本屋さんの推し本

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夜の歌舞伎町をアップデートすべく、ナイトタイムエコノミーのプレイヤー必読の1冊

「通り過ぎる街から、居れば居るほど面白い街にしたい」

ダンスやナイトエンタテインメントを規制する風営法改正。その立役者でもある齋藤貴弘弁護士の『ルールメイキング:ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論』は、僕含めナイトタイムエコノミー(夜間における経済活動)のプレイヤーは必ず読むべき本です。

齋藤貴弘『ルールメイキング:ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論』(学芸出版社)

店内の明るさなど制限はあるものの、現在、クラブは24時間営業できるようになりました。それは、音楽好きの知識人の方々が無償で動いてくれたことによって、風営法が改正されたおかげです。

歌舞伎町には「お金に色がない」と思っている人が多いですが、自分たちの経済活動のためではなく、文化の醸成という、人間としての誇りを大事にしようと、音楽・ダンスをあらゆる角度から立体的に捉えて、法改正を実践しました。時代遅れのルールを正攻法で改正し、楽しい未来に向けてのルールメイキングに成功したのです。

本書では、そうした法改正の軌跡と、さらに、そこから始まるナイトタイムエコノミーのこれからの時代における重要性や課題について、丁寧に解説しています。

多くの人は歌舞伎町を通り過ぎていく…

先日、オランダ・アムステルダムのナイトメイヤー(夜間の行政を担当する責任者)を務めるシャミロ・ヴァン ディア ジェルドさんたちとトークさせていただきました。

いまナイトタイムエコノミーというと、音楽に加え、インバウンドのイメージが強いですが、インバウンドはその中心ではないと彼らははっきり言っています。

昼にはないフラットな関係性を築ける夜の時間の価値や、世代や人種、性別をクロスすることで生まれる文化━━。

それが夜の価値だと、僕も思います。

歌舞伎町は大衆文化の街です。誰でも受け入れるという寛容さの反面、軽薄さも美徳としてしまう部分があります。

俗世を離れて気を抜いて、「まいっか」と思わせる街が歌舞伎町です。

だから、ある時期は歌舞伎町に通うけれど、多くは通り過ぎていきます。それは歌舞伎町で働く人も、歌舞伎町に遊びに来る人も同じです。

でも、僕は居続けたい。居続けるためには変わらなければいけない意識喚起を、この本はしてくれます。

夜のコンテンツを提供する側は、その質を上げていく努力をしなければいけません。こうやって、我々の文化を昇華させようと取り組む遊び好きな人たちがいるということに気づかなければいけません。

インバウンド向けのコンテンツづくりは必要ないと思います。なぜなら、それは短絡的な大人の建前のようなものであって、本質ではないから。それよりも、ゆっくりと時間をかけて、文化を醸成できるようなコミュニティにしていくという覚悟が必要だと思います。

歌舞伎町は、内輪のポジション争いに終始していてはいけない。内弁慶ではなく、いや、多少内弁慶の面白さもあって良いが、深さを持った面白みに変えていく努力をするべきです。

そうすることで、自分たち自身で、通り過ぎる街ではなく、居続ける街に変えることができると思っています。

歌舞伎町は海外の事例を真似することができないくらい独特な街です。

多くは店側とお客側がはっきりと分かれていて、クラブを中心とした海外のナイトシーンとは違います。しかし、音楽という万国共通の文化をハブにして、そこがコミュニティになり、飲食店との連携がとれるようになるのが道筋のように思います。

日本で最初にできた商店街振興組合は歌舞伎町です。戦後の復興は、この街の商売人の方たちを中心に進められました。まさに本書におけるルールメイキングをしてくれた先輩たちがいたおかげなのです。海外のナイトメイヤーの機能を、すでに昭和30年代に実践していたのです。

そこからさらに、アップデートさせる時がきているように思います。それは課題解決ではなく、自分たちの楽しい未来をつくるためです。

そうすれば、僕たちプレイヤーは一生遊びながら、それを生業として生きていくことができるのだから。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

齋藤貴弘『ルールメイキング:ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論』(学芸出版社)

今週の「本屋さん」

手塚マキ(てづか・まき)さん/歌舞伎町ブックセンター(東京都新宿区)

どんな本屋さん?

新宿・歌舞伎町のラブホテル街のど真ん中に位置する書店です。本棚に並ぶのは「愛」をテーマにした約600タイトル、書店員ならぬ“ホスト書店員”が、おすすめの本を紹介してくれます。現在は移転作業のため一時的にクローズ中で、再オープンは6月中を予定しています。

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)

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手塚マキさんが名著を独自の見方で読み解いた新刊『裏・読書』が4月20日、「ハフポストブックス」から刊行されました。全国の書店、ネット書店で販売されています。

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前田裕二さん『メモの魔力』を、書店員の私はこう読んだ。店頭での売れ方は…

『メモの魔力』は秋元康さんが「ホリエモン(堀江貴文)以来の天才」と称した、前田裕二さんの2冊目となる著書です。

幻冬舎の天才編集者・箕輪厚介さんが1冊目の『人生の勝算』を作っていたとき、8歳で両親を亡くされて、路上でギターの弾き語りをしてお金を稼いでいたなど、前田さんの人生のエピソードを聞き、「すごい人だ!」と思ったそうですが、なかでも一番衝撃を受けたのがメモのとり方だったそうです。

すでにその時点で、前田さんのメモ本を作ろうと思ったほど濃い内容だったと言われています。

前田裕二『メモの魔力』(幻冬舎)

 

まず、メモには2種類あって…

1つめは「記録」のため

2つめは「知的生産」のため

1つめの「記録」は、AIやロボットにも出来ること。

2つめの「知的生産」はアイデアを言語化することで、これこそが前田さんが「メモ」と呼んでいるものです。

前田さんのメモは見開きで使われます。

左ページに左脳的な事実、右ページに右脳的な発想を書きます。

左ページには具体的な、実際目にしたり、聞いたりした事実=ファクトを書き、右ページは2つに分けて、左側にファクトを抽象化したものを書き、さらに、その右に実際どうしたらいいかという転用を書きます。

インプットしたファクトをもとに、気づいたことを抽象化し、自分の行動に転用するのです。 このように書くと難しく感じられるかもしれませんが、前田さんはそのやり方を自身のノートを使って丁寧に説明されています。

この方法にもとづいて、巻末についている自分を知るための1000個の自己分析をしていきます。 ファクトは仕事や日常の中で気になったことを書くのですが、抽象化、そして転用まで進めることで思考が深まります。

実際やってみるとファクトまでは書けるものの、その先が難しく、止まってしまうのですが…

抽象化 → 「ということは」

転用 → 「他のことで生かすと」

など、実際にメモ魔を始めた人たちのメモの写真やヒントがSNSにアップされていて、それらを参考にしながら進めることができました。

読者がツイッターにアップしたメモに、前田さんご本人が返信やリツイートをすることでノウハウが拡散され、みんなもがんばってやっているから私も…、という一体感がさらなる読者を増やしていく様子がわかりました。

これは、前田さんが『メモの魔力』を読者に届けるための30のアイデアの1つですが、ほかにも…

・『メモの魔力』出版前に、人生の軸(人生という航海を進めるためのコンパス)を募集し、約1000人の方から寄せられた人生の軸を巻末に載せている。

・3月2日から31日まで『メモの魔力』にサインをするため、書店まわりをする様子や本に書いてないことを動画にしてYouTubeにアップ。

・24万人のフォロワーがいるホリエモンチャンネルにゲストとして登場、『メモの魔力』を宣伝。

・表紙のペンの色を増刷の度に変えているうえに、全色揃えて背表紙側からみるとペンの絵が完成するという、何冊も集めたくなるような装丁。

・朝の情報番組『スッキリ』にコメンテーターとして不定期レギュラー出演。

なかでも『人生が変わる1分間の深イイ話』出演の際には、放送前に「#深イイ前田」でみんなでコメントしてトレンド1位をとりましょう、と呼びかけ実際世界のトレンド1位になり、読者参加型の祭りになりました(私もツイッターにコメントをアップし、お祭り気分を味わった1人です)。

