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こち亀作者、秋本治さんが語るマンガの神髄。生みの苦しみと楽しさは“ネーム”にある

「自分なりのやり方を身につければ、ネームって本当に楽しい作業なんです。モノを作る根本になる。絵を描くときは下絵を描くときが一番楽しいように、ぜひ皆さんも苦しいと思わずに楽しい作業としてやってほしい」

国民的ギャグマンガ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の作者として知られるマンガ家の秋本治さんは、マンガを描くときの骨格ともいえる「ネーム作業」について、こう語る。

ネームを作るときのコツを語る秋本治さん

 「こち亀」を40年間休むことなく毎週、週刊少年ジャンプに掲載してきた。その「骨格」となるネームが、東京都千代田区のアーツ千代田3331で4月16日まで開催中の「ラフ∞絵」展で展示されている。 

4月16日まで開催中の「ラフ∞絵」展

12日には、秋本さんとともに、集英社の担当編集者の井坂尊さん、「週刊少年ジャンプ」編集長の中野博之さんが、ネーム作業を通し、マンガをつくり出す作業について思いを語った。

マンガの生み出し方は人それぞれ。秋本さんは半日でネームが仕上がることも

ネームは、マンガを描くうえでコマ割りやキャラクターの動き、展開を決めていく最初の作業にあたる。マンガの設計図とも呼ばれる。

秋本さんは「ネームという作業は、一番大変な作業。ネームが完成すればマンガの骨格ができたようなもの。あとは絵を入れるだけで、ネームが上がれば80%のストーリーがそこに入っている」と説明した。 

 

「ラフ∞絵」展に展示されている秋本治さんのネーム

 でも、うまいアイディアが浮かばなかったり、内容に行き詰ったり。ネーム作業は作品を世に出す瞬間でもある。0から1を作り上げる作業は、当然ながら生みの苦しみもつきまとう。

秋本さんは「大変な作業だけども、それをつらいと思ってやると本当につらくなっちゃう。だから、描きたいことをとにかく30ページなら40、50ページも描いて、後で詰めていく」と手法を手ほどき。

「描いちゃうとホッとする。『これ、いらなかったな』みたいなものもある。自分自身の整理整頓。でもそれをやるのは本人しかいない。こうしたほうがいいんだろうな、という自分のやり方を自分で身に着けていく」と話した。

「気分転換なんて言い訳」

中野編集長は、売れっ子を目指して作品の「持ち込み」をするマンガ家のタマゴたちに配るマンガの指南書「原画見本帳」に掲載されている逸話を披露。 

『週刊少年ジャンプ』編集長の中野博之さん

 そこには、「気分転換って何ですか?」という質問があるという。

秋本さんの答えは「気分転換なんて言い訳だと思っている」。

続けて「詰まっても必ずやると決めたらネームは必ず上がるもんだ」とあり、中野編集長は「鉄の意思を持った人なんだと思います」と紹介した。

それに対し秋本さんは「自分が気分転換だと言うとテレビを見たり、映画を見たりしちゃう。逃げなんですよ。座って考えていれば、結構(アイディアが)出てくるんですよ。朝7時からネームやれば、1日でできるんです。やるしかない。逃げ場がないから」と解説し、強いプロ意識を見せた。

どうしても煮詰まった場合は、友人に電話するのだという。外に出ると遊んでしまうため、数分電話することで頭を切り替えるようにしている。

中野編集長は「私たちは新人作家さんがさぼろうとするとすぐ『秋本先生を見ろ!』と例にして、ムチを打つ。これが少年ジャンプ編集部のやり方です」と会場の笑いを誘った。

時代を著してきた「こち亀」の題材は自分で取材。スカイツリーもヘリからパシャリ

 秋本さんと言えば、最先端の話題を地道に集め、緻密な取材でその時代ごとの空気を的確に反映させてきた。

ただ秋本さんも以前は「今新しいものを出すと、古くなるよ」と言われたことがあったという。

「ちょうどパソコンが出はじめのころ。でも、逆に今それを描いておけば時期も分かるかもしれないと思った。そこで、あえて出すようにしたんです」

読み返せば、二つ折りのガラケー、ポケベル、Windows95━━など、今から見ると過去の時代を映す鏡のように、その時の雰囲気をそのまま味わうことができる。

スカイツリーの建設中のシーンも、こち亀には描かれている。 

担当編集の井坂さんは「マンガの取材は、基本的に担当と行ったり、担当に任せたりするんです。でも秋本先生は結構自分でばんばん行かれる」と話す。 

秋本治さんの担当編集を務める井坂尊さん。秋本さんの取材力に舌を巻いたエピソードを語った。

 スカイツリーが建てられている最中のシーンでは、工事現場を空撮したような絵が出てくるページがある。

ただ、こんな特別な場所は写真家が撮影するか、報道機関がニュース用に押さえる写真くらいしかない。

写真を構図通りに模写することは、著作権に引っかかるため、許可をとらなくてはならなかった。中野編集長は、校了の時にその点に気が付いた。

すぐに「Ⓒがないぞ!これは想像では描けないものだから写真を見ているはずだ。元の写真の許可をとらないとだめだ」と指示。

しかし担当編集は「先生に確認したらOKでした」という。「いや、OKうんぬんではなくて許可がいるんだよ」と再度念押し。

秋本さんに確認した担当編集は度肝を抜かれた。

「秋本先生が自分でヘリコプターチャーターして、上から自分で撮った写真でした」

中野編集長も「それはOKです」としか言いようがなかったという。

秋本さんは、こち亀の大金持ちキャラクター中川圭一巡査を引き合いに出し「そんな中川みたいな話じゃないですよ!」と苦笑い。

「たまたまヘリコプターに乗れる機会がありまして、東京を一周したんです。そのとき、スカイツリーも回ってくれるというのでパシャパシャパシャって撮ったんです」と弁明した。  

建設中の東京スカイツリー(東京・墨田区)。[時事通信社ヘリコプターより撮影]

