は「私達は、知識の伝達者です」であったなぁ。

かつて本屋さんは、「街のホットステーション=人の集まる社交の場」であったし、本は娯楽の王道だった。

現在は、様々な娯楽の多様化にもより、某大手出版社社長の言葉を借りると、

「書店に一年間で一度も足を運ばない人が過半数、読書は娯楽では無く、道楽」

だそうだ、やれやれ。

そんな時代であればこそ、何時でも何処でも気軽に読める本を手に取って貰い、読書の楽しみへの足掛りにして頂きたい。書店員として、そんな風に思っている。

  ◇ 

昔から、「何かお薦めの本はありますか?」

と、尋ねられたら、先ず紹介する本がある。

ジュール・ルナールの『博物誌』(新潮文庫:岸田国士訳)である。

「書を捨てよ、町へ出よう」と言ったのは寺山修司だったが、たとえ町に出ようとも、私は何時でもこの本を持ち歩きたい。

開いたどのページからも、至福の時間が約束されているからだ。

博物誌といっても自然科学の本ではない。並ぶのはこんな言葉だ。

「蛇―長すぎる」

「蝶―二つ折りの恋文が、花の番地を捜している」

「あぶら虫―鍵穴(かぎあな)のように黒くぺしゃんこだ」

「驢馬―大人(おとな)になった兎(うさぎ)」

今から100年以上前の1896年に執筆された本書は、小説家や画家など、多くの芸術家たちにも愛され、彼等に刺激を与え、創作の幅を膨らませて来た。

時代を経ても一切古びる事のない、ユーモアとウィット、エスプリに富んだ含蓄あふれる本なのである。

そして挿画はピエール・ボナール!

竹久夢二にも影響を与えた印象派の走り、ナビ派の巨匠である。何と贅沢なコラボレーション!

どのページから読んで頂いても、いずれの掌編もあなたの気分をほぐし、癒してくれること間違いなし!

ぜひ、通勤・通学のお供に携行して頂きたい一冊である。

(実は『博物誌』には岩波文庫版もあり、こちらは辻昶の訳で、挿画はロートレック!!どちらを選ぶか迷うところです)

  ◇ 

斜陽などと言われ、若い方々の本離れが進むこの時代。だからこそ、もう一度、本の力を信じたい。そして読書を楽しむ幸福な時間を、一人でも多くの人達と分かち合いたい。

そんなことを思いながら、今日も私は、店頭に立つ。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

今週紹介した本

『博物誌』(ジュール・ルナール)

今週の「本屋さん」

井上哲也/ 大垣書店豊中緑丘店(大阪府豊中市)

どんな本屋さん?

井上さんが勤める「大垣書店豊中緑丘店」は、豊中市の丘の上に位置するイオンモールの中にあります。ある出版社の営業さんによると、周辺地域のお客さんに合わせて選んだ品揃えの中にも、「一人一人の書店員さんのこだわりの選書を感じる書店さん」とのこと。中でも、井上さんがセレクトしているミステリー文庫の棚は、定番モノから他店ではあまり置かれていないものまでがびっしり並び、おすすめなのだそう。「大垣書店さんのシンプルでシックなブックカバーが個人的に好きなのもあり、ついつい何かを買いたくなってしまうお店です」

撮影:橋本莉奈(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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