2018年12月の発売当初はビジネスマンが主な購入層でしたが、翌3月には大学生や高校生も店頭のコーナーに立って話題にする様子がみられ、現在は中高年男女のお客様層まで広がりを見せています。

『メモの魔力』の売れ方は過去のビジネス書とは一線を画していますが、その大きな理由1つは、前田さんが代表を務めるSHOWROOMの双方向型ビジネスを“本”に試みて、達成したことでみんなが感動したり、ワクワクしたことでしょう。

自分が何をしている時に一番楽しいのか、発見することができたのはこの本の「ファクト→抽象化→転用」のおかげでした。

ピアノ講師から書店員という人生の中で、わたしは自己分析をする機会を持ち得ませんでした。 具体的に何がしたいかわかれば、行動がわかり、自分がトップダウン型のモチベーションかボトムアップ型モチベーションかどちらの生き方に喜びを感じるのか把握し、行動を細分化していきます。

トップダウン型は重要度を価値観との関連で決定し、行動をゴールから逆算します。

一方、ボトムアップ型は重要度をワクワクするかどうかで決め、行動は目の前の面白そうなことに飛びつきます。

例でいうと西野亮廣さん、前田裕二さんはトップダウン型、ボトムアップ型は堀江貴文さん、箕輪厚介さんです。

この本には、自己分析1000問がキビシイ方のために、簡略化したライフチャートという自己分析フレームワークも用意されています(前田さんの、誰も見捨てない、まさに神対応…!)。

巻末に掲載された1000人の多種多様な人生の軸のうち、共感したものにアンダーラインを引くことで自分の人生の軸がわかりやすくなる、というヒントもあります。

AIが進化したら、時間が余る、そのとき何をしたらいいかわからないということがないように、自分を知っておくためにもメモは大切だということ。AIの発達によって店舗に人がいなくなったりすることで、人と人の関わり、接点がなくなりもっと人は寂しくなると前田さんは言っています。

また、音楽やエンタメなど、ついそのことばかり考えてしまう可処分精神の奪い合いがこの先のビジネスを制するという予測もされています。

ブレイディみかこさんの『ぼくはホワイトで、イエローでちょっとブルー』を読んでイギリスの中学生たちが学んでいるシチズンシップエデュケーション(市民としての資質、能力を育成するための教育)を知り、つい日本の教育と比べてしまいました。

自己分析をして、深く自分を掘り下げることで、前田さんがそうであったように、子どもたちの生きやすさも変わるのではないかと。

そして単なるビジネス書には終わらないこの本の終章には、お兄さんや先生に対する感謝と、前田さんが書くかどうか最後まで迷った、というコンプレックス体験が書かれています。 はじめて読んだとき、正直涙ぐんでしまいました。

人の能力の差はそんなに大きくない、やるか、やらないかだと思う。輝いている人は努力している、というのが1日3時間睡眠の前田さんからのメッセージです。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

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今週紹介した本

前田裕二『メモの魔力』(幻冬舎)

今週の「本屋さん」

たかつきさん/水嶋書房

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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平成元年に書店員になった私がおすすめする、“メディアミックス”の先駆者「角川映画」の軌跡をたどる1冊

私が書店員になったのは平成元年の暮れのことである。現在の会社の新規店舗スタッフ募集にアルバイトとして入った。

ぶっちゃけ、暇だったのである。なので、平成のほとんどを書店員として過ごしたことになる。

本は好きでよく買っていたしよく読んでいた。今日入った新刊を誰よりも早く見ることができるのは、快感だった。

書店員の視点から、様々なヒット作品、ベストセラーを見てきた。売れるのも納得なものもあれば、「なんでこれが…」と唖然とするようなヒット作もあった。

書店員として最初の数年間は、文庫を担当した。各社文庫のスリップを数え、シェアや売行きを調査しながら、売場の棚構成を考えていた。

文庫というジャンルで当時、最も賑やかだったのが、角川書店(現在のKADOKAWA)の「角川文庫」だった。

角川文庫の一般文庫だけでなく、若い読者向け(当時はまだ「ラノベ」という言葉もなかったと思う)の「スニーカー文庫」があり、やがて女性向けレーベルの「ルビー文庫」が創刊した。関連会社が出した「富士見ファンタジア文庫」も勢いがあった。電撃文庫が出るのはまだ先の話だ。

そう、私が書店員になる前から、「メディアミックス」という戦略でヒット作品を連発していたのが、角川文庫だったのだ。

そしてその中心にあったのが、角川春樹であった。

角川春樹事務所といえば、現在では「ハルキ文庫」などを出している出版社として知られている。社長はもちろん、角川春樹だ。

しかし、ある特定の世代、特に40〜50代の人にとって「角川春樹事務所」は、ある種のノスタルジーを呼び起こす固有名詞である。

薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子などのアイドル女優を起用して大ヒットを連発した、いわゆる「角川映画」を製作した映画会社の名前だからだ。こちらも角川春樹の会社だった。

中川右介『角川映画 1976-1986』(角川文庫)は、その「角川映画」が隆盛を極めていた頃の、角川春樹を中心としたドキュメンタリーである。

中川右介『角川映画 1976-1986』(角川文庫)

角川映画といえば、「メディアミックス」の先駆けとしてよく知られている。角川映画の第1弾は、『犬神家の一族』(1976年)。角川春樹の戦略は、映画公開と同時に横溝正史の原作文庫を売ること。さらに原作小説だけでなく「横溝正史フェア」と題して大きく展開することだった。横溝正史の文庫の売上は、公開後に倍になった。

『犬神家の一族』の宣伝が画期的だったのは、映画の宣伝でもあると同時に角川文庫の宣伝でもあったことだ。(中略)

全国の書店には横溝作品が山のように積まれていた。前年秋の『本陣殺人事件』公開時には25冊(※1)・500万部(※2)だったので、1年でさらに500万部が売れたことになる。

だが、これで驚いてはいけない。81年秋に『悪霊島』が公開される時点では「80冊・5000万部突破」なのだ。これはほんの始まりに過ぎなかった。

(P.59)

※1…角川文庫における、横溝正史作品の出版点数

※2…累計発行部数

もともと出版界の風雲児だった角川春樹が、映画界に殴り込みをかけた形だ。そしてほぼ同時期に、CM業界からも異色の才能が映画界に殴り込みをかけてくる。大林宣彦だ。ただ、2人が本格的にタッグを組むのは、もう少し先のことだ。

角川映画のメディアミックス戦略は続いていく。森村誠一原作の『人間の証明』は、「かあさん、ぼくのあの帽子、どうしたでしょうね」のCMフレーズが話題となり、主題歌も売れた(ただし主題歌を歌い、映画にも出演したジョー山中は大麻不法所持で逮捕されたが、それで逆に話題になった)。

『野生の証明』は、主演の高倉健と、オーディションで選ばれた新人女優・薬師丸ひろ子のコンビが大きな話題となった。

高木彬光の『白昼の死角』、大藪春彦の『野獣死すべし』、小松左京の『復活の日』、半村良の『戦国自衛隊』など、メディアミックス戦略は次々にヒットを続けていた。『魔界転生』のヒットから、山田風太郎の忍法帖ブームが再燃した。

そして、眉村卓の『ねらわれた学園』は、薬師丸ひろ子主演、松任谷由実の主題歌(「守ってあげたい」)が大きな話題となったが、これが、大林宣彦監督作品だった。

角川春樹と大林宣彦は、その前に『金田一耕助の冒険』というユーモア映画を作っているが、興行的には完全に失敗作だった。『ねらわれた学園』は、大林宣彦への評価が固まるきっかけでもあり、角川映画の「アイドル映画」路線への契機となった作品だ。