今では目にできないシーンが、ページの中に残っているのも「こち亀」が様々な年代から愛される要因になっている。

物語の筋は流れに乗って作るもの

ネームは、筆の乗り方次第で流動性が高く、「打ち合わせと全然違うのものになるときもある」と秋本さんは言う。

「ネームは形にすることが重要。まずは完成させる。ネームの途中で読んでみて『これから先どうしよう』なんて言ったってどうしていいか分からない」と話す。

こち亀では、大阪・御堂筋署のメンバー御堂春がパンを作る回を描こうとしたところ、担当者が「サンミーってありますよね」と話し始めた。 

関西限定のパン「サンミ―」

 その聞きなれない響きに秋本さんは興味を持ち、関西限定のパン「サンミー」を、東京から来た両さんが口にするシーンを作った。「あっ、ふつーにおいしい」という両さんの反応に関西人が驚く、という展開を考えた。

この回がジャンプに載るやいなや、ネット上でも関西人たちが驚愕。「マジすか…?全国区ちゃうの…?」などとたじろいだ。

秋本さんはこうしたネームの作り方について「ノリみたいなのが重要。特にギャグだと。両さんがどう思うか分からないから。そしてそのほうが自分も分からないから、楽しいんです」と笑顔を見せた。   

ネームについて「ノリが重要」と語る秋本治さん

タツノコプロ出身のアーティスト4人が豪華競演する「ラフ∞絵」展

「ラフ∞絵」はマンガのネーム、アニメの絵コンテなど、作品になる前の“ラフ”と呼ばれる段階に迫り、作品が生み出される瞬間を通して作り手のイマジネーションに触れる展覧会だ。4月16日まで。

秋本治さんのほか、「FINAL FANTASY」シリーズのイメージイラストを手掛けた天野喜孝さん、「魔法の天使 クリィミーマミ」や「機動警察パトレイバー」のキャラクターデザインを担当し、宝飾デザイナーとしても活躍する高田明美さん、そして「機動戦士ガンダム」「タイムボカン」シリーズなどで知られるメカデザイナー大河原邦男さんの4人がタッグを組んだ。

4人は、アニメ制作スタジオ・タツノコプロ(旧・竜の子プロダクション)出身。かつて竜の子時代に4人と仕事をしていた演出家で、「ラフ∞絵」展プロデューサーを務める布川ゆうじさんが企画した。 

「チェンジ・アンド・チャレンジ」コーナー。右端は天野喜孝さんの描いた「魔法の天使 クリィミーマミ」

  展覧会では、4人の代表作を中心に、ラフやネーム、完成原画など約1420点が展示されている。このほか、それぞれがお互いの代表作を描き合う「チェンジ・アンド・チャレンジ」と題したコーナーも設けられている。

期間:2019年4月16日まで
時間:11:00~20:00(入館最終案内19:30)
場所:3331 Arts Chiyoda(東京都千代田区外神田6丁目11−14)
料金:一般¥2000、大学生¥1500、高校生¥1000、小・中学生無料

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浦沢直樹『MASTERキートン』はブレグジット迷走の謎を知る最良の教材

浦沢直樹、勝鹿北星、長崎尚志『MASTERキートン』(小学館)

英国・アイルランドでは、頭文字を大文字で表記する「The Troubles」という特別な言い回しがある。日本語として定着している「トラブル」という一般名詞のイメージとは違い、この言葉には血生臭い歴史が染みついている。テロや弾圧で3000人以上の死者を出した北アイルランド問題を指す婉曲表現だからだ。

当初は2019年3月末にセットされていたブレグジット(英国のEU=欧州連合=の離脱)は、ギリギリで先送りとなり、なお英政界の混乱で先が読めないカオスが続く。この迷走の最大の要因はEU加盟国であるアイルランドと英領である北アイルランドの間の国境、いわゆる「アイリッシュ・ボーダー」問題だ。なぜ、わずか500キロほどのこの国境が解決不能な難題なのか、日本人には理解に苦しむところ。このTroublesの根深さを肌感覚で知る格好の教材が『MASTERキートン』(小学館)だ。

「ギャング同士のケンカ」

日・英ハーフの英国人、平賀=Keaton(キートン)・太一を主人公に据えた本作は、1988年から1994年までビッグコミックオリジナルに連載された浦沢直樹の代表作の1つ。キートンは考古学者、英特殊空挺部隊SASの元隊員、探偵(保険会社ロイズの調査員=オプ)という3つの顔を持つ。このユニークな経歴のキートンが様々な事件に巻き込まれ、冷戦終結前後の複雑な国際情勢を反映したスリリングなストーリーや、依頼人やキートンの家族・友人のヒューマンドラマが展開される。

世界各国を舞台にした作品の構えの大きさはさいとう・たかをの『ゴルゴ13』(小学館)に通じるものがある。主人公が軍事・サバイバルや、歴史、国際情勢について広範な知識をもつ「プロ中のプロ」なのも共通項だ。だが、冷徹なゴルゴとは対照的なキートンの柔らかな人柄が魅力となり、読み味は全く違う作品になっている。私は断然「キートン派」で、学生時代から何度も再読している。

『MASTERキートン』では、たとえば「穏やかな死」の回でTroublesが題材となっている。アイルランド統一を目指す武闘派組織IRA(アイルランド共和軍)の一員として爆弾製造を受け持ってきた男の「変節」と、キートンの数奇な巡り合わせが印象深いエピソードだ。

さらにこのテーマに真正面から踏み込んだのが、「偽りの三色旗」と「偽りのユニオンジャック」の連作。三色旗はアイルランドの国旗を指す。ストーリーの軸となるのは、作中で「ギャング同士のケンカ」と表現されるIRAとSASの報復合戦で、その根っこにはIRAと英国の泥沼の闘争の発火点となった1960年代の英軍派遣がある。数百年におよぶ英国の搾取・弾圧に苦しんだアイルランドの苦難の歴史や、北アイルランドの成立後に続いた少数派のカトリック教徒への差別にも言及し、連載当時にはリアルタイムの難題、まさにTroublesだったことが生々しく迫ってくる。

