アート&カルチャー

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「燃えよ剣」実写映画化。主役の土方歳三を岡田准一が演じる。没後150年の節目に

司馬遼太郎さんの不朽の名作「燃えよ剣」が、人気グループV6の岡田准一さん主演で映画化される。映画「関ヶ原」で岡田さんとタグを組んだ原田眞人監督がメガホンを取り、2020年公開される予定。

土方歳三役の岡田准一(上段中央)。左はお雪役・柴咲コウ、右は近藤勇役・鈴木亮平。下段左は沖田総司役・山田涼介、右は芹沢鴨役・伊藤英明

「燃えよ剣」は、新撰組副長の土方歳三を主人公に、激動の時代に信念を貫いてた志士たちの生き様を描いた名著。1962年から64年にかけて「週刊文春」で連載され、現在までに累計発行部数が500万部を超える大ベストセラーとなっている。これまでにも渡哲也さんら名だたる名優で映画化され、2018年には宝塚歌劇団雪組でミュージカル「誠の群像」の再演が話題となったばかり。

新撰組局長の近藤勇には、NHK大河ドラマ「西郷どん」に主演した鈴木亮平さん。沖田総司役には、Hey! Say! JUMPの山田涼介が抜擢された。ほかに、芹沢鴨を伊藤英明さん、土方と恋に落ちるヒロインお雪を、岡田さんと初共演となる柴咲コウさんが演じる。

五稜郭の戦いで1869年に土方が戦死してから150年の節目に、新たな命が吹き込まれる「燃えよ剣」。撮影は2~4月、京都・滋賀・岡山などを中心に行われる予定。「新撰組」の存在を世の中に知らしめた幕末を揺るがす「池田屋事件」は、オープンセットで当時を再現するという。

岡田さんは、「身に余る大役。変革の時代を演じることは、やりがいのあるタフな作業になりますが、共演者の皆さん、スタッフの皆さんとこの作品を乗り越えて行きたいと思います。土方歳三の人生を覚悟と畏敬を持って楽しんで演じたいです」と意気込んでいる。


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バンクシーの偽札、大英博物館に所蔵。顔がダイアナ元妃になった「10ポンド札」

バンクシーの「ダイフェイスド・テナー」

正体不明の路上芸術家、バンクシーの製作した、顔のすり替わった偽札が大英博物館に所蔵されることになった。イギリスの大手紙ガーディアンが2月1日に報じた

■エリザベス女王がダイアナ元妃に入れ替わった偽札

所蔵されるのは、バンクシーが2004年に製作した偽札の「ダイフェイスド・テナー(Di-faced tenner)」。「ダイアナ元妃の顔をした10ポンド札」という意味があり、本来エリザベス女王の顔が描かれているはずの10ポンド札に、代わりにダイアナ元妃が印刷されている。

さらに本来の紙幣には「バンク・オブ・イングランド(イングランド銀行)」と書かれているところが「バンクシー・オブ・イングランド(イングランドのバンクシー)」とすり替わっている。

大英博物館にバンクシーの作品が所蔵されるのは初めて。BBCによると、代理人から寄贈されたという。

ガーディアンによると、当時バンクシーが効率的に偽札のコピーを製造し、誰でも同じようにコピーを作れる状況だったため、本物のバンクシー作品を手に入れるのに数年かかったという。

担当者はガーディアンの取材に対し「バンクシーの作品は当然欲しい。一風変わったバンクシー作品をコレクションの一つとして加えるチャンスだった」と話している。

バンクシーの作品を巡っては、東京都港区の防潮扉に描かれたネズミの絵が、本人の著作ではないかと話題になった。その後も千葉県九十九里町でバンクシーの作品と似たものが見つかるなど、各地で騒ぎになった。

バンクシーの「ダイフェイスド・テナー」


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乃木坂46高山一実が語る、アイドルという職業 「私も泣きわめくくらい悩んだりしました」

乃木坂49・高山一実さん

人気アイドルグループ・乃木坂46の1期生として、グループを創設時から支えてきた高山一実さん。2018年、高山さんは「アイドル」という枠を飛び越え、小説家デビューを果たした。

アイドルを目指す高校生を主人公にした小説「トラペジウム」(KADOKAWA)を2018年11月に発売。累計発行部数は17万部を超え、大きな反響を呼んでいる。

同作では、ステージやテレビで華やかに活動するアイドルたちのリアルな苦悩や本音も描かれた。高山さん自身がアイドル活動を通して経験したこと、疑問に感じたことも作品に込めたという。

小説家として、フラットな視点でアイドルという職業を見つめることで、どんな発見、変化があったのか。高山さんに聞いた。

自分を取り繕うベール、小説を書くことで剥ぎ取れた

——「トラペジウム」、本屋に在庫がないなど、ネットでも大きな話題になっていました。反響をどう受け止めていますか?

すごく幸せです。

このあいだ1期生メンバーの卒業ライブがあって(※)、変わらないと思っていたグループが変わっていくことを受け入れなきゃいけない、その状況に涙が止まらなくなったんですけど…。

次の日に、編集の方が「トラペジウムにこういう反響が届いています」って読者の感想を送ってくれて。それを読んで、本当に嬉しかったです。

(※編集部注)インタビューは2018年12月25日に行われました。

——高山さんはグループをずっと牽引してきた存在だと思うのですが、悩むことがあったんですか?

「トラペジウム」の連載を書いている最中、どんどんネガティブなゾーンに入ってしまった時があって。

自分が書いた物語が人に評価される気もしないし、こんなの誰も読まないだろうなと思ってしまって、だけど締め切りに追われている(笑)。

それに加えて、乃木坂のメンバーの卒業が続いたので。

——そうした葛藤や迷いを、小説を書くことで消化できた?

そうですね。だから、小説を書くことは本当に楽しかったんです。

小説は…何ていうんだろう、ファンの方に自分の肉片まで飛んでいってるような感じです(笑)。

本当は、こういうことはアイドルとしてはやっちゃいけないのかもしれないし、これで前に進めているのかわからないんですけど。

アイドルになってから、自分を取り繕うベールみたいなものが何重も何重も重なっていって、それを剝ぎ取りたいと思いつつも、剝ぎ取る方法がわからなかったんですよね。

でも、小説を書くことによってそれができたので、いまは「高山一実」として、ベールがない、本当に素っ裸な状態でテレビ番組に出て、仕事ができている気がします。

だから私は幸せだな、って思うんです。ファンの人とか、誰かのためにって思いながら書いたけど、結局自分のためにもなっていたらいいな、と思います。

高山一実さん

「アイドル」を題材にした理由

<高山さんの長編デビュー作となる「トラペジウム」は、アイドルを題材にした小説だ。

女子高校生の主人公・東ゆうが3人の「アイドルの原石」を仲間にして、ともにアイドルになることを目指す。

作中、表舞台に立つことで見ず知らずの人から評価される苦悩や、大衆に”ウケる”アイドル像を戦略的に作っていくリアルな姿なども描かれる。

高山さんによると、長編デビュー作の題材をアイドルにすることは「最初から決めていた」という。>

——なぜ「アイドル」を題材に選んだのでしょうか。

自分の中では、アイドルに関する小説を書きたい、という一択しかなかったんです。

本は好きだけれど、文章を書くことが得意なわけではないし、じゃあ他の作家さんと比べて自分は何ができるのか考えた時に、アイドルの物語だったら詳しく深く書けるかな、と。