角川映画の黄金時代は1981年公開の『セーラー服と機関銃』(原作・赤川次郎)から始まる。その頃、大林宣彦は、故郷の尾道で映画を撮影していた。『転校生』だ。

のちに「尾道3部作」の第1作として今では伝説的な作品だが、男の子が女の子になって裸になる、などのストーリーが下品だとスポンサーが降りてしまい、公開は一時、路頭に迷った。出資者を求めた大林は角川にも相談したが、「うちの本ではない」と断られた。角川はメディアミックスありきだったのだ。

結果、ATGと日本テレビの提携作品として公開された。『転校生』を観た角川春樹は激賞、当時推していた新人女優・原田知世を使った映画を大林に依頼する。

「原作は、題名がいいので『時をかける少女』。舞台は尾道でお願いします。条件はこれだけです」

(P.221)

大林宣彦は、尾道の映画は『転校生』1作きりのつもりだった。だが、角川春樹の説得に折れた。

「角川春樹ひとりが観てくれれば、それでいい。観客動員なんて関係ない。それと、何十年後かに、僕も春樹さんも死んだ後、原田知世がひとりで揺り椅子に座って、少女時代を懐かしんで観てくれればいい。そういう映画にしよう、と」

(P.222)

薬師丸ひろ子主演の『探偵物語』と同時上映の、どちらかと言えばおまけ扱いだった『時をかける少女』(原作・筒井康隆)は、高く評価され、今でも繰り返しリメイクされるほどの伝説的傑作となった。

…と、ここまで、『角川映画』の内容に即して紹介してきたが、当時の映画界の流れがまるで今見てきたかのようにドラマティックに描かれている。膨大な資料を元に交通整理しながらまとめていく、ノンフィクション作家・中川右介の真骨頂である。

本書は元本(ソフトカバー文芸書)では、1986年の『彼のオートバイ、彼女の島』まで書かれていた。これも大林宣彦監督作品で、原作は片岡義男だ。角川映画の最盛期は、角川春樹と大林宣彦、そして角川文庫の時代だった。

文庫版では「その後」の歴史も簡単に触れられている。角川春樹は社内でいろいろ揉めて角川書店を去り、逮捕・投獄もされた後に、出版社「角川春樹事務所」を設立した。こういう事情を考えれば、角川春樹の歴史を書いた本が「角川文庫」から出ていることも、すごいことなのだ。

実は本書の読みどころは、もうひとつある。出版界における角川春樹の功績だ。

アメリカで大ベストセラーだったエリック・シーガルの『ラブ・ストーリィ』の翻訳出版を周囲の反対を押しのけて決行し、大ヒットさせた角川春樹は29歳で編集局長になった。「社長の息子」だから出世したのではなかった。

角川春樹の出版界最大の革命は、「文庫にカラーの表紙をつけた」ことだった。現在では当たり前だが、当時はカバーがないのが普通だったのだ。そして彼が推し進めていくのが、メディアミックスである。

本書『角川映画 1976-1986』は、出版と映画、2つの産業を見事に結びつけ、どちらのジャンルでも成功を収めた人物の記録でもあるのだ。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

中川右介『角川映画 1976-1986』(角川文庫)

今週の「本屋さん」

三島政幸(みしま・まさゆき)さん/啓文社 ゆめタウン呉店(広島県呉市)

どんな本屋さん?

広島は呉市、ゆめタウン内にある書店です。戦艦「大和」を生んだ街・呉の歴史と、科学技術を紹介する博物館「大和ミュージアム」が隣接しているため、「大和」「戦争」などをキーワードにした商品を豊富に取りそろえています。ファミリー層も多く、児童書も充実しているので、ぜひご家族で足を運んでください。

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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生きること=「居る」のはつらいか? ぼくが精神科医療の現場から、ブックカフェを立ち上げるに至ったワケ

「メンタル系移動ブックカフェLOTUS」

 

居るのはつらいか━━。

 

「呼吸して生きていくのはとてつもなく苦しいのに、息を止め続けるのも苦しい」

今年の4月にTwitterで出会ったことばである。

息をすること、生きること、…「居る」のは、(ときどきひどく)つらい。

 

幼稚園教諭と保育士を養成する専門学校での7年間の勤務の後、ぼくは精神科医療の現場に戻ろうとしていた。

喜び勇んで戻った現場、医療法人が経営する就労移行支援事業所と週に一回の精神科デイケア、そしてクリニックで、ぼくは浮いていた。

「患者が、利用者が、好きだ」と言ったら「あなた、それはちょっとおかしいわね」と看護師長に言われた。
様々な原因はあるのだろうが、理解者も見つけられず孤立無援な心境で、居るのがとてもつらかった。
結局がまんできずに半年で仕事を辞めて、就職活動を始めたけれどもうまくいかなかった。

求人を漁り、応募し結果を待つ間も妻に頼りきりで、無職であるのにもかかわらず家のことも十分にせず「ただ、いる、だけ」の時間がつらかったので、わずかばかりの家事をしながら考えていた。

何かできることをやろう。

元々ひどい飽き性で、「継続は力なり」が真であれば、ぼくは全くの無力だった。

それでも「これまでかろうじて続いてきたものなら、できるかもしれない」と考えたとき、「本」と「珈琲」はずっと好きであることを思い出した。

そして精神医療の現場で培った、ひとと関わる知識や技術、そして経験だけはぼくのなかで唯一とも言える職能だった。

イメージは湧いていた。公園などでただぼんやりと「存在」しながら、採用面接の結果と、ときどき来る可能性のあるお客様を待つことのできる空間。そこに居る限り、無為に見えても収入を得る機会のある場所。無理なく存在できる、自由の隠れ家。

そうして「本」と「珈琲」と「対人援助」を組み合わせて出来たのが、“(おそらく世界で初めての)メンタル系移動ブックカフェ”だった。

東畑開人『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』(医学書院)

「居る」を脅かす声と、「居る」を守ろうとする声をめぐる物語 

京都大学を卒業した心理学博士である東畑開人さんが書いた『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』は、題名の通り「居る」ことについて、「ケア」と「セラピー」という文脈から考察した本である。

 

「それでいいのか? それ、なんか、意味あるのか?」

 

答えることができない問いを前に、僕は答えることを諦める。

「わからない、居るのはつらいよ」

だけど、声は問いかけることを止めない。

 

「それでいいのか? それ、なんか、意味あるのか?」

 

そう、この本は「居る」を脅かす声と、「居る」を守ろうとする声をめぐる物語だ。

「京大ハカセ」・東畑さんが、学部に4年、大学院に5年という学究生活の末、「カウンセリングがメインの業務」である(それなりに)高給の常勤職を追い求め辿り着いた、沖縄の精神科デイケアというふしぎの国。
名前を奪われ「トンちゃん」となった東畑さんは、何気なく「ただ、いる、だけ」を要請されたことへの戸惑いを発端に、「ケア」と「セラピー」について、そして精神科臨床における「居場所」を脅かす「黒幕」・「真犯人」について考察し始める。

 

ケア ↔ セラピー

「いる」 ↔ 「する」

心 ↔ 身体

専門家 ↔ 素人

円 ↔ 縁

シロクマ ↔ クジラ

治療者 ↔ 患者

人 ↔ 構造

アジール ↔ アサイラム

 

二項対立的にテーマを設けたうえで、喫煙室での些細なやりとりやデイケア活動であるソフトボール、クリスマス会でのゴールデンボンバー『女々しくて』の出し物、職員の人間関係や退職など、日日のエピソードを織り交ぜ分かりやすく東畑さんは語ってゆく。

 

そしてぼくは思い出すのだ。自分もかつてここに居たのだと。

30歳になってから、祖母が積み立ててくれていたお金で専門学校に通い、『精神保健福祉士』の国家資格を取った。

当時Coccoという歌手に憧れていたぼくは、沖縄で仕事を探し精神科デイケアのスタッフとして3年弱働いた(もちろんCoccoには遇わなかった!)。

詰め所で持ち回りの「リーダー業務」を担当し、送迎バスのルートを考えているふりをしていると、看護師やら作業療法士やら精神保健福祉士やらがぱたぱた出入りする。窓口に利用者さんが来ていろいろな話をする。

