夫婦



サイボウズ式:「夫婦だから」とすべて共有しなくていい。大事なのは、ひとつの強い関係よりたくさんの弱い関係──佐々木俊尚・松尾たいこ

サイボウズ式

夫婦はいつも仲良く、会話をしっかりすべき、できる限り週末は行動を共にすべき……。

自分が育ってきた家庭や社会のなかで抱いてきた”こうあるべき”という「理想の家族像」。それらを押し付け合って、期待して絶望して、夫婦という関係性に居心地の悪さを感じている人もいるかもしれません。

夫婦はどうしても1対1で向き合い「濃く狭く強い人間関係」になりがち。個人の自由を奪われる気がして、結婚して家族を築くことに躊躇している人もいるかもしれません。

ジャーナリストの佐々木俊尚さんとイラストレーターでアーティストの松尾たいこさんは、一緒に暮らし始めて17年、入籍して11年目のご夫婦。「夫婦も数ある人間関係のうちのレイヤーのひとつ」と捉え、お互いに「浅く広く弱い人間関係」を築いていると話します。

東京と軽井沢と福井の3拠点で暮らし、それぞれが独立した自分の仕事をこなすおふたり。「ステレオタイプが好きじゃない」という佐々木さんと松尾さんの夫婦関係は、お互いの仕事にどのような影響を与えているのでしょうか。固定概念に縛られないおふたりの”家族のかたち”を紐解きます。


多拠点生活を実現するプロジェクトのパートナーとしての夫婦

徳:現在おふたりは、東京、軽井沢、福井の3拠点で活動していらっしゃいますが、具体的にどんな暮らし方・働き方をされているのですか?

佐々木:今は1ヶ月のうち、東京2週間、軽井沢1週間、福井1週間といったように、1週間単位で移動するのが基本的なスタイルです。2ヶ月前くらいにざっくりと移動のスケジュールを立て、それに合わせて仕事の予定を入れていきます。

東京にいる時は、会食やイベント、メディア出演等の仕事が集中するので、夜はほとんど家にいません。

松尾:東京で一緒に夜ごはんを食べられるのは週に1回くらいですね。

佐々木俊尚(ささき・としなお)。ジャーナリスト。1961年兵庫県出身。毎日新聞社などを経て2003年に独立し、テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで幅広く取材・執筆している。著書多数。電通総研フェロー。『広く弱くつながって生きる』(幻冬舎新書)発売中。

佐々木:逆に軽井沢では地域の人たちとも特に交流がないので、現地に到着したらそれぞれ仕事をして、食事はふたりでとります。

福井では、美浜町の空き家を利用した「クリエイター イン レジデンス」を拠点に、夫婦で”多拠点活動アドバイザー”として仕事もしています。なので、積極的に地域の人とも交流し、東京から友人たちを招くこともよくありますね。

松尾:先週も、起業家の女性がご家族で遊びに来てくれたよね。

徳:多拠点で暮らすようになって、夫婦関係に変化はありましたか?

佐々木:それまでも密着して暮らしていたわけではないので、特別大きな変化はないです。

夫婦もさまざまある人間関係のうちのひとつ。今は、多拠点生活を実現するプロジェクトのパートナーという位置づけです。

松尾:ただやっぱり、東京だけで暮らしていた時よりは、会話の幅が増えたと感じます。

それまでは生活に関する話が中心で、仕事の話はほとんどしなかったけれど、多拠点生活を始めてからは、一緒にアドバイザーをやるようになったり、私が陶芸を始めて彼に相談をしたり、はじめて夫婦で仕事に関する接点ができました。

松尾たいこ(まつお・たいこ)。アーティスト/イラストレーター。広島県呉市生まれ。短大卒業後、約10年の自動車メーカー勤務を経て、32歳だった1995年に上京。98年よりフリーのイラストレーターとなり、これまで手がけた本の表紙イラストは300冊を超える。2014年より、陶芸制作もスタート。現在は、東京、軽井沢、福井の3か所を拠点に活動中。『部屋が片づかない、家事が回らない、人間関係がうまくいかない 暮らしの「もやもや」整理術』(扶桑社)発売中。

仕事と家庭、男女の区分けはない。家事は得意なほうがやる

徳:多拠点生活をするまではご夫婦で一緒に仕事をされることはなかったんですか?