アイドルではない人が書いたら、ファンタジーになってしまうかもしれない。

でも、自分はアイドルだからこそ、「こういうアイドルがいたら面白いかも」という話をリアルに書けるかな、と思いました。今のアイドル事情をわかった上で、ちょっとそれたものを書けることが強みになるんじゃないかな、って。

あとは、読んだ人が前向きな気持ちになれるような小説にすることも最初から決めてました。ファンの方に限らず、たくさんの人に夢を与えたいなとはずっと思っていたので…。

——小説では、アイドルの負の部分も描かれていますが、書くことに抵抗はありませんでしたか?

それが、一切なかったんですよね。自由なのをいいことに、好き勝手書いています(笑)。

私はやっぱり、アイドルである限り、極力キレイな、キラキラした部分だけを見せたほうがいいと思うんです。普段はそう思いながら活動してるんですけど…。

小説に限ってはそれをやるとただの綺麗事で終わってしまうし、何も内容のない作品にはしたくなかったので、要所要所に今まで抱いてきた負の感情とか疑問とか、たくさん含めるようにしました。

「アイドルが好き」、その気持ちがなければ難しい職業

——作中では、アイドルになった登場人物のくるみが、「私が私じゃなくなっていく」とわめくシーンもありました。このセリフは、先ほどの高山さんの「アイドルになると自分を取り繕うベールが重なっていく」という言葉と重なります。

くるみのシーンは、実は結構前に書いたもので、半分自分の実体験ですね。

実際に自分がわーってなっちゃった時に書いたんですよね。そこから、一旦冷却期間があって、見返してみて「自分はこんなことで悩んでたんだ」とも思いました。

アイドルって、やっぱりキャラクターを作っていくし、いかに自分の意見をのみ込んでファンの方のために発言できるか、ということが大事で。

特に、アイドルになってすぐの初期の頃って、わかりやすく個性を出すためにみんな無理やり「設定」を作るんです。まず、そこでベールが1枚かぶさってしまう。私はトークを頑張る路線でいって。

どこかのタイミングでそれを剝ぎ取れればいいんですけど、求められることをやらないと人気が出ないんじゃないか、とか、選抜に外されてしまうのではという恐怖があるので、やっぱりそれはなかなか難しい。

数年経つと、楽に考えられるようにはなっていくんです。でも3年目くらいまで、私も泣きわめくくらい悩んだりしました。

——本当にハードな仕事だと思いますし、時には理不尽なこともあってストレスもかかると思うのですが…。

そうですね。だから、「アイドルを好き」という気持ちがないと難しい職業ではあるかな、とも思いますね。

「トラペジウム」の主人公・東と他の3人の女の子の違いは、そこが大きいと思います。

根底に「アイドルが好き」という気持ちがあったら、多分すぐに辞めないと思うんです。

もともとアイドルを好きじゃないし、それにプラスして「本当はアイドルとは別の夢がある」とか「恋愛したい」とか、アイドルという仕事が「つらい」と思ってしまったら、辞めたくなると思います。

だから、アイドルを「踏み台」にして別のことをしたい人は、意外と難しいかもしれないですよね。

でも…アイドルは時に本心を隠す職業ではありますけど、私がいま本心で言えることは、アイドルという職業はいい職業だと思います。うん。

夢のある職業だなっていうのは、本当に思います。

変わることを受け入れる。2019年の展望

——2018年は小説家デビューだけではなく、高山さんと仲がいい西野七瀬さんの卒業など、転機も多かったのではと思います。乃木坂46というグループが変化していくことについて、どう受け止めていますか?

葛藤はありました。変わることを受け入れなきゃっていう自分と、あとは、「この時代の乃木坂が好きだから変わらないで」って思う人の気持ちがわかる自分で。

私はアイドルをすごく好きだったので、変わらないでほしいと思うファンの方の気持ちはわかるんです。どっちの気持ちもわかるからつらいんですけど…。

でも、自分の中で「こういう大人になりたい」と思う人って、「昔はよかった」という考えも理解しつつも、新しい世代とか若者の考えも受け入れる姿勢を見せてくれる人で、それが真の大人だなと思うので。

自分は1期生ですけど、常にフレッシュな子たちと足並み揃えていきたい、という思いはありますね。

——小説家デビューという新たな扉も開いた1年だったと思うのですが、2019年の目標も聞かせてください。

2018年は、本当にアイドルとしての種をまけた年だと思っているので、2019年は芽が出てくれることを祈りつつ(笑)。

また新たな種をまける自信が、今のところなくて。とにかく、やりたいと思うことは挑戦したいのと、やっぱりまだアイドルでいたいという思いがあるので、ちょっとアイドルの方は頑張っていきたいな、と思います。

初心に帰るというか、ちゃんとボイトレとダンスレッスンは通おうかな、と思っていて。窓口が広くなって、高山一実の存在を知ってくれる人がたくさん増えた時に、自分のアイドルとしての姿に自信を持ちたいんです。

「アイドルってすごいものなんだ、輝くんだよ」ということを、自分がやっぱり見せていきたいと思うので、そっちを頑張りたいな、と思っています。


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「日本と韓国、異なるアイドル文化を合わせる」ソニー・ミュージック、韓国JYPと共同でガールズグループ結成へ

ソニーミュージックエンタテインメント代表取締役の村松俊亮氏、パク・ジニョン氏

株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントが、K-POPグループの2PMやTWICEなどを輩出した韓国の大手芸能事務所JYPエンターテインメント(以下、JYP)とタッグを組み、新たなガールズグループを作る。2019年夏に日本国内8都市のほか、ハワイとロサンゼルスで大規模オーディションを開催するという。

2月7日、JYPの創業者で、2PMなど数多くのアーティストのプロデュースを手がけてきたパク・ジニョン氏が来日会見を実施。流暢な日本語で、プロジェクトの全容をプレゼンした。

「Nizi Project」、応募資格は国籍不問。6カ月のトレーニング期間も

プロジェクト名は「Nizi Project(ニジプロジェクト)」

応募資格は、満15歳〜満22歳の女性。国籍は不問だが、「日本語でコミュニケーションが取れること」が条件として設けられている。ジニョン氏によると、より多くの日本のファンとコミュニケーションを取れるようにするため、言語能力を条件に入れたという。