2014年に単行本が発売された待望の新作『MASTERキートン Reマスター』(浦沢直樹・長崎尚志、小学館)に収められた「ハバククの聖夜」でもTroublesが取り上げられている。北アイルランド問題は1998年のベルファスト合意(Good Friday agreement)以降、小康状態にあるが、同編に登場する元ロンドン警視庁警部の老人が漏らす一言が、Troublesの根深さを象徴する。

曰く、「休戦中だ。平和は戻っちゃいない」

深刻な問題はTroublesの再燃

実際、Troubles は、ブレグジットの行方如何で「休戦」が壊れ、テロが再開しかねない危うさを抱える。日本ではあまり大きく報じられなかったが、今年1月、北アイルランド第2の都市ロンドンデリーで自動車爆弾とみられるテロがあった。幸い犠牲者はなかったが、通行人がいれば確実に死者が出ていたであろう規模の爆発だった。

同じEU加盟国として国境が完全開放されている現状は、私自身、2016年春から2年のロンドン駐在の間にダブリンからベルファストまで鉄路で旅した際に実感した。あの、本当に何の境もない、日々何万人もが行き来する名ばかりの境界線に、厳格な国境(ハードボーダー)が復活するとは、とても想像できない。

だからこそ、仮にそれが現実になれば、IRAの残党を刺激して「平和の均衡」が崩れる恐れは大きい。一方、開いた国境を維持するために北アイルランドをイギリス本島から切り離すようなスキームは、現政権に閣外協力する地域政党DUP(民主統一党)など英国の一体性を重視する勢力が絶対に飲まないだろう。

いわゆる「合意無き離脱」のリスクについては、ヒト・モノ・カネの移動が滞ることによる経済的な打撃に目が向きやすい。日本や企業への直接の影響としては、それは間違いではない。だが、英国とアイルランドにとって最も深刻な問題はTroublesの再燃なのだ。最悪期にはIRAがロンドン中心街でも次々とテロを仕掛け、王室メンバーにも犠牲者が出ていることを忘れてはならない。

『MASTERキートン』は、このTroublesを血肉の通うヒューマンストーリーとして描き切っている稀有なマンガと言えるだろう。そこには、歴史書や解説記事では伝えきれない、物語のもつ共感を呼び覚ます力がある。

「あの時の海の色」

さて、ここまではホットな話題に引き付けて語ってきたが、Troublesという題材は『MASTERキートン』の魅力のほんの一部でしかない。他の国際情勢に材をとったエピソード群も深みや切れ味十分で、考古学者としての夢を追い続けるキートンの苦闘や、魅力的な脇役たちの繰り広げる歯切れの良い短編集のような物語にも、時折再読したくなる魅力がある。ウンチク好きの私には、挿入される豊富な史実やトリビアも楽しみの1つだ。

そして、私にとって本作の最大の美点は、冷徹な国際政治や気まぐれな歴史に振り回される人々の悲哀をテーマとする回が少なくないのに、本作全体には人間賛歌という言葉がぴったりな温かさが貫かれていることだ。必ずしもハッピーエンドと言えないエピソードでも、読後感はどこか清々しい。

タイトルの「MASTER」は、考古学修士課程修了というキートンの学歴だけでなく、SASのサバイバル教官としてのキャリア、フェンシングの「達人」など多面的なキートンの来歴を包含したダブルミーニング、トリプルミーニングとなっている。

最後に、本作で私が一番気に入っている「MASTER」の側面について触れたい。

「瑪瑙(めのう)色の時間」は、少年時代のキートンが休暇を過ごした母親の故郷・コーンウォールでの思い出話を軸に話が進む。しがないバス運転手のワトキンズは、地元の少年たちから浮いている「別荘組」のキートン少年の友人となり、こう語る。

「坊やはきっと人生の達人(マスター・オブ・ライフ)になれるぞ。俺の人生のテーマなんだ」

その後、小さなトラブルがあり、ワトキンズはキートンを慰めるため、美しい朝の海が見える秘密の場所に連れていく。ワトキンズは言う。

「人生の達人はどんな時も自分らしく生き 自分色の人生を持つ」

時は現代に戻り、瑪瑙色に染まる海を見る時を共有した少年時代の思い出を自分の娘に語ったキートンは、こう話す。

「お父さん まだ人生の達人どころか、自分の人生もわからない。でも、あの時の海の色は忘れない」

(高井浩章)

(2019年4月3日フォーサイトより転載)



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続・もしもコナン君の体が縮むんじゃなくてマグロになってたら…衝撃の展開に爆笑の渦

大人気漫画「名探偵コナン」を斬新な設定で描いた、『もしもコナン君の体が縮むんじゃなくてマグロになってたら…』 こちらは漫画家の阿東里枝(@tanimikitakane)さんが描いた漫画で、以前FUND…




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クールジャパンって実際どう?日本と海外、アニメブームの陰で必要な施策とは

アニメのイラストであふれる秋葉原

「クールジャパン」という言葉が有名無実化しつつある。

エヴァンゲリオンシリーズの碇シンジ役などで知られる声優・アーティストの緒方恵美さんが1月、ハフポストのネット番組「ハフトーク」に出演した。

緒方さんは日本のコンテンツ業界で、作り手側がさらされている苦境を明かし「クールジャパンと(国が)おっしゃるなら、その文化を発信するためのきちんとした仕組みづくりを国にお願いしたいです」と語った。 

【ダイジェスト】
いいコンテンツを作っても、海外のファンにちゃんと届かない…?
声優業界で今起きていることについて、緒方恵美さん(@Megumi_Ogata)に聞きました。
ハフポスト日本版がお送りするニュース番組 #ハフトーク は毎週木曜日22時から生放送!動画全編はこちら→https://t.co/reag6bs2Rxpic.twitter.com/hFaqHzjhrG

— ハフポスト日本版 (@HuffPostJapan) February 18, 2019

海外でも人気の日本アニメ。でも市場シェアはわずか4.2%…

番組にはこの日、緒方さんの愛称「アニキ」にちなんで、「#アニキに聞きたい」のハッシュタグで多くの質問が寄せられた。その中の1つに、2017年に緒方さんが実施したクラウドファンディングのキャンペーンについて問うものがあった。

