本屋さんの推し本

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見栄を張って疲れているあなたへ。 不安や苛立ちに苛まれてる君へ。くまで「フフッ」と笑ってほしい。

本屋さんの「推し本」

書店員というのは、なんとも不思議な仕事です。

給料はぜんぶ本につぎ込んでいます!、と言い切れるほど読書家でもない私が、なぜか魅了されてしまう「本屋」という場所。

かなりの肉体労働だし、接客業特有のストレスもヘヴィーだし、時給も安い…それでも、本のデザインやイラストを鑑賞したり、インクや紙の匂いを感じたり、ページを捲る音や指先に感じる感触を楽しんだり、と五感で本と触れることができる書店員という仕事に、えもいわれぬ愛着を感じながら、今日まで続けてきました。

そんな私が、年齢も性別も職業も関係なく、全ての方に「これ、どうですか?」とおすすめしたい一冊があります。

それは、『ともだちはくま』(KADOKAWA)という本です。

ともだちはくま

何だかシュールで、フォルムがサイコーに可愛い。

喜怒哀楽の表情が豊かで、鼻に寄る皺でさえキュート。

見ていて飽きない。

なぜか「女装が好き」という、ちょっぴりシュールな癒やし系くまです。

元々はLINEスタンプのキャラクターとしてこの世に生まれた、名も無きくま(以下、愛を込めて「くまちゃん」と称します)でしたが、作者である「さいきたむむ」さん(以下、敬愛を込めて「たむむさん」と称します)が、Twitterでもイラストやマンガを投稿するように…。

たむむさんのアカウントは日に日にフォロワー数が伸び、その増殖が止まらず、今やフォロワー数8万超えとなっています。

かきフライの日だよー pic.twitter.com/h7MIVhV8Ba

— さいきたむむ (@tamsorogi) 2018年11月21日

Twitterに上げるイラストやマンガの主なテーマは『今日は○○の日』。「フランスパンの日だよー」「今日は鮭の日ヽ( ‘ω’ )ノ」「ピザの日だよー ピザ食べたい」といった具合です。

ツイートを見ていると、フォロワーさんたちの方から『今日は○○の日らしいですよ』だなんて情報を受けて、たむむさんがイラストを作成なさっているのを、よくお見掛けしています。

書籍『ともだちはくま』は、こんな風に作者とファンとの絆で育まれたTwitter上の作品を纏めた(勿論、描き下ろしも加えた)作品となります。作り手と受け手が一緒にキャラを育てていくーーまさにSNS時代を象徴する一冊だと思うんです。

くまちゃんの言動のひとつひとつには、胸に熱く来るものがあります。

くまちゃんは獣であるだけに、とにかく『本能』に忠実なんですね。

主に食欲や睡眠欲などの生理的欲求に、気持ちが良いほど素直にしたがって行動します。

好奇心旺盛で失敗を恐れない。

失敗をしても、めげない。

痛い目に遭ったり、自分の思うような結果にならなくても

そばにいる仲間を決して責めたりはしない。

これは、どのくまちゃんにも共通していることです。

私は、そんなくまちゃんたちが美しいと思うし、愛おしくて堪りません。

私たち人間は、生きていく上で必要な虚飾を纏っているものですが、そんな虚飾を一糸も纏わず生きる、くまちゃんたちの『強さ』と『優しさ』に憧れと尊敬の念すら抱きます。

……とまぁこれは、私が頭を一生懸命、回転させて分析した内容であり。

実際に本を読んでいる時には、ただただ萌えたり、笑ってしまったり、一言で言えば『癒される』訳です。

普通は、そこまで深く考えながら読むことなんてないと思います。

それでも、たいていの方が読めば「フフッ」と、笑ってしまうだろう。

そんな気がします。

どんな老若男女も、直感的に「癒し」を感じることが出来るのでは?と、信じています。

近年はストレス社会に重ねて、世界的に政治も不安定で、自然災害が容赦なく襲い掛かってくる頻度も高まり、不安や苛立ちは更に募りやすいという状況です。

そういった悲しみや怒りという感情は伝染するもので。

それらを振り払うには、やはり「楽しい」とか「嬉しい」というプラスの感情が不可欠ですよね。

世の中には様々なストレス発散法があって、人によって効果はそれぞれ違うけれど、『本を読む』という方法はすごく身近で手軽な存在です。

だからこそ『本』や『本屋』は、これからの世界にも必要であり、たとえ細やかな力だとしても、たくさんの人の生きる糧になり、人生を豊かにするものだと思います。

出来ればひとりでも多くの人が笑って楽しく過ごせたら…という願いを込めて。

私は『ともだちはくま』をおすすめしたいと思います。

どうか、あなたが明日も元気で頑張れますように。

「フフッ」と、笑ってくれますように。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

『ともだちはくま』(さいき たむむ)