2019年5月1日からエントリーを開始し、7月から8月までの1カ月間で、日本国内8都市(札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡・沖縄)、海外2都市(ハワイ・ロサンゼルス)でオーディションを開催するという。

ジニョン氏によると、このオーディションで20人の候補生を選抜。

その後、選ばれた候補生はJYPでデビューに向けた半年間のトレーニングを受け、2020年11月に日本でメジャーデビューを迎える。最終的に選ばれる人数は、現段階では決まっていないという。

さらに、オーディションの模様は2019年10月ごろ、リアリティー番組として放送する予定という。

「未熟さ」を見せる日本と「完璧な姿」を見せる韓国のアイドル 2つの文化を合わせる

近年、多国籍グループのTWICEやGOT7、EXOなどの活躍が目覚ましく、アイドルのグローバル化や多様化は加速している。

2018年には、韓国の音楽専門チャンネルMnetとAKB48グループがコラボしたオーディション番組「PRODUCE 48」が放送され、日韓合同ガールズグループIZ*ONEが誕生した。

ジニョン氏は「Nizi Project」の構想について、以下のように意気込みを語った。

「日本のアイドル文化は、準備する過程からファンたちが一緒に応援してくれる。成長する姿を共有するため、アイドルたちが完成されていない状態、つまり『未熟な姿』も気にせずに見せると思います。反対に、K-POPアイドル文化は長い間徹底的に企画し、準備して、ある程度『完成された姿』を見せます」

「今回のプロジェクトはこの2つの文化を合わせており、準備は長い期間徹底的にしますが、その過程をファンにお見せする計画です。日本だけではなく、世界中で勝負できることを目標に、みなさんが誇らしく思えるグローバルグループが誕生できるよう、最善を尽くします」

このプロジェクトが成功すれば、「男性グループ」を育てていく構想もあるという。

国境や文化の垣根を超えた、新たなアイドルグループの誕生へ━━。2019年、このプロジェクトに大きな注目が集まりそうだ。


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紙からスマホへ。東村アキコさんが「縦読みマンガ」の無料連載を始めた理由

東村アキコさん

『東京タラレバ娘』や『かくかくしかじか』などで知られる漫画家、東村アキコさん。東村さんはいま、「ウェブトゥーン」と呼ばれるスマホ向けの縦読みマンガに挑戦している。

ウェブトゥーンは、Web(ウェブ)とCartoon(マンガ)を組み合わせた造語で、韓国の若者世代を中心に発展した。1枚ずつページをめくるのではなく、スマホ画面を縦にスクロールすることでマンガを読む。

東村さんは2017年12月、韓国発のマンガアプリ「XOY」で、アラサー女性を主人公にした『偽装不倫』の日本語・韓国語版同時連載を開始。毎週土曜に更新され、1日1話、無料で読むことができる。(日本語版は現在LINEマンガで連載中)

紙からスマホへ。20年のキャリアを持つ人気作家が、新しいマンガ表現に踏み切った理由は何なのか? 東村さんの仕事場を訪ねた。

漫画家の東村アキコさん。今は紙の原稿ではなく、iPadとペンタブでマンガを描いている。アシスタントが使うのもiPadだ。

縦スクロールは、「やればすぐに慣れるだろう」

━━先生の作品をずっと紙のコミックスで読んできました。紙で描いてきた漫画家さんが縦スクロール(縦読み)マンガを始めるのは、かなり思い切った決断だと思うのですが…。

縦スクロールは、やればすぐに慣れるだろうな、というか。

描き方自体は実は今までと変わらなくて、私は普通のマンガと同じように1ページずつ描いてるんですよ。

1ページの原稿に描いたものを、編集の方が1コマずつバラして、縦スクロールの形に割り振ってくれるんです。

「偽装不倫」の41話より。従来型の原稿に描いた絵やセリフを、編集者が1コマずつバラして「縦読み」の原稿にしているという。全コマがフルカラーだ。

<「偽装不倫」の線画。>

━━ウェブトゥーン(縦読みマンガ)の連載を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

まず、数年前から白黒で描くのもカラーで描くのも手間はあまり変わらないな、と思っていて。

今はデジタルが普通になってきてるんですけど、スクリーントーンを貼るのは結構手間がかかる作業なんです。カラーは色を決めて塗るだけだから、むしろカラーの方が速いんじゃないか、と。

そもそもトーンって活版印刷の技術で、白黒の紙で色の濃淡を表現するためにあるんですよね。スマホ向けのウェブトゥーンはフルカラーが基本なので、このデジタルの時代に白黒のトーンを貼る意味って何なのか?と思っていたんです。

そのタイミングで連載の話をいただいて。

私の場合フルカラーでも速さは変わらないだろうし、白黒のマンガばかりだとこの先ダメじゃないかと思っていたので、連載を始めました。

━━紙の方がいい、という作家さんもいると思います。デジタルに抵抗はなかったのでしょうか?

私は、そんなに抵抗はなかったんですよね。

私としては、デジタルに移行しても何も困らないし、むしろ旅行先に10冊マンガを持って行くよりiPadで読めるなら、それがいいかなって思っています。

「コミック誌を毎月読まない」現代の中高生

━━電子化が進み、マンガの読まれ方はどんどん変化しています。去年夏、先生が京都精華大学の講演で話していたエピソードが印象的でした。福岡の中学校に行った時、コミック誌を読んでいる中学生が全然いなかったと…。

そうそう。

私達が子どもの頃は、「りぼん」とか「ちゃお」とか、毎月必ず読んでいたじゃないですか。男子は「ジャンプ」や「マガジン」、「サンデー」を読んで、みたいな…。

でも、福岡の中学校で講演会をした時、「定期購読している雑誌がある人」って聞いたら、手を挙げたのがたった3人で。おもしろかったから、写真を撮ったんだけどね。

東村さんが見せてくれた写真。「雑誌の定期購読をしている人」という質問で、手を挙げたのはたった3人だった。

講演する時にこういう質問を聞くようにしてるんですけど、10年前は、手を挙げないとしても「すみません、読んでないんです」って罪悪感が漂う空気があったんですよね。

それが、この時はみんなが「ん?何を聞かれてるのかな?」って顔をしてた。「雑誌の定期購読ってどういうこと?」みたいな。

「定期購読」の概念すらない世代、という感じがしたんです。

━━それは衝撃を受けますね。

それで、手を挙げた3人に何を読んでいるか聞いたら、親が買っている「まんがライフオリジナル」が1人、残り2人は「ジャンプ」でした。

実質2人だな、と思ったの。この子たちが高校生になり、大学生になる未来を考えた時に、「これはもうダメだな」と思ったんです。

ウェブトゥーンの連載で「外見至上主義」という人気作品があるんですけど、「じゃあ『外見至上主義』を読んでいる人?」って聞いたら、みんなが知っているような反応だった。