松尾:ジャーナリストとイラストレーターの仕事は交わることはなかったですね。一緒に仕事をしようと思うことも一切なくて。

福井で陶芸をゼロから始めた時にはじめて、彼の力を借りられることに気づいたんです。たとえば、個展をやる時に、彼の人脈で場所を見つけてもらったり、彼の言葉の力で作品に物語をつけてもらったり。

佐々木:夫婦で一緒に仕事をするといっても、ふたりきりでやるわけではなくて、それぞれのつながりのなかでいろんな人に助けてもらっているんですよ。

徳:一般的に、仕事と家庭は対立しがちですが、おふたりはそれぞれが独立しながらもゆるやかに交わっていらっしゃるように感じます。

佐々木:そもそも仕事と家庭が対立するのは、パブリックとプライベートを分ける概念や、女性が家庭を守り、男性が外で稼ぐといった昭和的な価値観が根付いているから

ぼくたちは、男女の区分けもなくて、家事は得意なほうがやる。

徳:家事はどういった分担でされているんですか? もめることはない……?

松尾:家事は、彼が料理とゴミ出しを担当して、私が掃除と洗濯をしています。

うちは、そもそも女性が家事をするといった概念がないので、家事の分担でもめるようなことは一切ないですね。

佐々木:それぞれが自分の仕事やプライベートの圏域(限られた範囲)を持つ空間で、必要があれば交わるくらいのゆるい関係性をつくっていくのが、心地よい夫婦のあり方だと思っています。

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「理想の家族像」を持たず、ゼロから”一体化しない夫婦関係”を築いてきた

徳:おふたりはどのようにして今の”心地よい夫婦の関係”を築いてきたのでしょう?

松尾:もともと私は結婚への憧れとか、こういう家庭にしたいという理想像が一切なくて、「結婚=幸せ」という図式が浮かばなかったんです。

1回目の結婚も、厳しかった実家を出たかっただけで、ルームシェアみたいな感覚でした。同じように、彼と結婚したのも「スポーツジムの会費が家族のほうが安くなるから」がきっかけ。成り行きで籍を入れただけで、どっちでもよかった。

佐々木:“理想の夫婦関係”をつくろうとするから、苦しくなるんですよ。

松尾:彼はもともと結婚願望もなく、固定概念がないから、何も求めないし、何も押し付けない。逆に、私が尻込みしていることに対して、背中を押してくれる。

私は彼と一緒に暮らすようになってからのほうが、より自由になって、より自分らしくいられます。私たちは自分たちの家庭環境からも「理想の家庭像」も持っていなかったから、関係性をゼロから築いてこられたのがよかったんだと思います。

佐々木:ゼロから考えていいという生活の哲学をお互いに共有していましたね。

そもそもふたりとも、ゼロから考えてかたちにする仕事をしていますし、そのあたりの価値観は似ていたのかな、と。

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仕事も家庭も趣味も友だちも、夫婦ですべてを共有しない

佐々木:夫婦が一体化する関係性は生きづらい。夫婦だからといってすべてを共有する必要はないんです。接点を強くつくりすぎるから一緒にいるのが嫌になる。

映画の趣味が合わなければ一緒に観なければいいし、音楽の趣味が合わなければ一緒に聴かなければいい。それだけのことです。

松尾:若い時は、やっぱりできるだけ一緒にいたいし、私の好きなものも共有したいという思いがあったけどね(笑)。

一緒に暮らし始めてから、どんどんお互いの仕事が忙しくなって、一緒にいられる時間が限られていくなかで、彼が嫌なことに時間を使ってほしくないと思うようになって、自分が好きでも彼が好まないものを強要することはやめました。

徳:なるほど。

松尾:たとえば、彼は愚痴を聞くのが嫌いだけど、私は愚痴を言いたい時がある。その時は彼ではなくて、愚痴を聞いてくれる友だちに会いにいきます。

そうやって夫婦以外の関係性を外につくることは大事だと思いますね。

佐々木:会社と家だけの往復で、100ある人間関係のうち夫婦の占める割合が50とかになっちゃうと、愚痴も出てくるし、息苦しいですよ。

100分の1くらいの関係性のほうが、楽だし、相手のことも愛おしくなる。

徳:たしかに、ずっとべったり一緒にいるよりは、少し距離があるくらいのほうが愛しい気持ちが長く続きそうです。

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松尾:ふたりがより仲良くなったなあと感じたのは、今から7,8年前に彼が山登りを始めたときなんです。一緒にいる時間が長くなって喧嘩が増えそうな予感があったタイミングで、彼が山登りを再開して。