今週の「本屋さん」

三井洋子/ 東京都内某所の書店に勤務

撮影:橋本莉奈(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)

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「咳をしても一人」の作者を知っていますか? 書店員歴20年の私の日常を変えた1冊とは。

「友人に誘われて…」。

部活を決めるときみたいな、そんな安易な理由で、私は書店員になった。それから20年。こんなにも長く、書店で働くことになるとは思ってもみなかった。

思いのほか体力が必要だったり、本に向き合う時間が取れなかったりすることも、あまり気にならず続けてこられたのは、毎日これでもかと入荷してくる、見たことも聞いたこともない言葉や世界にあふれた本に接することが楽しかったのだ。

本を愛する書店人と働くことも愉快だった。

太宰治の『道化の華』を延々とそらんじる人、シェイクスピアの『夏の夜の夢』が読みたいと言ったら「これがいい入門になるから」といって『ガラスの仮面』を貸してくれた人、忠臣蔵がきっかけで歴史好きになったのに、最終的には1300年前の書簡を読み解く新書『飛鳥の木簡』を読んでいた人……挙げればきりがない。

たくさんの本と変わった人たちに囲まれて、書店での日々は退屈しなかった。

飽きない、ということは、仕事を続けていく上で一番大切なことかもしれない。

教科書に載ってた、「咳をしても一人」の人

書店員になってよかったことの一つに、本との思わぬ出会いがある。

『尾崎放哉全句集』(ちくま文庫)がそうだ。

『道化の華』をそらんじていた人に紹介してもらった宮沢章夫の『牛への道』(新潮文庫)の中で、尾崎放哉(おざき・ほうさい)の句が紹介されていた。

 咳をしても一人

圧倒的な淋しさの余韻が尾をひくこの句に聞き覚えがあった。確か学校で習ったはずだが、自由律俳句と言えば俳人の種田山頭火が有名で、放哉の名前はすっかり忘れていた。

 入れものが無い両手で受ける

この句なんか、とても放哉らしくて味わい深い。

「どういう状況だよ!」とまず思うし、入れるもの次第ではこぼれるんじゃないかと心配で仕方ない。

入れものがないくらい貧乏なら哀しすぎるし、手近に入れものがなく無精したならお馬鹿さんだ。

考えれば考えるほど放哉の句が頭から離れなくなり、私は『尾崎放哉全句集』を手に取った。

 墓のうらに廻る   「怖いよ!」

 爪を切ったゆびが十本ある   「だから何?」

 淋しい寝る本がない   「女子かよ!」

ツッコミをいれずにはいられない、クセの強い句が並んでいた。

尾崎放哉全句集

読むだけでも十分おもしろいのだが、どう解釈するかが難しい。「解説を読めば」と言うなかれ。それでは放哉の句に向き合えていない。どう読むかは私の自由にさせてもらう。

まずは黙読、音読、そして考えを巡らせる。ただそのままを詠んでいるだけかもしれない、いやきっと深い意味があるに違いない。

わかったような気になって、結局ちっともわからなくて、そのまま受けとめるしかないかとまた音読する。答えはどこにもない。それで構わない。

人間誰しも、わからないことは不安だ。恥をかいたり、失敗したりするかもしれない。

特に仕事や人間関係ではより速く、より簡単に正解がほしいと思ってしまう。

そんな時「わからないことを楽しめ」とほくそえんでいるような、放哉の句を思い浮かべる。

わからないを受け入れて、わからないを考える。答えがないかもしれないなら、おもしろがるほうがいいじゃないかと開き直るのだ。

他にも放哉の句は、私たちの日常に取り入れられる。

何もいいことがない日にはこの句を。

  犬よちぎれるほど尾をふつてくれる

無駄に過ごしてしまった日にはこの句を。

  昼の蚊たたいて古新聞よんで

替え歌ならぬ替え句にしてしまってもいい。

柱の角に小指をぶつけたら、「小指をぶつけても一人」

コンビニでプリンを買ったのにスプーンが入ってなかったら、「スプーンがない箸ですする」

淋しさ、哀しみ、怒りが少しやわらぎませんか。

さあ、あなたの人生に放哉を!