その時に、雑誌じゃなくウェブトゥーンを読んでるんだな、って実感しました。

うちの子も中学生なんですけど、私がどの雑誌でどんな連載をしているか全然知らないのに、ウェブトゥーンで連載を始めた時だけ「みんなが言ってる」って唯一反応があって。

だからもう、そういう時代なんですよ。しょうがないんです。

雑誌でやっていると、「お客さんの実体が見えづらい」

━━紙でマンガを読んでいた世代としては、寂しい気持ちもあるんですが…。

でも、もう雑誌でやっていてもどうしようもないと思います、私は。固定のお客さんはもちろんついてくれているけど、雑誌を毎月買ってくれる人はよほどのマンガファンか、関係者だけ。

昔を懐かしんだり振り返ったり、「あの頃の雑誌はよかった」とか言っても、意味はないんです。どんどん変わっていくし、その変化に自分が合わせていくしかない。時代は戻らないですから。

昔はメインとして載ってる人気作家さんの作品と一緒に、新人の作品もいっぱい載っていて、それも全部読んでたでしょう? 端から端まで。その人が成長していくのを見守る、みたいな。

でも、今はお笑いもそうだけど、「面白いものだけ見たい」という文化になってきている。雑誌文化が時代と合わなくなっているんだと思います。

私はよく雑誌を「船」に例えるんですけど。

━━「船」ですか?

雑誌がタイタニックみたいな大きな船で、編集や漫画家を船で演奏するオーケストラだとすると、今はお客さんがほとんど乗っていない船みたいなんです。

一応たゆたっているし、その船でみんなずっと暮らしてはいける。でも、お客さんの実体が見えづらいんです。

こっちは演奏しているけれど、お客さんがホーンテッド・マンションの「透明な人」みたいなイメージ。

反響がないんです、雑誌でやっていても。10〜15年前はみんなアンケートに感想を書いてくれたり、ファンレターが届いたり、ネットに感想が上がったりしたけど、今はそれほどの反響がない。

今まではメインのピアニストのファンがたくさんいて、オーケストラの一員でも食っていけた。それが、いきなり荒波に放り出されて、自分で小舟を漕いで釣りをしながら食っていく、みたいな世界になってる。

あとは港や道端で演奏して、チャリンチャリン小銭を稼ぐという…。

だったら私は港に行って、少人数しか小銭を払ってくれないけれど、生身の人の前で演奏したいな、という気持ちでいます。

━━すごく厳しい時代に突入していますね。

若い世代がマンガをまったく読んでいない、というわけではなくて。「東京喰種」とか「亜人」、「進撃の巨人」とか、作品単位で1日1時間くらいは読んでいるのかな、という印象はあるんですよね。

だから、今後はビーチフラッグみたいに、その1時間をどう奪い合っていくか。厳しいですけど、その勝負に乗り込んでいくしかないと思います。

同時に複数の連載を抱える東村さんは、漫画家の中でも有数の筆の速さを持つ。

でも、あまり儲からない? ウェブマンガの課題

━━ウェブトゥーンでの連載の反響はどうですか?

もちろんいい反応もあれば、もうちょっとこうしたら?みたいな感想もあるんですけど、すごく反響があるんですよね。

やっぱり嬉しいですし、やりがいがあります。「お客さんはここにいたんだ」という感じがします。

━━私も縦Uスクロールマンガを読みますが、一方で見開きを使った大胆な表現がないなど、紙と比べて物足りなさも感じます。

そこは、ウェブトゥーンが負けるところで。見開きの迫力を見せられないから、動きがあるバトルものとかスポーツものとか、向かないジャンルもあるんですよね。

どちらかというと、会話劇とかの方が向いてる。映画で例えるなら、『アベンジャーズ』みたいなものはやりにくいけれど、『かもめ食堂』みたいなものはやりやすい。

だから、紙で、見開きでやってほしいな、と思うマンガもやっぱりあるんですよね。

「偽装不倫」43話より。ウェブトゥーンには「背景を描き込みすぎない方がいい」などの特徴もあるという。

一方で、より内容の質が高いものが求められるようになるのでは、とも思っています。イラスト付きの携帯小説と似たようなものだから、小説的な要素や面白さがないと持たないのかな、と。

雑誌だと見開きでバーンって勢いで見せられるけど、そういうのが通用しないから。読ませる力がある作家の方が上手くいくのかな、という気がしますね。

ただ、あまり儲からないと思います。漫画家を目指している若い子がここに参入して、食っていけるように頑張ろうと思っても、今の状況だとなかなか厳しい。

━━そうなんですね…。

雑誌文化が衰退してきてるから、雑誌に「見切り」をつけてウェブをやってるのでは、と感じる人もいると思うんですけど、そうじゃなくて。こっちが儲かる、というわけじゃないんです(笑)。

雑誌なら、若くても新人だとしても、暮らせる程度の原稿料をちゃんともらえるんですよ。売れっ子の先生が頑張ってくださるおかげで原稿料をもらえるのが、雑誌システムのいいところで。

ウェブの場合は、完全に一匹狼になってやるわけだから。雑誌で連載するほどの給料が出るかと言えば、難しいですよね。だから、「それでもやるのか?」という話になってくるんですけど…。

でも、それでもやる人が天才なのかな、とも思うので。逆に絞れていいのかな、とも思うんですけどね。

表現が限られることと儲からないこと。ウェブトゥーンのデメリットと改善していくべきところはそこだと思います。

━━稼げるかどうかは、いずれ紙とデジタルが逆転するのでは、とも思うのですが…。

でも、ウェブトゥーンは基本的にタダのコンテンツですしね。とんでもない才能やアイデアがある人はちゃんと稼げると思いますけど、そもそも若い子がお金を出す文化があまりないので。

だから、バイトをしながらマンガをやっていくしかないんじゃないかな。こういう話は、京都精華大学の講演でも話しました。

日本と韓国、2カ国で連載する難しさ

━━『偽装不倫』は韓国語に翻訳され、韓国でも連載されています。グローバル展開も視野に入れているのでは?