まるでお芝居を観ているようだった。その舞台が好きだった。

本書にあるように、デイケアは職員の入れ替わりが激しかった。毎月歓送迎会の「うちなー天ぷら」で唇をぎらぎらさせるうち、ぼくが好きだと思った『アジール』は「会計の原理」によって『アサイラム』に変わってしまったのか、あるいは『ニヒリズム』に食い破られたのか、いずれにせよ本書の著者・東畑さんと同じようにぼくは、様々な理由から沖縄には居られなくなって、地元の横浜に帰って専門学校の講師になった。

 

『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』が周囲の人たちの間で話題になり始めた頃、横浜の専門学校時代の先輩がわざわざこの本を送って(贈って)くれた。

読みながら、自分が「居た」歴史を思い出した。

つらくとも、これまでどこにどう居たのか。

それを今こんな形で語っている。

 

移動ブックカフェにせよ精神科医療のような対人援助職にせよ、自分の中の「ケア」と「セラピー」について、そして、これからどう「居る」のか、考え語り続けたいと思い直すきっかけになった1冊。

「ただ、いる、だけ」の価値を見失ってしまったひとのための本。

 「そして、それは語られ続けるべきなのだ」

 

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

東畑開人『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』(医学書院)

今週の「本屋さん」

勝亦健介(かつまた・けんすけ)さん/「メンタル系移動ブックカフェLOTUS」店主

どんな本屋さん?

飲める! 読める! 悩める! おそらく世界で初めての、メンタル系移動ブックカフェです。

東京都内一円と横浜市内で神出鬼没。目の前で挽くハンドドリップ珈琲と、お客様の体調や気分に合わせたカウンセリング・ハーブティ(Yogi Tea)を中心にお出しします。

精神保健福祉士である私が選んだ、“こころ”に関する本を読んだり買ったりもできます。

すこし前から伝説の精神科医R.D.レインを特集しているほか、まんがや寄付していただいた絵本も置いています。

福祉施設などにも出店いたしますので、ぜひお知らせください。

「メンタル系移動ブックカフェLOTUS」

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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言葉の概念にはグラデーションがある。考えることの面白さを教えてくれる“風通しのいい”哲学書

わたしたちは「言葉」を使う。

「言葉」で世界を理解し、お互いに「言葉」を交わし、意思を伝えあう。誰でも毎日やっている。そんなの当たり前だと思うかもしれない。

けれど、本当にそうだろうか。わたしたちは「言葉」を知っているのだろうか。

この1カ月のあいだ、1冊の本を少しずつ読んでいた。

鷲田清一『濃霧の中の方向感覚』(晶文社)。

鷲田清一『濃霧の中の方向感覚』(晶文社)

著者は、この3月まで京都市立芸術大学学長を務め、せんだいメディアテーク館長を務める哲学者。「臨床哲学」を提唱し、ひろく市民に開かれた哲学や対話のあり方を探りつづける実践者でもある。

本書には、「社会」「政治」「文化」「教育」「震災後のことば」「身辺雑記」というテーマにもとづき、新聞に発表されたものを中心に3、4ページのエッセイが収められている。

哲学者でありながらやさしい語り口。出てくる言葉は平易で、誰もが使ったことのあるものばかりだろう。なのにぼくは、これらの言葉を初めて知るような、清冽な感覚を味わった。

例えば、「自由」という言葉。「自らが何かを行う自由」として、主体的に使われることが多いだろう。また直接使わないにせよ、ふだんは意識すらしないほどに「自由」はこの手の内にあると思うかもしれない。著者はこう書く。

 

自由は、他人の自由をも認めること、ということはじぶんの自由を制限できるということを含む。ここからいえることは、自由は、この制限された自由をできるだけ多くの人が共有できるような社会の存在を前提とするということである。(P.183)

 

そして「弱さに従う自由」とは「気前のよさ」のことだと言ってのける。

「自由」という言葉は、ともすると自分勝手な行動やわがままを正当化する言葉としても安易に使われてしまう。あるいは意識すらしないことで誰かの自由を制限してしまうことがある。「公的な自由」「制限する自由」があって初めて「私的な自由」が成り立つ。「自由」という言葉はひとつでも、その概念にはグラデーションがある。

また例えば、「コミュニケーション」という言葉。企業はこぞって「コミュニケーション能力」を求め、ビジネス書の多くはその向上をテクニカルに指南する。相手と通じあう、共感することが無条件に奨励される。著者は、平田オリザさんの考え方を紹介しこう書く。

 

コミュニケーションは、他人と同じ考え、同じ気持ちになることではなくて、その逆、話せば話すほど他者との差異がより微細に分かるようになることだということ。その意味では、「話さない」のも確実に一つの表現だということ。(P.310)

 

ぼく自身この「コミュニケーション」という言葉に苦しめられてきた。うまく話せず、伝えたいことを伝えられない。説得や交渉が得意ではない。「コミュ障」なんて言葉もあるし、ぼくも頂戴したことがある。

しかし以前、平田オリザさんの『わかりあえないことから』(講談社現代新書)に出てくる上記のような考え方を知り、その呪縛からもいくらか解放されたように思う。

「コミュニケーション能力」というものは相対的な概念であり、時代や環境が変われば定義も変わるのだということ。「わかりあえない」という痛切な感覚がコミュニケーションの起点になりえるのだということ。

この哲学者が書いたエッセイを、ぼくはひとつのイメージを持ちながら読み進めた。

当たり前のように使っていた言葉や概念を頭から取り出して目の前に置き、距離を取る。様々な角度から光を当て、眺め、吟味してみる。そうしていると、それらの言葉や概念が揺らぎ出す。あらためて自分の頭に戻してそれらを使うとき、世界が少しだけ違ってみえる。

哲学を体系的に学んだわけではないけれど、これが考えることであり、本を読むことの醍醐味なのではないだろうか。

それらは決して学問として閉じられたものではなく、開かれたものであるし、そうあってほしい。

なぜなら誰ひとりとして同じ人間は存在せず、人の数だけ言葉と概念のぶれが存在するからだ。考えること、本を読むこと、人がいること、対話が生まれること。それらはとても愉快なことだ。

著者は大学の執務室を「十字路」に改造したらしい。

書棚やテーブルを取っ払い、壁には卒業生が描いたフレスコ画。教員や学生が漆喰塗りを手伝い、入口の扉は中が見えて出入りしやすいようガラス戸に取り替えられたという。

そこでは通りかかった教員、学生、著者が関わりあい、想定していなかったような執務室ができあがった。それはまた次なる想定外の出会いを演出する。著者の哲学に対する考え方からもそんな「風通しのよさ」を感じた。

ぼくの本屋もそんな「十字路」のような存在でありたいと思う。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

鷲田清一『濃霧の中の方向感覚』(晶文社)

今週の「本屋さん」

益子陽介(ましこ・ようすけさん)さん/TSUTAYA LALAガーデンつくば(茨城県つくば市)

どんな本屋さん?