以来彼は今でも月2回ほど山へ行っていて、仲間もいるし、リラックスして帰ってくるから、よりおおらかに接してくれます。

私は私で、彼が山登りを始めてから、ひとりで街を歩くようになったら、近所に、一緒にごはんを食べたり、お祭りに出かけたり、ランニングをしたりする仲間ができました。

佐々木:夫婦という強い関係をひとつ持っているよりも、いろんなベクトルの弱い関係をたくさん増やしていくほうが、今の時代は、セーフティネットになります

松尾:夫婦が1対1の関係だと、重荷になってしまうし、共倒れしてしまう危険性もありますから。

佐々木:そう。だから夫婦で、仕事も家庭も趣味も友だちも、すべてを共有しないほうがいい。

もちろん、親や子どものことなど、夫婦でしか共有できないことはちゃんと共有する。開かれた夫婦関係が本当に大事だと思います。

開かれた夫婦関係を築くために、文化的な価値観を共有する

徳:開かれた夫婦関係を作っていくためには、どうすればいいんでしょう?

佐々木:……なんで閉じちゃうんだろう? 価値観や文化が共有できていないから、不安になって、信頼できずに、ルールを設けたり抑圧したりしてしまうのかもしれませんね。

お互いの価値観を共有して理解し合っていれば、物理的に一緒にいる時間は必ずしも必要ない。

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徳:価値観や文化の共有について、おふたりは普段どんなふうにされていますか?

佐々木:僕は仕事柄、映画をたくさん観るんですが、最近は新作もサンプルのDVDを借りてきて福井や軽井沢で妻と一緒に観る時間が増えました。

その時に、「好きか嫌いか」「いいか悪いか」をジャッジするんじゃなくて、その物語をどう読んだか、何を感じたかを語り合うようにしています。作品に対する感じ方には、文化的な価値観が現れるので。

徳:なるほど。おふたりは、本や映画を通じて、自然に価値観の共有をされているんですね。

では、どれだけ好きでも、価値観が違うとパートナーとしては難しいんでしょうか……?

佐々木:生活をする上でお互いが譲れない、根本的な価値観がずれていたら難しいのではないかなと思います。恋人と夫婦はやっぱり違うので。

松尾:恋愛の盛り上がりは一瞬だけど、夫婦になるともう少し広い愛情に変わってきますよね。

生活に対する感覚や社会に対する価値観を共有できていることはもちろん大事だけれど、私はやっぱり、人として好きという愛情も大事だと思います。

夫も私のことをそう思ってくれていると実感します。彼は絶対にそういうことは言わないんですが(笑)。

佐々木:そういうことを言うと、「やっぱり愛情が一番」とか、そこだけがピックアップされちゃうからね。

徳:見出しにはしません(笑)。

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ゆるやかに、持続する日常の心地よさを追求していくための夫婦

松尾:私は、結婚は2回目ですが、「失敗しないとわからない」ことは、どんなことでもあると思います。

私はファッションが好きで、10代の頃からお金もかなり費やしてきているけれど、たくさん失敗してきたから、今になってようやく自分に似合う心地の良い服がわかるようになりました。

価値観が一緒だと思ったけれど、違っていたということもあると思うので、気づいたところから、やり直せばいい。

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佐々木:一回きりだと思う必要はないですよね。夫婦の関係性に変化がなくなってくると、刺激を求めてアバンチュールに走る人もいるようだけれど、僕には、永遠に持続する日常の心地良さを追求するほうが合っている。

夫婦は、続いていく生活、1日1日を愛おしんでいくためのパートナーだと思っています。

徳:なるほど……!

佐々木:ハレとケ、仕事と家庭、オンとオフ、とスイッチを切り替えていくんじゃなくて、静かに平穏に日常を続けていく。たとえば会社も、一気に成長してどんどん拡大する方向を目指すより、社員数も顧客数も一定のところでとどめて、持続可能なかたちを目指すことが幸せにつながる時もありますよね。

同じように夫婦も、そのほかの人間関係も、地道に継続させていくことが大事だと思います。

松尾:自分も相手も飽きない工夫はしつつ、いろんな人間関係を広げて、これからもお互いに心地よい夫婦関係をゆるやかに持続していけたらいいですね。

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文:徳瑠里香/編集:明石悠佳/撮影:三浦咲恵



サイボウズ式」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。本記事は、2018年11月27日のサイボウズ式掲載記事「夫婦だから」とすべて共有しなくていい。大事なのは、ひとつの強い関係よりたくさんの弱い関係──佐々木俊尚・松尾たいこより転載しました。










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