私はK-POPがすごく好きなんですけど、K-POPがYouTubeとか無料コンテンツを戦略的に使って、世界中に広がっていくのをリアルタイムで見ていて、本当に驚いたんですよね。

最初はまさかそんな日がくるとは思ってなかったんだけど、とうとうBTSがアメリカの番組に出演し始めて。その時に、韓国のコンテンツの拡散力ってすごいな、と。

その拡散力にちょっと乗っかってみたいな、と思ったのが、韓国のマンガアプリで連載を始めた理由の一つでもあります。

あと、K-POPのアイドルの子に私のマンガを読んでもらいたい、という。これが大事なんですよ。

━━そういう理由もあるんですね(笑)。

でも、そういう理由もないとやらないでしょう?毎週毎週、やらないですよ。儲からないって言ってるんだから(笑)。

ただ、グローバルで垣根なくやっていくと言ったって、やっぱり政治状況によって摩擦が生じることは多いので、乗っかればいいという単純な話でもないんですよね。

国際的に仕事をすることの怖さやリスクは、やっぱりある。だから、日本は日本でちゃんとコンテンツを作って、自分の国で根を張って頑張ることもしないと絶対にダメだ、と思っています。

━━リスクはあれど、『偽装不倫』を読んでいる韓国の子と日本の子が同じ話題で仲良くなれるとか、そういう繋がりが生まれたらいいのかな、とも思います。

それはあるかもしれないですよね。結局マンガとかアイドルとか、エンターテインメントの究極の良さって、誰かを元気にできるとか救いになるとか、そういうところにありますからね。

自分の漫画家人生を振り返ってみても、「あの時先生のマンガを読んで元気になりました」とか言われた時、私はこのために仕事をしているんだろうなって毎回思うんですよね。

それが韓国の人にも広がったり、自分のマンガがきっかけで日本と韓国の子が仲良くなったりしたら、すごく嬉しいなと思います。

「儲からない」とかいろいろ言っていますけれど…本当はそっちの方が大事ですから(笑)。

━━どちらも大事なので…。お話を聞いて、ウェブトゥーンはまだ「発展途上」の一面もあるのだと思いました。

そうですね。私がウェブトゥーンで連載していることで、漫画家を目指している若い子たちに「こっちは儲かるんじゃないか?」と期待させてもよくないので、そこはちゃんと伝えたいところです。

でも、やらずにいて、数年後「あのときウェブトゥーンで描いていたらよかった」と後悔するのは嫌なので。チャレンジしたことに悔いはないですし、あと1〜2年は頑張ってみようかなと思っています。

連載を数本抱えて体力的にもしんどいんですけど、「やってみたけど、あまり儲からなかったんだよね」って言えた方がいいかな、と思うんですよね。

 ◇

『偽装不倫』は、スマホアプリ「LINEマンガ」で毎週土曜に更新される。コミックスは第1巻が発売中(文藝春秋)。第2巻が2月28日に発売予定。


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Maroon 5のスーパーボウル・ハーフタイムショーが「不評」だった理由

アメリカ中が熱狂する、アメフトの頂上決定戦「スーパーボウル」が、ジョージア州アトランタで2月3日夜(現地時間)に開催された。

2019年に対戦したのは、若き力に溢れるロサンゼルス・ラムズと強豪イングランド・ペイトリオッツ。結果はペイトリオッツが13-3でラムズを下し、優勝を手にした。

トップチームが激突する試合はもちろん、もう1つ見逃せないのが、世界的なスターのパフォーマンスが毎年話題になるハーフタイムショーだ。

今年はMaroon 5(マルーン5)が登場し、人気ラッパーのトラヴィス・スコットとBig Boiと共に、M字型のステージから会場を盛り上げた。

ハーフタイムショーで歌うMaroon 5のレヴィーン

Maroon 5のレヴィーン、Big BoiとSleepy Brown

パフォーマンスは2002年の『Harder to Breathe』から始まり、『This Love』や『Girl Like You』など、数々のヒット曲を披露。途中、人気アニメ『スポンジボブ・スクエアパンツ』の映像やゴスペルのコーラスも加わって盛り上げた。

I got them mooooves…

Great show, @maroon5! 🎤👏 #SBLIIIpic.twitter.com/sdAOPuvhr2

— NFL (@NFL) February 4, 2019

ショーの後半では、ボーカルのアダム・レヴィーンは上半身裸になり、スタジアムからは花火が上がった。そして、ショーに参加した他のアーティストらとハグをした。

ヒット曲満載のパフォーマンスだったが、内容はサプライズも少なく、地味で退屈だったと言っていいだろう。Twitterでは、「過去最低のハーフタイムショー」「早く後半始まってほしい」などの声が集まり、ショーが不評だったことが伺える。

スタジアムからの花火 ハーフタイムショー

Maroon 5やその他のアーティストは、今回のハーフタイムショーでのパフォーマンス参加に対し、大会前から多くの批判を受けていた。

背景は2016年に遡る。当時サンフランシスコ・49ersに所属していたコリン・キャパニック選手が、黒人や有色人種に対する差別的な事件がアメリカで相次いでいることに抗議する狙いで、国歌斉唱中の起立を拒否した。その後、彼に触発されたほかの選手たちも次々と同調、NFL全体に拡大した。この動きをトランプ大統領はTwitterで批判し、大きな社会問題に発展した。

NFLは2018年5月、その年のシーズンから新ルールを導入することを決め、選手らに起立を義務づけるとともに違反すれば罰金を科すことにした。

この動きに「NFLが、黒人や有色人種に対する差別に抗議する選手たちを黙殺しようとしている」という批判が集まった。

実際、リアーナカーディBなどは、このことを理由にショーへの参加を辞退した。

Maroon 5のボーカル、アダム・レヴィーンは、「誰よりも今回の参加について考えた」とアメリカのエンターテイメントニュース番組に話した。

「僕よりこの決断について考慮と愛情を注いだ人はいないだろう… 沢山の人にも相談したが、一番重要なのは自分の声。自分がどう感じるか、で決断したんだ」

「スーパーボウルでのパフォーマンスは、いつも議論がつきものさ」と、今回の参加に対する批判を振り払った。

「今までのスーパーボウルのハーフタイムショーを振り返ると、みんな、どこか悪く言いたくなるんだ」とレヴィーンは言った。「多少の議論に耐えられないと、僕の仕事はやっていられないよ。早く次に進んで、僕らの音楽を通して会話をしたい」。

ハフポストUS版の記事を翻訳、編集、加筆しました。


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日本の「万引き家族」とNetflixに注目。アカデミー賞でハリウッドの勢力図は変わるのか

2014年3月、アカデミー賞授賞式のレッドカーペットイベントで(藤えりか撮影)

「Netflix(ネットフリックス)? 映画じゃない」「アメコミヒーロー映画?賞レースとは無縁だね」。

ごく最近までこんな余裕ある会話がフツーに交わされていたハリウッド。最大の祭典アカデミー賞ノミネーションで変化の兆しが見えてきた。

白人ばかりだった候補作は、テーマも出演俳優の人種も多様になり、Netflixの作品も初めて作品賞候補になった。

主要部門の最有力作品は、トランプ大統領が国境の壁建設にこだわり、敵意を向けるメキシコが舞台。外国語映画賞にノミネートの日本の『万引き家族』は、格差がひろがるアメリカで、置き去りにされた人々の現状とも重なる。総じてにじむのは、トランプ政権との対峙だ。