デビュー25周年を記念して制作したカバーアルバムを国内外に同時に届けるというこのキャンペーン。

緒方さんは「ふつうに出せば、日本国内に住んでいる、いつもほしいと思ってくださる方のところには届きます。でも、せっかくの周年記念なので、チャレンジさせていただきたいと思って」という。

クラウドファンディングをしようと思った理由は、大きく分けて2つ。1つは、日本で作っているアニメのDVDや音楽CDの販路だ。

クールジャパンと言われていますが、とても日本の業界はガラパゴスで、私たちがつくっているものの現物は、海外になかなか流通しないようになっています。向こうでは買えないようになっていて届けることができず、海外のファンから毎回『それはどこで買えますか』と聞かれる。それを教えてあげられない、届けられないということがあって

だが、クラウドファンディングならば、出資者へのリターンという形で届けることができる。

もう1つは、クラウドファンディングをするときに、ホームページ上で日本語と外国語で「なぜこれをやるのか」を伝えられる点だ。

日本のアニメも音楽もなかなか流通していないということを、まずは国内のファンの方に知って頂きたかった」という緒方さん。

更に、業界の窮状を訴えることで、何とかして海賊版や違法アップロードではないカタチで海外の方に見てもらえて、何かを受け取ってもらえたら。その中から、私たちでは考えられないようなことを考えてくださる方が、アイデアを出してくれたらうれしいなと思いました」と語った。

ハフトークに出演し、アニメ業界の現状について語る緒方恵美さん(中央)

いま世界では、これまで日本の代名詞だった自動車や家電、電子機器などに肩を並べて、アニメや漫画コンテンツの需要が高まっている。

経済産業省の2016年度コンテンツ産業強化対策支援事業では、アニメ、ゲーム、漫画のほか、音楽や映画、ドラマといったエンターテインメント産業における海外需要の市場規模を調査した。

報告書によると、世界最大のエンタメ市場といえるアメリカでは、2015年に19.21兆円、2020年には20.20兆円にのぼると予想。

成長著しい中国では、2011年に2.03兆円だった市場規模が、2015年にはほぼ倍の4.03兆円に伸び、さらに2020年には6.72兆円に増加すると見込まれている。

また、映画館が禁止されているものの、各家庭でのテレビ需要などから、エンターテイ ンメント分野への投資に関心を有するサウジアラビアでは、2020年には需要が10年前の約4倍に伸び、800億円に到達するとみられる。

しかし、報告書によると世界のコンテンツ市場における日本由来のコンテンツのシェアは4.2%程度にとどまっている。

こうした状況に緒方さんは「まずは日本の国内に、海外に向けてコンテンツを送り出すためのプラットフォームがほぼない。YouTubeは全世界で見られると思われるかもしれないのですが、YouTube Redという方式が採用されたときに、(方式の規約に契約していない)各レコード会社では、出していたPV(プロモーションビデオ)が海外からは見られないというようなこともあって」と説明。

YouTube Redをめぐっては、利用者が動画のダウンロードができてしまう点などから、音楽ビデオを主力の収入源のひとつにしているレーベルは、規約に署名しにくい面もあり、大きな問題となった

クールジャパンって結局、現場はどう思ってるの?

ここで気になるのが、2010年から政府の肝入りで進められていたはずの「クールジャパン政策」。

だが2017年3月末時点の会計検査院の調査によると、コンテンツの海外流通を促すクールジャパン機構は、約310億円の投資・融資によって約44億円を失っている。

2018年6月には、これらの状況を受けて同機構の太田伸之社長が退任するなど、迷走が続いていた。

こうした現状に緒方さんは「すごいショックを受けました。クールジャパンというワードはアピールとして使っても、もうその販路を開くために協力してはくださらないのだろうかと。(販路を)整えていっていただけるような仕組みを、クールジャパンといってくださるのなら、国にお願いしたい」と声を落とした。

海外の需要に応えるように日本でも海外発注のアニメ制作が増えているが、これに関して緒方さんは「私たちの技術を使って制作しているのですが、一部では、さながら日本のアニメーション業界が海外の工場のようになっているのです」と指摘。

従来多かったアニメの輸出方式では、「一部では出せば出すほど日本の制作会社が損をするシステムになっていた」と話す。

海外の発注側から制作費として一定金額を受領し、アニメを作るという形式では「著作権は全て海外の会社にあり、私たちは一定の制作費で作って渡すだけ。これでは海外の会社は儲かっても、日本の制作会社は……著作権のシステムのようなものができていけばいいのですが。本当にみんな頑張っているのですが、小さな会社単位では動けないこともある。国が主導してくださればと思う」と語った。

アニメが若年層のトレンドになり始めた中国では、日本への作品の発注も増え一大市場になっている。

しかし、緒方さんが指摘するような請負型の業務提携も多く、こうしたモデルからの脱却が望まれている。

経済産業省 平成28年度コンテンツ産業強化対策支援事業・調査報告書より

日本と海外企業の日本法人で製作委員会をつくるモデルであれば、著作権を持つことができるため、売れるほどその対価が入ってくる。

しかし経産省の報告書では、法制度上のハードルのほか、海外側からの働きかけが多く、日本は受け身であり、積極的な売り込みができていないことや、日本の制作側が海外企業の参加に抵抗感を持つなどの理由が課題に挙げられていた。

インバウンド対策は?