「TSUTAYA LALAガーデンつくば」は、ひたちなか市にあるコーヒー専門店「SAZA COFFEE」との県内初のコラボとなる、BOOK&カフェスタイルの書店です。お子様連れのファミリー層のお客さまが多いため、休日はお店の前にある広場で書店イベントなども開催。広い店内には「お店に置いていない本はないのでは!?」と思うほど、豊富なジャンルの書籍が並んでいます。

ファミリー層に特化したお店なので、児童書と教育書コーナーは広く、お子様が伸び伸びと遊びながら気になった絵本が読めます。

益子さんはビジネス書が大好きということで、「ビジネス書コーナーに革新を!」と思わず手に取ってしまうような素敵な棚づくりを日々実践中、見どころの1つです。

撮影:橋本莉奈(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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「モノより、サービス」。サブスクリプションは私たちの働き方も変える

「モノより思い出」━━。

とても好きなコピーです(※1)。

物を「所有する」よりも「所有しない」ことで複数の豊かな価値を得ることが、私たちの貴重な資源であるお金の使い方としてクールだと考える価値観が、いま世界を変えようとしています。

ティエン・ツォ、ゲイブ・ワイザート『サブスクリプション』(ダイヤモンド社)

サブスクリプションは一定の利用期間に応じて料金を支払う方式で、そうしたビジネスモデルを使って、市場には新しいプレーヤーが続々参入し、新しい体験価値を提供しつつあります。

富裕層をターゲットに月額3万円で高級フレンチを食べ放題にするプロヴィジョンから、比較的一般でも利用しやすいエアークローゼット(月額6800円でスタイリストによるコーディネイトで服が借りられる)にラクサス(月額6800円でハイブランドバッグが借りられる)など、外食からファッションまで、その体験価値がますます身近に広がっています。

サブスクリプションは、わたしたちの世界を急速に作り変えるほどの大きなパワーを持っています。

そのパワーとは、モノではないサービスによって、多くの人に成功体験を提供することです。

わたしたちはいつも、新しいワクワクするような体験価値との出会いを求めています。それはウェブ上の体験にとどまらず、リアルな体験だったりもしますよね。

例えば本は種類が多く、内容の良し悪しも簡単には判断できないため、自分で選ぶという作業はとても非効率的です。そこで詳しい人に選んでもらうというサービスがあれば非常に価値が高いといえます。

このように多くの顧客にとって価値があり、これならお金を払ってでも手に入れたいと思われるサービスを提供するために、経験や自分なりに培ってきたスキルを活用することができれば、それは自分にとってかけがえのない「モノより思い出」になります。

新しい価値を提供することは、わたしたち自身がワクワクして働くことにつながると思います。

サブスクを単に経済活動だけでなく、わたしたちの働き方を変える力にしなければ何の価値もないのではないでしょうか。

サブスクとは、自分と社会とのエンゲージメントでもあります。

与えられた仕事をするだけでなく、自分の頭で考えて創意工夫する仕事に対してこそ、潜在能力を最大限発揮できるのは明らかです。そうすることが企業と自分と顧客にとってwinwinwinの結果になります。

いま働いている環境の中でも新しい仕組みを考えて共有することは、成功体験を広く共有するという考え方もできます。

体験価値の素がわたしたちの周りにはいっぱいころがっていると気づける感覚がとても大切です。

その価値を提供する方法を考えて、顧客の求めている価値観に対応させる柔軟な頭が必要です。そうしてこそ本来自分が持っている知的財産を元に、価値を発揮したい分野で働くことができるようになります。

価格はサービスを使うことで得られる結果に対して決まるもので、サブスクリプション文化とは顧客に確実に成功してもらうことであり、それを自社の収益に変換することです。

わたしはどんな成功体験を提供できるだろうか? と常に考えてしまいます。

こうやって本を紹介するのも、ウェブで選書することで読書のきっかけを提供し、成功体験につなげてもらえれば嬉しいからです。

大きな企業はフットワークが重いことが多いけど、ひとりや数人で提供するスモールビジネスなら軽いフットワークで成功体験を提供することも可能でしょう。このように新しい働き方を創造するのもサブスクの可能性の1つだと思います。

わたしは仕事と同じくらい魚釣りが好きで、数年間に渡って複数の釣り雑誌に連載をしていたこともあります。

ハイキングやサイクリングに比べて釣りは少々難しいことが多く、そこそこマーケットが大きい割には成長しにくいジャンルのように感じます。始めてみたいけど、どうすればいいのかわからない、周りに教えてくれそうな人がいない…といった声をよく聞ききます。そこには成功体験を提供するチャンスがまだまだ潜在しています。

釣りのように、体験してみたいけどハードルが高くて挑戦するきっかけがないことは、身の回りに沢山あります。

顧客の潜在的な不満解消と成功体験を、ビジネスチャンスととらえてサービスを開発するのもサブスクの可能性です。

こんなスモールビジネスに、大企業は手を出しません。

働き方改革が始まったなかでの新しい働き方として、週末をサブスクの日にしてみるのも面白そうです。

サブスクリプションを軸にわくわくする働き方を模索する。『サブスクリプション』は、そんなことを考えさせられた、ここ最近では珠玉の1冊でした。

※1…コピーライター・小西利行による日産「セレナ」のキャッチコピー。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

 今週紹介した本

ティエン・ツォ、ゲイブ・ワイザート『サブスクリプション』(ダイヤモンド社)

今週の「本屋さん」

片桐明(かたぎり・あきら)さん/文教堂書店 淀屋橋店(大阪府大阪市)

どんな本屋さん?

オフィスビルの中に位置し、いつも仕事帰りの人たちでにぎわっている書店です。2フロアに分かれた店内には、いたるところに店長自らが書いたかわいらしいPOPが展示され、本を選ぶ人の助けになってくれます。POPを見つつ棚からじっくり本を探すもよし、ワゴンやテーブルに展開されたおすすめ本を見るもよし、宝物を探し出すように楽しめます。

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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オバマの座右の書。仕事、子育て、今日なに着よう?…答えのない問いと向き合う時の指針となる1冊

はじめまして!

駅ナカ書店のブックスキヨスク・ブックスタジオ(JR大阪駅・JR新大阪駅・JR森ノ宮駅・JR尼崎駅・JR姫路駅)でビジネス書のチーフバイヤーを担当しております桑野禎己と申します。

書店員、本屋さんで働くようになって15年。

本屋のおにいちゃんから、本屋のおっさんになりました。

中学生のころからベースを弾いていて、バンドでごはんを食べられたらなぁとバンド活動していた二十歳ごろ、せっかくいいと思える曲を作っても、歌詞が最悪やったらぜんぜんダメちゃうんかと思いました。

それで、いい詩を書くには、いい詩がある本屋さんにいればいいと思い、本屋さんのアルバイトに応募しました。

そこから15年、今はもうバンド活動はしておりません。

本屋さんの仕事と相性がよかったのか、長い間、僕は本屋さんとして生活しています。

 

棚を作ること、棚を作って売れていくことに、大変な魅力を感じました。

本屋さんの棚はライブでナマモノ。

朝に生まれた棚は、夜には死んでいるかもしれない。

手を入れ続けなければいけない感覚。

完成したと思ったら腐るみたいな。

とりあえず今はこれでいいみたいな。

なんかもうそんな感じ。

 

恥ずかしいんでやめます。

ラルフ・ウォルドー・エマソン『自己信頼』(海と月社)

僕が紹介させていただく本は、アメリカの哲学者であり、詩人であり、思想家でもあるラルフ・ウォルドー・エマソンの『自己信頼』(海と月社)です。

エマソンの思想・哲学は詩人宮沢賢治や喜劇王チャップリンなど、数多くの表現者たちに自分を信じ抜く勇気を与えてきました。アメリカ前大統領オバマさんも、エマソンの言葉を座右の言葉としているそうです。

 

「自分の考えを信じること、自分にとっての真実は、 すべての人にとっての真実だと信じること」

 

ドラゴンクエストに天空シリーズの装備があります。

僕にとってエマソンの『自己信頼』は天空の盾です。

僕を守ってくれる盾です。

 

本屋さんの仕事も、子育ても、今日着る服も、誰かにかけた言葉も、いま決断して実行したことも、正直、どれが正解なのかわかりません。

僕はバイヤーなので、各店舗を巡回します。店舗のビジネス書の売上に貢献できるように、担当者や店長と話し、棚を触り、商品を動かしPOPを描いたり、出版社に発注をかけたりします。でも、どれも正解ではないのかもしれないのです。

明確な問いがあっても、明確な答えはないかもしれない感じ。

 

「自分の仕事にまごころをこめ、最善を尽くすなら、

心は安らぎ、晴れやかになるが、

そうでない言行からは心の平安は得られない。

才能にも見捨てられ、創造も希望も生まれないだろう」

 

かなり勇気づけられます。

 

「いま考えていることを断固として語りたまえ。

そして明日は、たとえ今日いったことのすべてと 矛盾していても、

そのときに考えていることを 断固として語るのだ」

 

予測不能な状態、不確実な時代などといわれています。

なんかいろんなもんが加速しています。

自分を取り巻く環境も変化します。

便利で喜ばしいこともありますが、しんどいときもあります。

そんな時に『自己信頼』の言葉を 胸におさめておくのはどうでしょう。

黒々と渦巻く雲間にさす、ひとすじの光です。

 

最後に、

僕とこの本をつないでくれたある出版社の営業さんは、もうこの世にはいません。

彼がいなければ僕の本屋さん人生は 違った別のものになっていたでしょう。

彼に最大の愛とリスペクトを。

 

恥ずかしいんでやめます。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

ラルフ・ウォルドー・エマソン『自己信頼』(海と月社)

今週の「本屋さん」

桑野禎己(くわの・よしき)さん/ブックスキヨスク チーフバイヤー

どんな本屋さん?