自己変革と反動を繰り返してきた「ハリウッド リベラル」の価値観。トランプ大統領の「アメリカ第一主義」に背を向けながら、政治との距離を改めて模索している。

Netflixで配信された「ROMA/ローマ」

2019年1月22日に発表されたアカデミー作品賞の候補8本のうち、主役級が非白人なのは5本。

史上初のアフリカ系スーパーヒーロー映画『ブラックパンサー』、スパイク・リー監督(61)の『ブラック・クランズマン』、日本でも大ヒット中の『ボヘミアン・ラプソディ』、アフリカ系のマハーシャラ・アリ(44)が実質主役に並ぶ『グリーンブック』、ベネチア国際映画祭で金獅子賞のNetflix配信作『ROMA/ローマ』と、記録的な多さだ。

『ROMA/ローマ』に主演のヤリッツァ・アパリシオ(25)は教師を経て今作で俳優デビューながら、メキシコ人史上2人目、アメリカ先住民では初めて主演女優賞にノミネート。

『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレック(37)は、エジプト系初の主演男優賞ノミネートだ。

『ROMA/ローマ』は1970年代のメキシコ市を舞台にメキシコ人家政婦を描いた物語で、アルフォンソ・キュアロン監督(57)の実体験を踏まえている。今回、最多タイ10部門でノミネート。

2月2日にはアカデミー賞の前哨戦の一つ、米監督組合賞を長編映画部門で受賞。賞の予想サイト「ゴールドダービー」によると、今のところ作品賞と監督賞、外国語映画賞、撮影賞の各部門で圧倒的に最有力となっている。

白人至上主義団体の捜査を描いた

「ゴールドダービー」が次に作品賞・監督賞ともに有力とするのが、6部門ノミネートの『ブラック・クランズマン』

アフリカ系刑事が白人至上主義団体「KKK(クー・クラックス・クラン)」に潜入捜査をした1970年代の実話に基づく。『ゲット・アウト』で昨年アフリカ系初の脚本賞を受賞したジョーダン・ピール(39)が製作陣に入り、カンヌ国際映画祭で次点のグランプリに輝いている。

リー監督は『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)や『マルコムX』(1992年)などで知られ、功労賞的なアカデミー名誉賞は受賞しているものの、作品賞も監督賞も今回が初ノミネートの実質無冠。監督賞に輝いたアフリカ系自体いまだにゼロで、受賞となれば史上初だ。

「白人男性優位」だったハリウッド

最近の作品賞候補作を振り返ると、非白人が主役の作品は2016年は8本中ゼロ、2017年9本中4本、2018年同1本。ハリウッドが長年、白人男性優位に甘んじてきた表れだ。

南カリフォルニア大学の研究者による調査では、2016年のトップ米映画900本のうち、セリフのある役柄の70.8%が白人で、アフリカ系は13.6%。アジア系は5.7%、ヒスパニック・ラティーノ系や中東系はそれぞれ3%強と、さらに惨憺たる少なさだ。

それを反映するように、アカデミー賞演技部門の候補が2016年に2年連続で白人ばかりとなり、「#OscarsSoWhite(白人ばかりのオスカー)」との批判を浴びて、リー監督らは授賞式をボイコットした。

主催する米映画芸術科学アカデミーは非白人や女性の会員比率を2020年までに倍増すると公約しているが、今回のノミネーション結果は、変化を強調したいがゆえの結果にも映る。

共感を失っていたハリウッド

 トランプ大統領

この構図はまさに、トランプ時代のリベラルの右往左往ぶりと重なる。

ハリウッドはこれまでアメリカンドリームの一つの象徴として、また米国の民主主義を喧伝し理想主義を体現する業界として君臨してきた。

ところがトランプ政権の誕生と軌を一にするように、「金持ちの既得権益層」として非難されるように。リベラルは「弱い立場」の味方だと、もはや思われなくなってきた。

多様性をうたう作品を多く世に出す割には、製作決定権を握るスタジオ経営陣は白人男性が圧倒的。豪華なドレスやタキシードをまとって格差解消を訴え、プライベートジェットを乗り回しながら環境保護を唱える「リムジン・リベラル」ぶりに、グローバル化で置き去りにされたと感じる人々を中心に共感されづらい存在となった。

それに対する自覚と自省が遅れたのも、「ハリウッド リベラル」を嫌うトランプ当選に呆然としすぎたせいか。

トランプ批判で”スベって”しまったメリル・ストリープ

メリル・ストリープ

アカデミー賞史上最多ノミネートの名優メリル・ストリープ(69)はトランプ大統領の就任直前、ゴールデングローブ賞授賞式で多様性を訴えてトランプを非難した末に、逆に格闘技を軽んじる失言をして批判を浴びた。実は格闘技の方が人種の多様化が進んでいたのに。

そうした反省からか、昨年の米中間選挙ではストリープやスティーブン・スピルバーグ監督(72)ら白人の著名映画人は静かに民主党候補に寄付をするにとどまった。

『ブラックパンサー』に出演したアフリカ系のマイケル・B・ジョーダン(31)らが戸別訪問で目立った程度だ。

2017年には、アカデミー賞作品を多く手がけた大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン(66)らによるセクハラ・強姦への大量告発が相次ぎ、ハリウッドだって実は女性蔑視じゃないか、との批判が渦巻いた。実際、残念なことに今年のアカデミー賞は女性映画人のノミネートがまたも後退している。

多くのセクハラ・強姦告発で失脚した大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン(2014年3月、アカデミー賞授賞式会場で藤えりか撮影)

ハリウッドと政治の距離感とは?

ハリウッドは政治的発言をいとわない映画人が目立つうえ、一見すると政府批判の映画も多く作ってきたため、野党的な立ち位置だと感じる人は日本に多い。

でも実際は、「現政権」を批判する映画はさして作ってこず、政府におおむね協力的というのが基本姿勢だった。

オバマ政権下の2013年授賞式では当時の大統領夫人ミシェル・オバマ(55)がホワイトハウスから中継で作品賞を発表、2016年の授賞式には当時の副大統領ジョー・バイデン(76)がサプライズ登壇。それぞれ記者室や授賞式会場にいた私は「いくら何でも政権におもねりすぎ」と感じたが、それだけに、トランプ時代に突如として反政権側に立たされたのは多くの映画人には不本意だったに違いない。

トランプ大統領が糾弾するメキシコや、トランプ時代にまたぞろ活発化しているKKKとの戦いをテーマにした作品が、米国が世界に誇るアカデミー賞を席巻したりすれば、諸刃の剣となる可能性はある。

『ROMA/ローマ』はスペイン語や先住民語のセリフで展開、作品賞を受賞すれば史上初だ。「米国にいるなら英語を話せ」と罵声を浴びせられがちなラティーノ・ヒスパニックや、移民推進・擁護派は喝采することだろう。