海外販路が法律上のハードルがあり、なかなか進まないのであれば、年々増える国内へのインバウンド対策はどうなのか。

例えば「聖地巡礼」といって、アニメや映画ファンが訪れる新たな観光地として注目される全国のロケ地。文化庁では、全国ロケーションデータベースというサイトを立ち上げている。

ただ、映画の名前を調べても、ロケ地が出てこないものが多い。毎年形式もほぼ変わらない。 

文化庁がクールジャパン施策の一環としてオープンしているロケーションデータベース

しかし管理などに使う年間の費用は、2017年度予算で1600万円。単年度ではなく、2016年度と2018年度も1600万円かかっている。2019年度はシステム更新を予定しており、その分が予算でアップするため、約3000万円ほどとなる予定。

文化庁の担当者によると「こちらは、映像ファン向けでもありますが、特にロケをしたい制作者向けでもあるので、仕様的に見にくいかもしれない。

また、各地のフィルムコミッションに情報更新をお願いしているので、忙しいなどの理由によってロケ地が入っていたり入っていなかったりする」という。

予算のうち情報の更新などは、ジャパン・フィルムコミッションに1300万円を委託業務として支払い、残りはサーバーのシステム管理会社に支払っている。

文化庁の担当者は「使いやすいものにするため、ロケをする際の規制情報を載せたり、さらに情報を入れたりなどしていきたい。ロケ地が入っているところとないところなどで差があると指摘も受けている。今後は忙しいフィルムコミッションを支え、研修などを開くことで差がなくなるように努めたい」と話している。

文化事業は海外の先例も

世界への販路をつくるため、国が文化事業を後押しする例には、海外での成功例もある。

クールジャパン政策が参考にした韓国の「クールコリア戦略」は、1997年のアジア通貨危機をきっかけに、国外への文化事業の輸出を目指して立ち上がった。

2000年以降は、国家予算の1%の水準で文化事業を担当する文化体育観光部の予算に充当。ドラマ制作費を国が補助したり、海外へ売り出すための字幕や吹き替え事業にも出資した。

結果として、韓国ドラマやK-POPは「韓流ブーム」としてアジアを巻き込み、欧米諸国にも伸びていった。

この先例について緒方さんは、パリで毎年開催される漫画やアニメの祭典「ジャパン・エキスポ」についても言及した。

エキスポには2010年に韓国政府所管のコンテンツ振興院のブースが「マンファ(漫画)」として出店

エキスポは、ジャパンという名を冠しているが、日本のものだけ置いているわけではない。漫画・アニメを中心とした文化の祭典として、フランスの同人作家や、タイや台湾、アメリカなどの様々な企業も参加している。

ただ、韓国などの国を挙げた勢いに対して、当時のクールジャパン室長は「ここもいずれマンファに席巻されるかもしれない」と話している

日本の危機感に対して、緒方さんは「では日本の政府は、そこを広げてくれないのかと思ってしまいます。アニメや音楽など、日本には素晴らしいコンテンツを作るクリエイターと、その技術がある。小さな単位で世界に、は難しい。韓国の政府のように日本でも応援していただけたらと思います」と訴えている。


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麻疹(はしか)ってどんな病気…?症状・感染力・ワクチンなどを、医師監修のマンガで再確認しよう!

「感染者が発見された」なんてニュースを聞くけど、麻疹(はしか)ってそもそもどんな病気?今回は、そんなあなたに麻疹の症状・感染力・ワクチンなどを医師監修のもとにまとめたマンガをご紹介します。 麻疹ってど…


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業田良家『自虐の詩』 複雑すぎる人間の本性を4コマで描く伝説のマンガ

業田良家『自虐の詩』(竹書房)

お気に入りの小説やマンガが映画化されると聞くと、「やめておけばいいのに……」と思うことは少なくない。原作に対する愛着が深いほど、「汚される」という懸念が強まるからだ。

これまで、「映画化なんてムチャはよせ」と思った筆頭格は、小説ではアゴタ・クリストフの『悪童日記』、マンガでは業田良家(ごうだよしいえ)の『自虐の詩』だ。前者は劇場に足を運んで「まあ、こんなもんだよな」と達観し、「無かったこと」として処理したが、後者はどうにも見る勇気が起きず、未見のままだ。

「もうダメ」ってなる

業田の代表作『自虐の詩』は、「泣ける4コマストーリー漫画」の代名詞的存在だ。

手元の竹書房の文庫版上巻に収められたインタビューで、漫画家・内田春菊は何度読んでもラストに差し掛かると「『もうだめ』ってなっちゃって最後まで泣きっぱなし」と語っている。白状すると、私も再読するたびに「熊本さん」が出てくるあたりから「泣き笑いモード」になってしまう。しかも、これは内田もインタビューで指摘していることなのだが、年齢を重ねるごとに「泣きポイント」が増えているのだ。

なぜこのマンガには、いい歳をした大人の心を強く揺さぶる力があるのだろう。

未読の方のために、簡潔に作品の概要をまとめておこう。

主人公は内縁の夫婦である森田幸江と葉山イサオの2人。イサオは無職で、いわゆる「ヒモ」のような生活を送るどうしようもない男で、定食屋「あさひ屋」に勤める幸江のわずかな稼ぎを酒やギャンブルで浪費する。そんなイサオに、いかにも不幸と貧乏を呼び寄せそうな容姿の薄幸の女・幸江は心底惚れている。

この2人を軸に、物音が筒抜けの壁の薄い安アパートの「隣のおばちゃん」や、「あさひ屋」のマスター、イサオの子分のタロー、幸江の父・家康(すごいネーミングだ……)など一癖あるキャラクターたちが絡んで、物語は進む。

綱渡りのような離れ業 

「物語」と言っても、本作は4コマ漫画なのでストーリー漫画のように、話の筋が綺麗に流れるわけではない。『週刊宝石』に掲載された時点では、『自虐の詩』は「幸江・イサオ」以外の物語もとりまぜた連載だったようだ。

作品の前半はひたすら「不幸を引き寄せる幸江」をネタにしたギャグが続く。オチの多くは、『自虐の詩』名物のちゃぶ台返しだ。イサオの悪癖のちゃぶ台返しは、徐々に他のキャラクターもぶちかます定番ネタになっていく。

「ちゃぶ台返しモノ」のあたりは、ネタは練られてはいるものの、はっきり言ってしょうもないギャグ漫画でしかない。だが、そのしょうもない4コマ漫画が後半、ドラマチックな「泣ける漫画」に豹変する。