桑野さんがバイヤーを務める「ブックスタジオ大阪店」は世界で3番目の乗降客数を誇る大阪駅の御堂筋北口すぐに位置し、朝早くから夜遅くまで客足が途絶えることのないお店です。ビジネスマンに向けた書籍も豊富ですが、特徴的なのは若い女性向けの書籍売り場。流行に敏感なお客さんにも喜んでいただける最新の売れ筋が揃ってます。

ブックスタジオ大阪店

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)

 


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これは、あなたを眠りにつかせ、目覚めさせる物語だ。気づけば本棚に8冊ある本の話

人間であることを確かめたくない作家がふたりいる。
どちらも現代に生きているのだから、会おうと思えばたぶん会えるのだし、実はそのうちのひとりには直接サインを頂戴したこともあるのだが、まだ信じたくない。
知ってしまったら、人の遠近法が崩れてしまう気がする。

神聖視をしすぎるあまり、自室や店には、同じ本がいくつもある。仕入れたというより、たんに、見つけると買ってしまうのだ。お金もないのに、それらを前にするとなにかがおかしくなってしまうようだった。

今まででいちばんたくさん集めてしまったと思われる本では、文庫と合わせると7冊所有していたこともある。これだけあると、ちょっとした間違いとも言いようがなく、友達にあげるにしても限度があり、本棚に点在させてみてもやたら目立つ。それでもあるだけで安心するので、持ち出す用の文庫、眺める用のハードカバーと使い分けて、至福を感じていた。

無闇な収集癖は、本屋をはじめることになってだいぶ落ち着いてきたのだが、つい先日、こんなことがあった。

店の取材のあと。ライターの方がかばんからなにかを抜き取り、わたしに差し出した。「お好きだと言っていたので」と言われ、つい素直に受け取ってしまう。見るとそれは、箱に入った1冊の本だった。わたしが崇拝するふたりの作家のうちのひとり、幻想小説家・山尾悠子の『ラピスラズリ』。7冊持っていたこともあるという、その本である。

聞けば、サインが入っているという。「そんな特別なものを」と思う気持ちの一方で、わたしのなかに悪いくせが頭をもたげ、舞い上がったまま、キットカットと引き換えにありがたく受け取ってしまった。8冊目となったその本はまだ開くことのできないまま、自室の本棚のなかに置いてある。

山尾悠子『ラピスラズリ』(ちくま文庫)

1冊の本を紹介する機会をいただいたとき、すぐに承諾してから、考え込んでこの本に決めた。わたしにとって大切な本であることはもちろんだが、しかも本当は必要としている人が、まだこの本に出会わずにいることもあるように思ったからだ。

『ラピスラズリ』には高校生のとき、当時通いつめていた新刊書店で出会った。
幻想小説、SF、ミステリなどが並ぶ本棚のなか、わたしは気になって抜き出しては、恐れをなしてしまい込んだ。きれいな青色の、かたい箱に入った本は、厳かな雰囲気をかもし出していた。本を出して開くだけでも、そわそわしてしまう。
何度も本棚の前に立ち尽くしたが、結局当時のわたしには買うことができなかった。

そういうわけで、はじめて読んだのは文庫化されてからだった。発行は2012年とあるから、大学生になってからのことだ。本を開いたわたしは、物語のはじめに書かれた「睡眠不足で赤い眼をした画廊の店主」の台詞に心のすべてを連れて行かれてしまう。それからは、幾度となく読み返し、本屋で見かけるたびに買い集めた。

『ラピスラズリ』は「銅版」「閑日」「竈の秋」「トビアス」「青金石」の5篇から成る、連作長篇小説だ。〈冬眠者〉を取りまく、眠りと覚醒の物語である。
〈冬眠者〉という言葉だけで、落ち着かない気持ちになる。小学生のときに読んだ萩尾望都の漫画『ポーの一族』のせいか、わたしは自分と違う、しかしこの世界にいてもおかしくない者たちに、憧憬を抱き続けている。

『閑日』『竈の秋』で描かれるところによると、〈冬眠者〉は、冬になると鍵を掛けて眠り、春になると目覚める人びとだ。そういうことになっている。それはその体質というよりもむしろ身分制度であり、文化ともいえる。〈冬眠者〉たち、世話をする召使いたち。そして〈ゴースト〉、それから……。数多くの登場人物たちは、ただそこに存在し、動いている。そしてそのうつくしすぎる別世界は、読み進めればいともたやすく読者自身と接続される。そのことに、心を動かされないわけはない。

昨夜、わたしは布団の上にクッションを重ねてもたれかかって文庫版の『ラピスラズリ』をめくっていた。午前1時前、いつもならもう眠っている時間だが、「駄目——眠ってしまっては駄目よ。起きていなければ。きのう話したことを覚えていないのね」と、〈ラウダーテ〉が言う。わたしは眠いまぶたをこすり、読むことをやめられないでいた。こんなふうに夢中で読みふけるのは、久しぶりのことだった。わたしは〈ゴースト〉のように物語に入れてもらい、人形のひんやりとした感触を得る。舞台は深夜営業の画廊、〈冬眠者〉の館、東の国、西暦1226年のアッシジ近郊へ。

物語を読むときには、そのなかに入り込みやすくするためのいくつかのやり方があると思う。
たとえば、心地いい温度の落ちつける部屋のなかにいること。ひとりきりの静かな時間があること。それから、登場人物の、情景の問いかけに、真剣に答えようと試みることだ。
本に慣れている人ならば造作もないことだろうが、わたしなどは、本のなかに問いかけを見つけても、あるいは見つけることすらできずに通りすぎてしまうことが多い。しかし、じっくり文字を見つめ、問いを、横たわる違和感を見つければ、書かれた言葉はすべて徴候となり、読者の身体は物語に合わせるようにして、伸びたり縮んだりしながら入り込んでいける。徴候はうねるように、わたしを、あなたを最後の1ページまで、そしてまたいちばん最初へと、導いていく。

気付けば午前2時をすぎていた。わたしは本から目を離せないまま、何度も巡るように読んでいた。布団のなかで夢心地になりながら何度も反復するのは、画廊の店主が〈わたし〉にいう台詞。

「画題(タイトル)をお知りになりたくはありませんか」

だれかに本をすすめることはむずかしい。でも、願わくばわたしの本棚に並べられるように、あるいはまったく違う形で、この本を必要とするだれかのそばにも『ラピスラズリ』があればいいと思う。今ではなくても、いつか。でも本はなくなってしまうことがあるから、できればすぐにでも。それはもしかすると、あなたを眠りにつかせ、あなたを目覚めさせる物語となる。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

山尾悠子『ラピスラズリ』(ちくま文庫)

今週の「本屋さん」

伊川佐保子(いかわ・さほこ)さん/ほんやのほ(東京都中央区)

どんな本屋さん?