でも同時に、「白人のアメリカが脅かされる」とさらに恐れ、反発を強める人たちも増えるかもしれない。そう危惧するほどに、今の米国の分断は深刻だ。

Netflixはハリウッドを変えるのか

Netflixのイメージ

『ROMA/ローマ』でNetflix配信作品が作品賞に初めてノミネートされたのも大きな変化だ。

Netflixはハリウッドの守旧派に長らく嫌われてきた。劇場上映は限定的で、主戦場はあくまでネットゆえ、劇場離れに拍車をかけるというのが批判の主な源泉だ。

スピルバーグ監督は昨年、英テレビのインタビューで「テレビの体裁で作った作品はテレビ番組。少しばかり劇場で上映したところでアカデミー賞の対象にすべきでない」とばっさり切り捨てた。

彼とて若い頃は進取の気性に富み、アカデミー賞に長く無視されて苦労したはずなのに、自身が権威になるとこうなるか……と正直がっかりだったが。

ただ、アカデミーのシドニー・ギャニス元会長(79)は昨年ロサンゼルスで会った際、こう言っていた。「アカデミー内では『なぜNetflixを映画と認めなければならんのだ』と腹を立てる人がたくさんいたが、その雰囲気は変わってきた。好戦的な感じも減っている」

とはいえ、アンチNetflix派は古手のアカデミー会員を中心になお健在だ。『ROMA/ローマ』がアカデミー賞最多ノミネートとなり、事前の予想で最有力となっている現状から、「作品賞などとらせてなるものか」と背を向ける会員が出ないとも限らない。

アカデミー賞が批評家による賞ではなく、映画人自身の投票に基づく表彰であるだけに、Netflixへの映画界の見方が本当に変化しているかも、作品賞の行方で占えそうだ。

オバマ前大統領も「万引き家族」がお気に入り

Getty Images/「万引き家族」公式サイト

是枝裕和監督(56)の『万引き家族』の外国語映画賞ノミネートも、今のハリウッド的な選択と言える。プロットとしては、助演男優賞に昨年ノミネートされたショーン・ベイカー監督(47)作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017年)にも通じるものがある。

ベイカー監督は以前、インタビューでこう語っていた。

「これは、オバマにも置き去りにされたと感じ、クリントンも信用できず、自分には何の特権もない、奪われたと感じる人たちの映画。 何がトランプ勝利を導いたか理解したければ、考えなければならない。だが(ハリウッドは)そうした人々が存在し、絶望してきたことを念頭に置いてこなかった」

そのオバマ前大統領(57)は昨年見た好きな映画の一つに『万引き家族』を挙げている(『ブラックパンサー』『ブラック・クランズマン』『ROMA/ローマ』も然り)。

日本では政治家が「諸外国に誤ったメッセージを発信」などと批判しているが、友人の米国人プロデューサーいわく、「自国で権力者に批判される映画はハリウッドに好まれる傾向がある」。いまどき日本語のニュースは簡単に英語でも伝わる。批判する人が増えるほど、賞レースで有利になる、かもしれない。

執筆者 プロフィール

藤えりか(とう・えりか) 朝日新聞経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長。米国とラテンアメリカの大統領選から事件、IT、映画界まで幅広く取材。現在、朝日新聞be 兼 GLOBE編集部 記者。読者と語るシネマニア・サロンも主宰。Twitterアカウントはこちら

藤えりかさんの他の記事を読む:

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ショーン・ベイカー監督 インタビュー

『ブラックパンサー』製作総指揮ネイト・ムーア氏 インタビュー


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言葉のセンスは磨ける。歌人・穂村弘さんと“素人さん”に学ぶユニークな日本語の世界

可能な限り働きたくないと思っていた20代、私は多くの文学作品に触れた。日本人だと阿部公房と初期の村上春樹作品が好きだし、ドイツ文学とアメリカ文学が好きだ。

一方で、イギリス文学とフランス文学は肌に合わない。それが言い切れるくらいに読書をしたお陰で、書店員になり、仙台店の店長までやらせてもらっている。

いざ本を扱う仕事をしてみると、「やはり本屋は言葉を売る仕事だなあ」と思うし、「言葉を扱うのはセンスだなあ」とも思う。

センスまで教えることは難しくても、「本屋が売るのは、言葉」だということは伝えたくて、アルバイトの研修期間にはそのことを繰り返している。

さて、言葉を売る仕事をしていると、独特な言語感覚に出会うことがある。

例えば、短歌。相手に意味を伝えるのではなく、五・七・五・七・七のリズムから相手にその言葉の先の意味を想像させる。それが面白い。

今回紹介する『短歌ください』は雑誌(ダ・ヴィンチ)の読者投稿企画から歌人穂村弘さんが短歌の背景にあるであろう状況の解説を加えてくれているので、こちらの乏しい想像力を補填してくれる。

ペガサスは 私にはきっと優しくて あなたのことは殺してくれる 

(冬野きりん・女・18歳)

世界が張り裂けて溢れてしまった愛の歌、との評。

愛の歌。愛のうたかぁ…。

総務課の 田中は夢をつかみ次第 戻る予定となっております

(辻井竜一・男・29歳)

ふつうは「夢」をつかんだら戻らないと思うんだけど、「予定」では戻る、というところがいい、との評。

仕事を辞めたいなぁと漠然と思っている方の短歌だと思っていたのが恥ずかしい。

要するに、短歌を考えているのも読者もほとんどが短歌素人さん。

世の中にセンスの良い素人が多いのか、解説が良いのか、はたまた両方か。回を重ねるごとに読者の上達が凄い。みんな真面目。

そこにきて思うのは、言葉のセンスは修練できるのだなあということ。雑談力や伝え方の本を読んで「自分には無理だ」と諦めたかたにこそ触れてもらいたい。空前の俳句ブーム(?)の陰に隠れてはいるが、短歌もなかなかいいですよ。

ちなみに、穂村弘さんはエッセイも面白い。話の面白い人が独り言をずーっと言っている感じ。こんな話の面白い人と雑談できたら人生楽しいだろう。友達になりたい。お勧めは同じ角川文庫から出版されている『蚊がいる』。秀逸です。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

穂村弘『短歌ください』(角川文庫)

今週の「本屋さん」

金子圭太(かねこ・けいた)さん/くまざわ書店 エスパル仙台店(宮城県仙台市)店長

どんな本屋さん?

今年で開店4年目となる当店は、JR仙台駅直結のエスパル本館3階にあり、新幹線の時間を気にされているお客様がパッと来てパッと買えるよう整理された売場が魅力です。一方で、地元新聞社のブックガイドコーナーや書評を中心とした時事・教養コーナーなど、地元のお客様や知的好奇心の高いお客様に選ばれる店作りもしっかりと心がけています。10年20年と愛され続ける書店を目指して、日々奮闘中です。

撮影:田中姫菜(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)


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細田守監督の「未来のミライ」、アニメ界のアカデミー賞に輝く。授賞式で語ったことは?