幸江の悲惨な子供時代の回想シーンが増えるにつれて作品のストーリー性が高まり、中学の同級生の「熊本さん」の登場、イサオとの出会いのあたりから読者はグイグイと引き込まれ、ネタバレになるので詳細は書けないのだが、最後は内田が言うところの「もうだめ」という境地に持っていかれる。

ジェットコースターにたとえれば、前半のくだらなさでカタカタと位置エネルギーを稼ぎ、そこから一挙に急カーブあり、ループありの波乱の展開が待っている。

さらにこの作品が凄いのは、この怒涛の後半部分でも、ただの「お涙頂戴」には走らず、作者・業田が「ギャク4コマ」の常道をはみ出さないで、各話にきっちりオチをつけて笑いを取ってくることだ。笑いと涙を行き来するバランス感覚は、まさに綱渡りのような離れ業としか言いようがない。

小気味よいリズム感

未見なのに評価を下すのはフェアではないが、私が「映画では再現不可能だろう」と感じるのは、この離れ業がマンガという表現手段、それも4コマギャグ漫画という縛りのきついジャンルだからこそ、可能なものだと考えるからだ。

「ストーリー性が強い4コマ漫画」には、ちょっと思いつくだけで『ぼのぼの』(いがらしみきお)や『あずまんが大王』(あずまきよひこ)など、マンガ史に名を残すであろう作品があり、特異な手法ではない。むしろ、いわゆる「日常系」などを含めて定着したジャンルになっていると言っていいだろう。

これは、4コマ漫画の特性がある種のストーリー展開において有効なツールになりうるからだろう。4コマ漫画は、通常のマンガの演出の肝である見開きや「コマ割り」が使えないという制約を背負っている半面、「4コマで一区切り」という縛りが作品の進行と読者の読むペースに自然なリズムをもたらす強みを持つ。

『自虐の詩』でも、前半のギャグ主体の部分はもちろんのこと、後半部分でもこの小気味好いリズム感は大きな武器になっている。ストーリー漫画なら1話分に相当するエピソードが、4コマあるいは8コマ単位の怒涛のリズムで畳みかけられる。

「均等なコマ割り」という制約を逆手にとった名場面もある。「熊本さんのロングショット」と言えば、ピンとくる方がいるかもしれないあるシーンは、見開きや大ゴマではないからこそ、胸に迫る描写になっている。私は毎回、ここで「もうだめ」となってしまう。

なお、正確に言えば、本作には半ページの大ゴマを含む「5コマ漫画」が数本置きに挿入される。前半はこの「大ゴマ」に特に存在感はない。だが、クライマックスに入ってからの数枚は、この「大ゴマ」の1枚絵が素晴らしい効果を上げている。

再読するたび出る「味」

そして、『自虐の詩』を名作たらしめているのは、こうした「4コマ漫画マンガならでは」の巧みな作劇術を用いながらも、ストーリーテリングではテクニックに走らず、真正面から「人間」を描いている姿勢だ。

未読の方々のためにこれ以上、余計なことは書きたくない。「まずは黙って読んでくれ」としか言えない。あえて野暮な解説をするなら、優しさと残酷さ、勤勉と怠惰、決心と迷いなどなど相反するものが同居する、どうしようもない人間の本性と、絶望と救い、幸と不幸が綾なす人生のタペストリーが、下手な小説など及びもつかない深みをもって語られる。いや、やはり、こんな言葉は野暮だ。とにかく読んでほしい。

蛇足ながら、この作品の連載期間が1985年から1990年までで、『BSマンガ夜話』に取り上げられ、映画化につながるブームのきっかけとなったのが2004年だった、という事実が個人的には非常に興味深い。日本がバブルの絶頂に駆け上がる時代に貧困をテーマにした作品が描かれ、「失われた20年」のボトムに近い時期に「再発見」されたわけだ。このタイムラグは、作者・業田の持つ普遍性と先見性、日本社会の価値観の変遷を映し出しているように思える。

竹書房の文庫版なら上下巻でわずか1200円ちょい、マンガを読みなれた人なら1時間もあれば読み通せてしまうコンパクトな作品だ。しかも、歳を重ねて再読するたび「味」が出る。手元に置いておいて損はないと自信をもって保証する(高井浩章)。

(2019年2月15日フォーサイトより転載)


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紙からスマホへ。東村アキコさんが「縦読みマンガ」の無料連載を始めた理由

東村アキコさん

『東京タラレバ娘』や『かくかくしかじか』などで知られる漫画家、東村アキコさん。東村さんはいま、「ウェブトゥーン」と呼ばれるスマホ向けの縦読みマンガに挑戦している。

ウェブトゥーンは、Web(ウェブ)とCartoon(マンガ)を組み合わせた造語で、韓国の若者世代を中心に発展した。1枚ずつページをめくるのではなく、スマホ画面を縦にスクロールすることでマンガを読む。

東村さんは2017年12月、韓国発のマンガアプリ「XOY」で、アラサー女性を主人公にした『偽装不倫』の日本語・韓国語版同時連載を開始。毎週土曜に更新され、1日1話、無料で読むことができる。(日本語版は現在LINEマンガで連載中)

紙からスマホへ。20年のキャリアを持つ人気作家が、新しいマンガ表現に踏み切った理由は何なのか? 東村さんの仕事場を訪ねた。

漫画家の東村アキコさん。今は紙の原稿ではなく、iPadとペンタブでマンガを描いている。アシスタントが使うのもiPadだ。

縦スクロールは、「やればすぐに慣れるだろう」

━━先生の作品をずっと紙のコミックスで読んできました。紙で描いてきた漫画家さんが縦スクロール(縦読み)マンガを始めるのは、かなり思い切った決断だと思うのですが…。