2019年2月1日、東京メトロ日比谷線小伝馬町駅より3分のビルの2階にオープンした会員制本屋です。入会資格は「なんだか本が気になること」。山尾悠子『ラピスラズリ』は「ほんやのほ」でも販売中です。

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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老子、論語…東洋思考をインストールし、変わりゆく世界をサバイブするための1冊

はじめまして。ジュンク堂書店ロフト名古屋店、社会・ビジネス書担当、家田和明です。

ふだんは、“書店員”と同時に“バンドの裏方”もやっていたりします。茨城や幕張で開催される音楽フェスなどの舞台裏でお仕事していることも。

“書店員”と“バンドの裏方”、この2つはコンテンツを扱うという点で共通点が多く、相乗効果があるように感じています。

その共通点は、「著者/ミュージシャンが伝えたいことを読者/リスナーへ伝える、そのサポート」だということ。

なので、そういった「発信者〜︎受け手の間のこと」をくみ取ったり、「トレンド(変化)」を感じ取るのは、わりと得意かもしれません。

中継地点にいるから、見えやすいこともあったり…。 おっと、前置きはほどほどに。

 *

このブログは、そんなぼくが、書店員の立場から「今」気になっている本、推したい本、を紹介するというものです。

その1冊はこちら⬇︎

田口佳史『なぜ今、世界のビジネスリーダーは東洋思想を学ぶのか』(文響社)

田口佳史『なぜ今、世界のビジネスリーダーは東洋思想を学ぶのか』(文響社)です!

この本は、昔からたくさん出ている東洋思想の本の中で、なぜ「今」東洋思想が必要なのか、という視点で書かれている、今のところ珍しい1冊です。

とはいえ、「今」って、どれくらいのスパンにおける今…? 今日? 今週? 今月? 平成が終わる今? 10年? 100年? 1000年? それ以上?

人類の歴史の中で、今、ってどこ? 地球の歴史で、宇宙の歴史で、今、って???

 *

では、少しだけ、「現在の様子」を確認してみます。

(ぼくは書店員ですので、いろんな本に書かれていることをピックアップしてみます)

 *

ときは西暦2019年3月(今日は17日)

目に見える世界では、あまり変化していないように見えるのに、ネット上では、得体の知れない変化が起きていて驚く…

世界のルールが、毎日変わっていく… 昨日の当たり前は、今日役に立たないかもしれない…

中央集権型の社会から自立分散型の社会へ

ブロックチェーンと信用革命、資本主義から価値主義への認識革命

所有からシェアへ

場所や移動の意味が書き換わる、モビリティ革命

まもなく開始する5G通信、いつか来る量子コンピュータの普及

AIによる人間のサポート、指数関数的なテクノロジーの進歩…

それによりぼくら人類は、神にも似たチカラを手にすると予想する人もいます。 一方で、その予想は、西洋の近代的な視点によるものだと捉える人もいます

ならば、「東洋の」「現在の」僕たちは、今の世界をどう捉え、どんなアクションをしていくといいのでしょうか?

未来はユートピア? それとも、ディストピア?

安心して生きていける、望ましい未来ははたして、あるのでしょうか?

では、この本『なぜ今、世界のビジネスリーダーは東洋思想を学ぶのか』を開いてみましょう。

 *

■この本のテーマ①

「今起きている『七つのパラダイムシフト』と、そこに共通する『東洋思想』」

この本の著者は、まず今の世の中の変化を次の七つにまとめています。

①『機械的数字論』から『人間的生命論』へ

②『結果主義』から『プロセス主義』へ

③『技術・能力偏重』から『人間性重視』へ

④『見える世界、データ主義』から『見えない世界、直感主義』へ

⑤『外側志向』から『内側志向』へ

⑥『細分化・専門化型アプローチ』から『包括的アプローチ』へ

⑦『自他分離・主客分離』から『自他非分離・主客非分離』へ

ふむふむ…!

つまり、西洋的な考え方から、東洋的な考え方へ変わろうとしていると…。

なるほど。

そして、その色んな変化に共通しているのが『東洋思想』であると…(このキーワードでいまいちピンとこなかったら、ぜひ本書を読んでみてください。最近の思い当たることばかりで、スッキリわかると思います)。

そして、次…

 *

■この本のテーマ②

「西洋と東洋の知の融合」

この本の2つ目のテーマは「西洋と東洋の知の融合」です。 著者は、今、世界が東洋の考え方/思想を求めている、といいます。

「思想」というと、ちょっと難しく感じる方は、「コンピュータのOS」と考えてみてください(Mac、Windows、etc.)。

今、西洋は自前のOSをアップデートできずに困っています。そして、その解決法として、東洋のOSを参考に進化させようとしています(マインドフルネス、禅、仏教、Mottainai、Ikigai、etc.)。

一方、日本も、明治以降、近代西洋のOSを取り込んできました。しかし、もとは東洋的であったぼくら日本は、西洋に歩み寄ったものの、現在、このやり方ではうまくいかないことに気づきつつある。

ならば一度、ぼくら日本ももともと持っていた“東洋的な視点/思想/OS”について、考えてみよう、と。

僕たちは何を捨ててきてしまったのか。 もしくは、持っているけど当たり前すぎて気づかないことは何か。

それをこの2019年の今、数百年単位で思い出そう、おさらいしよう、断捨離しよう、ルネッサンスしよう、としているように、ぼくには見えています。

では、ぼくたち日本人は、「今」そして「これから」、どういった役割を果たすことを世界から求められているのでしょうか? 地球という生態系において、日本人の果たす役割とは??

 *

まずは、本書の「はじめに」を読んでみてください。

この「西洋と東洋の知の融合」というテーマは、ビジネスシーンだけの話ではなく、これからの僕たちの生活や人生、ひいては世界の平和にもつながるかもしれないことを予見させてくれます。

東洋思想は、経済と文明とが同時に大転換するという、今の世界の変化の謎を解く鍵であり、また、新たなる未来へと導く光となっていくことでしょう。

ちなみに、この本は文字もやや大きめで、読みやすい文体です。古典系のジャンルには珍しく話し言葉に近い感じなのもオススメです!

 *

この本は、最近のビジネス書のトレンドにもフィットしています。

「真・善・美」のうち、「美意識/アート」に重きをおき、 「東洋思想」の中でも、孔子(論語)/孫子(兵法)だけではなく、「老子」を重要視する。

本書のサブタイトルは、「史上最高のビジネス教養『老子』『論語』『禅』で激変する時代を生き残れ」なのですが、これについて、とある出版社の営業担当さんと「老子が先頭に来ているのが最高だ!」と、2人で固く握手を交わしました。

その営業の方は、大人になる前から古典をたくさん読んでおり、ぼくとは異なるルートの人生を通りながらも、出会って間もなく、古典について熱く会話をすることができました。

本を接点に、会話ができる尊さ。力が半減したテレビや、速すぎるインターネットでは得られない、会話のための共通の話題があることの有り難さ。

重要なのは、2人とも懐古的な話をしていたわけではなく、あくまで「現在」の話をして、ここにたどり着いているということです…!

その頃ぼくは、人生の先輩とも言える、東洋思想の大家たちの関係性と、その思想の僕自身への活かし方について、モヤモヤしたままでした…(人数が多いし、互いに矛盾もしているし、笑)。

しかし、先ほどの営業担当さんと“会話”をしたことで、スッキリと整理されて、次のような考えに至りました。

それは、「僕らの内側のメンタリティや世界の捉え方を、老子や華厳経的なOSで駆動させることで、内なる心の平穏を保ち(主)、

僕らの外側/俗世に潜んでいる悪意/敵意に飲み込まれないようにするために、社会をサバイブするために、(あくまで)アプリ的に論語や兵法を使う(従)、 という考え方(処世術)」。

つまり、ベースにおくべきは孔子/孫子ではなく、老子的なものであるということ(例えるなら、MacOSの上でWindowsOSを走らせる、みたいな)。

さらにこれからは、それらを主従なく、(また矛盾をも)統合して乗り越えていく。

その思想の上で、今、現実にできるアクション/行動指針としては、論理や倫理のみに正解を求めるのではなく、正誤のみで判断しない「美(意識)」に重きをおこう、と。

そこで、東洋人で日本人であるぼくは、まず「和」服、着物を着ることにしてみました(まずは休日のみ)!