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

今週紹介した本

『尾崎放哉全句集』(ちくま文庫)

今週の「本屋さん」

中村明香/ ジュンク堂書店天満橋店ビジネス書担当

どんな本屋さん?

中村さんが勤める「ジュンク堂書店天満橋店」は、品揃えの豊富さとジャンル分けの細かさが特徴のジュンク堂の中でも特に、話題書やフェアにかける思いがびびっと伝わる売り場になっているんだそう。ある出版社の営業さんは、入り口付近のコーナー棚に誘われて入店すると、なかなか出てこられなくなってしまう、と語ります。

ジュンク堂

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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もう半世紀、本屋さんで働いてきました。 そんな僕が紹介する1896年の名作。

14歳、中学2年の時からアルバイトで書店で働きはじめた。

半世紀近く本屋さんに関わっている事になる。

思い起こせば、最初に勤めた今は無き老舗書店の社訓は「私達は、知識の伝達者です」であったなぁ。

かつて本屋さんは、「街のホットステーション=人の集まる社交の場」であったし、本は娯楽の王道だった。

現在は、様々な娯楽の多様化にもより、某大手出版社社長の言葉を借りると、

「書店に一年間で一度も足を運ばない人が過半数、読書は娯楽では無く、道楽」

だそうだ、やれやれ。

そんな時代であればこそ、何時でも何処でも気軽に読める本を手に取って貰い、読書の楽しみへの足掛りにして頂きたい。書店員として、そんな風に思っている。

  ◇ 

昔から、「何かお薦めの本はありますか?」

と、尋ねられたら、先ず紹介する本がある。

ジュール・ルナールの『博物誌』(新潮文庫:岸田国士訳)である。

「書を捨てよ、町へ出よう」と言ったのは寺山修司だったが、たとえ町に出ようとも、私は何時でもこの本を持ち歩きたい。

開いたどのページからも、至福の時間が約束されているからだ。

博物誌といっても自然科学の本ではない。並ぶのはこんな言葉だ。

「蛇―長すぎる」

「蝶―二つ折りの恋文が、花の番地を捜している」

「あぶら虫―鍵穴(かぎあな)のように黒くぺしゃんこだ」

「驢馬―大人(おとな)になった兎(うさぎ)」

今から100年以上前の1896年に執筆された本書は、小説家や画家など、多くの芸術家たちにも愛され、彼等に刺激を与え、創作の幅を膨らませて来た。

時代を経ても一切古びる事のない、ユーモアとウィット、エスプリに富んだ含蓄あふれる本なのである。

そして挿画はピエール・ボナール!

竹久夢二にも影響を与えた印象派の走り、ナビ派の巨匠である。何と贅沢なコラボレーション!

どのページから読んで頂いても、いずれの掌編もあなたの気分をほぐし、癒してくれること間違いなし!

ぜひ、通勤・通学のお供に携行して頂きたい一冊である。

(実は『博物誌』には岩波文庫版もあり、こちらは辻昶の訳で、挿画はロートレック!!どちらを選ぶか迷うところです)

  ◇ 

斜陽などと言われ、若い方々の本離れが進むこの時代。だからこそ、もう一度、本の力を信じたい。そして読書を楽しむ幸福な時間を、一人でも多くの人達と分かち合いたい。

そんなことを思いながら、今日も私は、店頭に立つ。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

今週紹介した本

『博物誌』(ジュール・ルナール)

今週の「本屋さん」

井上哲也/ 大垣書店豊中緑丘店(大阪府豊中市)

どんな本屋さん?

井上さんが勤める「大垣書店豊中緑丘店」は、豊中市の丘の上に位置するイオンモールの中にあります。ある出版社の営業さんによると、周辺地域のお客さんに合わせて選んだ品揃えの中にも、「一人一人の書店員さんのこだわりの選書を感じる書店さん」とのこと。中でも、井上さんがセレクトしているミステリー文庫の棚は、定番モノから他店ではあまり置かれていないものまでがびっしり並び、おすすめなのだそう。「大垣書店さんのシンプルでシックなブックカバーが個人的に好きなのもあり、ついつい何かを買いたくなってしまうお店です」

撮影:橋本莉奈(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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