縦スクロールは、やればすぐに慣れるだろうな、というか。

描き方自体は実は今までと変わらなくて、私は普通のマンガと同じように1ページずつ描いてるんですよ。

1ページの原稿に描いたものを、編集の方が1コマずつバラして、縦スクロールの形に割り振ってくれるんです。

「偽装不倫」の41話より。従来型の原稿に描いた絵やセリフを、編集者が1コマずつバラして「縦読み」の原稿にしているという。全コマがフルカラーだ。

<「偽装不倫」の線画。>

━━ウェブトゥーン(縦読みマンガ)の連載を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

まず、数年前から白黒で描くのもカラーで描くのも手間はあまり変わらないな、と思っていて。

今はデジタルが普通になってきてるんですけど、スクリーントーンを貼るのは結構手間がかかる作業なんです。カラーは色を決めて塗るだけだから、むしろカラーの方が速いんじゃないか、と。

そもそもトーンって活版印刷の技術で、白黒の紙で色の濃淡を表現するためにあるんですよね。スマホ向けのウェブトゥーンはフルカラーが基本なので、このデジタルの時代に白黒のトーンを貼る意味って何なのか?と思っていたんです。

そのタイミングで連載の話をいただいて。

私の場合フルカラーでも速さは変わらないだろうし、白黒のマンガばかりだとこの先ダメじゃないかと思っていたので、連載を始めました。

━━紙の方がいい、という作家さんもいると思います。デジタルに抵抗はなかったのでしょうか?

私は、そんなに抵抗はなかったんですよね。

私としては、デジタルに移行しても何も困らないし、むしろ旅行先に10冊マンガを持って行くよりiPadで読めるなら、それがいいかなって思っています。

「コミック誌を毎月読まない」現代の中高生

━━電子化が進み、マンガの読まれ方はどんどん変化しています。去年夏、先生が京都精華大学の講演で話していたエピソードが印象的でした。福岡の中学校に行った時、コミック誌を読んでいる中学生が全然いなかったと…。

そうそう。

私達が子どもの頃は、「りぼん」とか「ちゃお」とか、毎月必ず読んでいたじゃないですか。男子は「ジャンプ」や「マガジン」、「サンデー」を読んで、みたいな…。

でも、福岡の中学校で講演会をした時、「定期購読している雑誌がある人」って聞いたら、手を挙げたのがたった3人で。おもしろかったから、写真を撮ったんだけどね。

東村さんが見せてくれた写真。「雑誌の定期購読をしている人」という質問で、手を挙げたのはたった3人だった。

講演する時にこういう質問を聞くようにしてるんですけど、10年前は、手を挙げないとしても「すみません、読んでないんです」って罪悪感が漂う空気があったんですよね。

それが、この時はみんなが「ん?何を聞かれてるのかな?」って顔をしてた。「雑誌の定期購読ってどういうこと?」みたいな。

「定期購読」の概念すらない世代、という感じがしたんです。

━━それは衝撃を受けますね。

それで、手を挙げた3人に何を読んでいるか聞いたら、親が買っている「まんがライフオリジナル」が1人、残り2人は「ジャンプ」でした。

実質2人だな、と思ったの。この子たちが高校生になり、大学生になる未来を考えた時に、「これはもうダメだな」と思ったんです。

ウェブトゥーンの連載で「外見至上主義」という人気作品があるんですけど、「じゃあ『外見至上主義』を読んでいる人?」って聞いたら、みんなが知っているような反応だった。

その時に、雑誌じゃなくウェブトゥーンを読んでるんだな、って実感しました。

うちの子も中学生なんですけど、私がどの雑誌でどんな連載をしているか全然知らないのに、ウェブトゥーンで連載を始めた時だけ「みんなが言ってる」って唯一反応があって。

だからもう、そういう時代なんですよ。しょうがないんです。

雑誌でやっていると、「お客さんの実体が見えづらい」

━━紙でマンガを読んでいた世代としては、寂しい気持ちもあるんですが…。

でも、もう雑誌でやっていてもどうしようもないと思います、私は。固定のお客さんはもちろんついてくれているけど、雑誌を毎月買ってくれる人はよほどのマンガファンか、関係者だけ。

昔を懐かしんだり振り返ったり、「あの頃の雑誌はよかった」とか言っても、意味はないんです。どんどん変わっていくし、その変化に自分が合わせていくしかない。時代は戻らないですから。

昔はメインとして載ってる人気作家さんの作品と一緒に、新人の作品もいっぱい載っていて、それも全部読んでたでしょう? 端から端まで。その人が成長していくのを見守る、みたいな。

でも、今はお笑いもそうだけど、「面白いものだけ見たい」という文化になってきている。雑誌文化が時代と合わなくなっているんだと思います。

私はよく雑誌を「船」に例えるんですけど。

━━「船」ですか?

雑誌がタイタニックみたいな大きな船で、編集や漫画家を船で演奏するオーケストラだとすると、今はお客さんがほとんど乗っていない船みたいなんです。

一応たゆたっているし、その船でみんなずっと暮らしてはいける。でも、お客さんの実体が見えづらいんです。

こっちは演奏しているけれど、お客さんがホーンテッド・マンションの「透明な人」みたいなイメージ。

反響がないんです、雑誌でやっていても。10〜15年前はみんなアンケートに感想を書いてくれたり、ファンレターが届いたり、ネットに感想が上がったりしたけど、今はそれほどの反響がない。

今まではメインのピアニストのファンがたくさんいて、オーケストラの一員でも食っていけた。それが、いきなり荒波に放り出されて、自分で小舟を漕いで釣りをしながら食っていく、みたいな世界になってる。

あとは港や道端で演奏して、チャリンチャリン小銭を稼ぐという…。

だったら私は港に行って、少人数しか小銭を払ってくれないけれど、生身の人の前で演奏したいな、という気持ちでいます。

━━すごく厳しい時代に突入していますね。

若い世代がマンガをまったく読んでいない、というわけではなくて。「東京喰種」とか「亜人」、「進撃の巨人」とか、作品単位で1日1時間くらいは読んでいるのかな、という印象はあるんですよね。

だから、今後はビーチフラッグみたいに、その1時間をどう奪い合っていくか。厳しいですけど、その勝負に乗り込んでいくしかないと思います。

同時に複数の連載を抱える東村さんは、漫画家の中でも有数の筆の速さを持つ。

でも、あまり儲からない? ウェブマンガの課題

━━ウェブトゥーンでの連載の反響はどうですか?