思考や感性を変えるには、まず身体感覚から変えると効果が大きいと思うので、ときにはカタチから入るといいはず。「楽しいから笑顔になるのではない、笑顔でいるから楽しいのだ」的なことです。

余談ですが、名古屋が地元の人間にとっては、名古屋の伝統工芸を使っていきたいですね。名古屋友禅に名古屋黒紋付染めの組み合わせ。はぁ…ステキ…。

これは、土地や場のアイデンティティやセンスオブプレイスを強化する、個人の取り組み。しかも、着物は体感の感度を増幅できる気がしているので、「洋」服のように人間を自然から分かつのではなく、人間をグリーンインフラと接続するにもふさわしいのでは、と。

おっと! 個人的な話はほどほどに…。

 *

ときは、21世紀、2019年。

今や、幸福は山の上にはなく、持続可能な道の先に続くという…。

とはいえ、その道の先はどこにつながっているのか。誰にもわかりません。

ただ、今の時代が、かつてよりも未来への見通しがききにくいからといって、歴史や時間の流れに逆張りして(逆らって)、せっかく振り絞ったエネルギーをムダにしてほしくない…。

ぼくら人間がそれぞれの人生をかけて生み出すエネルギーを、少しでもムダにしてほしくない…。

そのとき、時代の大きな流れをつかんでいれば、「時代と併走する意思」を持っているならば、生み出したエネルギーは、目に見える成果として積み上がっていくのかもしれません。

その場でウロウロしながら、ぐるぐる回ってしまう思考も、時代の大きな流れをつかんでいれば、矢印のカタチのように、一点へ向けて伸ばしていける。

そのときの手助けにも、この本が与えてくれる視点は大いに役立つことでしょう。

まだまだ、ウェブには上がっていない「知」が、本や書店にはあります。 情報ではなく、問題を発見し解決するための思考の元となる「知性」が。

そこに、自身の知見で信ぴょう性を与え、理想の未来/ビジョンを想像してみる。そうすることで、得体の知れない不安の暗雲から解放され、人生を人類を世界を、望ましい未来へと進ませることができる。

今回、この本の存在を知り、未来の光が少し大きく見えるようになった方もいるかもしれません。

得体の知れない未来が来てからうろたえるか、もしくは、先に希望を見出し、みんなを導くような存在になるか。

世界は今、「東洋と西洋の知の融合」を求めています。 どちらかのみではなく、お互いに補い合う、協力関係。

その中で、日本人は、世界から、どう振る舞うことを求められているのでしょうか?

この続きは、ぼくも今考えているところです。 願わくば、多くの人とそれを一緒に考えたいし、対話をしたい。

「『人』と『会話』を大切にしたい」

ぼくは、「本」が、その間をつなぐものになることを願っています。

 *

おわりに…

データ上ではなく、フィジカル(質量がある物体/ブツとして)の本が動くことの、脳や世の中への影響力は、いまだ健在です。

ぼくという、フィジカルが、真心とともに書店でお待ちしております。

しかしながら、本だけでもなく、インターネットだけでもなく、やはり願うのは、「もっと、人と人との、会話を」。

追記

ぼくが上記の考えなどに至った経緯で、とても勉強になった本がたくさんあります! なので、この場を借りて、何点かご紹介です!!

新井和宏『持続可能な資本主義』

家入一真『なめらかなお金がめぐる社会。』

佐藤航陽『未来予測の技法』

菅付雅信『これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講』

そして、さらに、今回オススメの『なぜ今、~東洋思想を学ぶのか』のネクストステップとしてはこちら。

『脱近代宣言』

今回の脱近代はガチ!ってことがわかります。個人的には、このあたりの話題で会話ができる人と機会が増えたことに猛烈感謝!

『デジタルネイチャー』

本命!!(ハードモードだけど…)

『ジェダイの哲学』

デジタルネイチャーが、なんのことやら? という方はこちら。フォースと華厳経的世界観をイメージしやすくなるかも。

それでは、どうぞお楽しみください!

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

田口佳史『なぜ今、世界のビジネスリーダーは東洋思想を学ぶのか』(文響社)

今週の「本屋さん」

家田和明(いえだ・かずあき)さん/ジュンク堂書店 ロフト名古屋店(愛知県名古屋市)社会/ビジネス書担当

どんな本屋さん?

若者が集う栄のナディアパーク内にあり、約80万冊のストックを誇る、東海地区最大級の品ぞろえの書店です。「ロフト名古屋」の地下1階と7階が売り場になっています。なかでも7階の社会ジャンルのコーナーでは若者向けの商品陳列に力を入れていて、お店の特色が出ているので、足を運んだ際はぜひ見ていただきたいです。

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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【東日本大震災から8年】石巻と東京の商店街のつながりが生んだ、「いぎなり、うんめぇ」サバ缶の物語

今から10年ほど前、私は念願の書店員になった。

それまではまったく違う職種だったが、自分自身、本が大好きだったことや、そこから得られる感動や知識を多くの人へ橋渡しができる仕事に憧れがあったためだ。根底には、「本が好きだから」という、よくある理由で書店員となったのです。

私が勤める「ヤマト屋書店 東仙台店」がある宮城・仙台という街は、都市部と自然のバランスが良く、大変住みやすい。なにより「東北の人たち」の人柄は心を温かくしてくれる。だから私はこの街が大好きだ。

そんな東北・宮城では、東日本大震災の記憶を避けて通れない。有形・無形の両面で、今もあの当時のまま、時間の流れに取り残されているものは多い。今なお「復興」は道半ばだ。

しばしば取材等で、「おすすめの本を紹介してほしい」という依頼を受けるが、私は毎度1冊の本を紹介させていただく。それが、須田康成『蘇るサバ缶〜震災と希望と人情商店街』(廣済堂出版)だ。

2011年3月11日、津波によって壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市の水産加工会社、木の屋石巻水産。残されたのは泥にまみれた缶詰のみ━━。そんな絶望的な状況から、震災前より交流のあった東京・経堂の人々との繋がりや助けをかりて、工場再建へと突き進んでいく過程を描いたノンフィクションだ。

この本との出会いは、私の勤める店舗で、木の屋石巻水産の缶詰を販売することになったため。「せっかく新たに販売するのだから、この缶詰のことをもっと知ろう」という思いで読み始めた。

木の屋の人々がおかれた過酷な状況や、それでも希望を持ち続けた強い気持ち、そして、経堂の商店街の人々の奮闘が丁寧につづられている。

それでもきっと、描かれている以上に苦労や困難は多かったに違いない。しかし、その大きなパワーで、泥まみれだった缶詰は、ピカピカの「希望の缶詰」になった。

「人とのつながり」。言葉にするとややチープに感じてしまうが、それこそが今の時代に改めて求められ、大切にすべきことではないかと思う。

コミュニケーションや人との関わりが希薄といわれる今こそ、読んでほしい。

もともと大変美味しいサバ缶だが、この本を読み、つくり手や背景を知ることで、より美味く感じ、感動すらしてしまうから不思議なものだ。

昨年、2018年の漢字は「災」だった。ここ数年だけでも日本各地で多くの災害があった。そして、東日本大震災から、もうじき8年が経つ。

私はこの本を読んで、感傷に浸ってほしいわけではない。

東京には経堂商店街の人情、宮城には不屈の闘志で立ち上がった会社と、「いぎなり(とっても)、うんめぇ」サバ缶があることを知ってもらいたいのだ。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

須田康成『蘇るサバ缶』(廣済堂出版)

今週の「本屋さん」

小池俊介(こいけ・しゅんすけ)さん/ヤマト屋書店 東仙台店(宮城県仙台市)店長

どんな本屋さん?

家族連れのお客様が楽しめるような幅広いラインアップが魅力の書店です。宮城県に5店舗を構えるヤマト屋書店ならではの「宮城本コーナー」も人気。地元の魅力を再発見できる、本や缶詰(!)が購入できます。ぜひ見ていただきたいのが児童書売り場。担当者さん手づくりの装飾が季節ごとにリニューアルされ、子どもも大人もワクワクします。

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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