もちろんいい反応もあれば、もうちょっとこうしたら?みたいな感想もあるんですけど、すごく反響があるんですよね。

やっぱり嬉しいですし、やりがいがあります。「お客さんはここにいたんだ」という感じがします。

━━私も縦Uスクロールマンガを読みますが、一方で見開きを使った大胆な表現がないなど、紙と比べて物足りなさも感じます。

そこは、ウェブトゥーンが負けるところで。見開きの迫力を見せられないから、動きがあるバトルものとかスポーツものとか、向かないジャンルもあるんですよね。

どちらかというと、会話劇とかの方が向いてる。映画で例えるなら、『アベンジャーズ』みたいなものはやりにくいけれど、『かもめ食堂』みたいなものはやりやすい。

だから、紙で、見開きでやってほしいな、と思うマンガもやっぱりあるんですよね。

「偽装不倫」43話より。ウェブトゥーンには「背景を描き込みすぎない方がいい」などの特徴もあるという。

一方で、より内容の質が高いものが求められるようになるのでは、とも思っています。イラスト付きの携帯小説と似たようなものだから、小説的な要素や面白さがないと持たないのかな、と。

雑誌だと見開きでバーンって勢いで見せられるけど、そういうのが通用しないから。読ませる力がある作家の方が上手くいくのかな、という気がしますね。

ただ、あまり儲からないと思います。漫画家を目指している若い子がここに参入して、食っていけるように頑張ろうと思っても、今の状況だとなかなか厳しい。

━━そうなんですね…。

雑誌文化が衰退してきてるから、雑誌に「見切り」をつけてウェブをやってるのでは、と感じる人もいると思うんですけど、そうじゃなくて。こっちが儲かる、というわけじゃないんです(笑)。

雑誌なら、若くても新人だとしても、暮らせる程度の原稿料をちゃんともらえるんですよ。売れっ子の先生が頑張ってくださるおかげで原稿料をもらえるのが、雑誌システムのいいところで。

ウェブの場合は、完全に一匹狼になってやるわけだから。雑誌で連載するほどの給料が出るかと言えば、難しいですよね。だから、「それでもやるのか?」という話になってくるんですけど…。

でも、それでもやる人が天才なのかな、とも思うので。逆に絞れていいのかな、とも思うんですけどね。

表現が限られることと儲からないこと。ウェブトゥーンのデメリットと改善していくべきところはそこだと思います。

━━稼げるかどうかは、いずれ紙とデジタルが逆転するのでは、とも思うのですが…。

でも、ウェブトゥーンは基本的にタダのコンテンツですしね。とんでもない才能やアイデアがある人はちゃんと稼げると思いますけど、そもそも若い子がお金を出す文化があまりないので。

だから、バイトをしながらマンガをやっていくしかないんじゃないかな。こういう話は、京都精華大学の講演でも話しました。

日本と韓国、2カ国で連載する難しさ

━━『偽装不倫』は韓国語に翻訳され、韓国でも連載されています。グローバル展開も視野に入れているのでは?

私はK-POPがすごく好きなんですけど、K-POPがYouTubeとか無料コンテンツを戦略的に使って、世界中に広がっていくのをリアルタイムで見ていて、本当に驚いたんですよね。

最初はまさかそんな日がくるとは思ってなかったんだけど、とうとうBTSがアメリカの番組に出演し始めて。その時に、韓国のコンテンツの拡散力ってすごいな、と。

その拡散力にちょっと乗っかってみたいな、と思ったのが、韓国のマンガアプリで連載を始めた理由の一つでもあります。

あと、K-POPのアイドルの子に私のマンガを読んでもらいたい、という。これが大事なんですよ。

━━そういう理由もあるんですね(笑)。

でも、そういう理由もないとやらないでしょう?毎週毎週、やらないですよ。儲からないって言ってるんだから(笑)。

ただ、グローバルで垣根なくやっていくと言ったって、やっぱり政治状況によって摩擦が生じることは多いので、乗っかればいいという単純な話でもないんですよね。

国際的に仕事をすることの怖さやリスクは、やっぱりある。だから、日本は日本でちゃんとコンテンツを作って、自分の国で根を張って頑張ることもしないと絶対にダメだ、と思っています。

━━リスクはあれど、『偽装不倫』を読んでいる韓国の子と日本の子が同じ話題で仲良くなれるとか、そういう繋がりが生まれたらいいのかな、とも思います。

それはあるかもしれないですよね。結局マンガとかアイドルとか、エンターテインメントの究極の良さって、誰かを元気にできるとか救いになるとか、そういうところにありますからね。

自分の漫画家人生を振り返ってみても、「あの時先生のマンガを読んで元気になりました」とか言われた時、私はこのために仕事をしているんだろうなって毎回思うんですよね。

それが韓国の人にも広がったり、自分のマンガがきっかけで日本と韓国の子が仲良くなったりしたら、すごく嬉しいなと思います。

「儲からない」とかいろいろ言っていますけれど…本当はそっちの方が大事ですから(笑)。

━━どちらも大事なので…。お話を聞いて、ウェブトゥーンはまだ「発展途上」の一面もあるのだと思いました。

そうですね。私がウェブトゥーンで連載していることで、漫画家を目指している若い子たちに「こっちは儲かるんじゃないか?」と期待させてもよくないので、そこはちゃんと伝えたいところです。

でも、やらずにいて、数年後「あのときウェブトゥーンで描いていたらよかった」と後悔するのは嫌なので。チャレンジしたことに悔いはないですし、あと1〜2年は頑張ってみようかなと思っています。

連載を数本抱えて体力的にもしんどいんですけど、「やってみたけど、あまり儲からなかったんだよね」って言えた方がいいかな、と思うんですよね。

 ◇

『偽装不倫』は、スマホアプリ「LINEマンガ」で毎週土曜に更新される。コミックスは第1巻が発売中(文藝春秋)。第2巻が2月28日に発売予定。


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