細田守監督(2019年)

「サマーウォーズ」や「おおかみこどもの雨と雪」などで知られる細田守監督の最新作「未来のミライ」がアメリカで2月2日(日本時間2月3日)、アニメ界のアカデミー賞と言われる「アニー賞」の長編インディペンデント作品賞に輝いた。

「未来のミライ」は、甘えん坊の男の子と未来からやってきた妹が主人公の「兄妹」の物語。役所広司さんや麻生久美子さん、福山雅治さんなど豪華な俳優たちが声を担った。

細田監督は授賞式で、本作のモデルは自身の子どもであると明かし、「奥さんと、モデルになった子ども達にありがとうと言いたい」と家族への感謝を示した。


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漫画『ダルちゃん』大ヒット。“ふつう“の24歳・派遣社員の物語に、なぜ心を揺さぶられるのか

「ダルちゃん」(はるな檸檬)

漫画『ダルちゃん』の主人公は24歳の派遣社員。でもちょっと気を抜くと体の輪郭がぶよんと崩れて、「ダルダル星人のダルちゃん」になる――。

資生堂のカルチャー情報発信サイト「ウェブ花椿」での人気連載を経て、2018年12月に全2巻で単行本化。発売後に即重版し、4刷で17万部を突破しているヒット作だ。

「ふつう」になりたくて”擬態”しながら必死に日々をもがく24歳女性の物語は、なぜこんなにも多くの人の心に響いたのか。

「人は最初に”自分”をいじめる。加害する相手として、いちばん手近で楽だから。でも若い人たちがそんなふうに自分をいじめる姿を見たくない」

そう思いを語る、作者のはるな檸檬さんに話を聞いた。

漫画家のはるな檸檬さん

「ふつうの派遣社員」が創作に向かうまで

――主人公の「ダルちゃん」こと丸山成美は、24歳の派遣社員。”ふつう”に「擬態」して居場所を探す彼女の姿に、連載中からSNSでは多くの共感の声があがりました。

私自身もダルちゃんみたいに「周りに合わせるのがしんどい」という感覚をずっと持っていて。もちろん大勢の人が持っているものだとは思うんですけど。

そういう感覚を一番単純化して、記号として表したら、「ダルダル星人」という姿になりました。孤独をずっと感じている人物を描きたい、という思いもありました。

『ダルちゃん』(はるな檸檬)

最初は「20代の女性に向けた作品を」というお話だったんです。

「共感を軸にしたストーリーを」と考えていたのですが、『花椿』編集長さんにお会いしたときに、「詩の公募をしているんだけど、会社員や主婦の方からの応募がすごく多い。一般の方たちの創作に対する欲求の高さに驚かされます」という話を聞いたんですね。

じゃあ、派遣社員の24歳女性が詩を「書く」ようになるまでの間には何があるのか、みたいなものを描いてみようと思いました。

――派遣社員としてのダルちゃんの職場風景がとてもリアルです。自分はどう振る舞えばいいかわからないダルちゃんは、「役割がある」ことで安心できる。

私自身も派遣社員として3年間働いた経験があったんです。

楽しいこともあったけど、外に出せなかったこともたくさんあった。だから自分の中にずっとためてきたことを取り出しながら『ダルちゃん』を描きました。

――そもそも、「ウェブ花椿」で連載が決まったのはどんな経緯だったのでしょうか。

「ウェブ花椿」担当編集:はるなさん自身が体験した産後のつらさを描いたコミックエッセイ『れもん、うむもん!』を読んだことがきっかけです。

私も2人の子どもを出産しているのですが、産後しばらくはすごく苦しかったんですね。

授乳のために万年寝不足のなか、小さな命を生かすことに精一杯で、我が子をかわいいと思う余裕すらない。こんな自分は「ダメな母親だ」と自分を責めていたのですが、数年が経過して『れもん、うむもん!』を読んだときに、そのときのダメな自分が救われたんです。

あのときの小さな感情の揺らぎを丁寧にすくい上げて、「大丈夫だよ」と言ってもらえた気がしました。

この方が20代の女性に向けてのマンガを描いたら、どんなストーリーになるんだろう、という思いから連載をお願いしました。

――はるなさんにとっては初めてのストーリーマンガだそうですが、やはり手探りで進んだ部分もありましたか?

1話目はまだ方向が定まってなかったんですよ。私はずっとギャグマンガの人だと思われてきたから、「ちょっとふざけなきゃ」みたいな思いもあって。

でも主人公が、「ふつう」を”擬態”している「ダルダル星人」で、詩の創作を絡めて描くという設定にしちゃった時点で、「あ、これギャグにしてらんない」と気づいた。

何かを表現したり創作したりする人は、孤独に対する強い自覚を持っている、と私はずっと思っていて。ダルちゃんが孤独を感じている設定を最初にバンと出すために、前半はモノローグが増えましたね。

孤独を感じている人はどんな出来事を経て、何に背中を押されて、創作に向かうのだろうか。そういう大まかな流れだけ決めておいて、あとは描きながら考えていきました。

HUFFPOST JAPAN

つらいとき、人は最初に自分をいじめる

――社会の中で、役割を演じる。多くの人が当たり前のこととして捉えている「常識」がもたらす苦しみや孤独が、「擬態」という言葉で的確に表現されています。

本当はみんながみんな、「社会」にあわせようとして無理してるんじゃないかと。

よく考えたら、社会生活を営むこと自体が不自然なわけで。例えば、今、私たちは服を着て暮らしていますけど、「裸の状態でいない」ってよく考えたら「自然」ではないですよね?(笑) 

私、美術系の大学を志望していたので、高校生のときに性器がめっちゃ写っている写真集を家で見てたんです。

そしたら母が「何、それ?」って怪訝な顔をするんですよ。でも私としては「いや、だって、みんなあるよね? 本当は隠すほうがあべこべなことだよね?」という思いが強くて。そういう「自然」と「社会」が矛盾していることへの違和感は、昔からずっと持っていました。

今、4歳の子どもを育てているんですけど、子育てって思いっきり「自然」じゃないですか。

私たち大人は「自然」だった幼い頃からずっとチューニングし続けて「社会」に寄ってきたのに、いきなりまたスケジューリングできない生活にガッ!って勢いよく引き戻されるみたいな。子育てをしているとそういう感覚があります。

『ダルちゃん』(はるな檸檬)

――30代になった今のはるなさんにとっては、20代の苦しさは「通り過ぎた過去のもの」として捉えていますか。

私、「あのときの私はこう思っていた」みたいな感情の記憶力がめちゃくちゃいい方で。だから、派遣社員のときに抱いた「鬱屈しつつも、にこやかに立ち回っていた20代の自分」の気持ちも、はっきり記憶に残っています。

人って、つらいときはいちばん最初に”自分”をいじめると思っています。責める、加害する相手として、いちばん手近で楽だから。

私自身はつらかったあの時期を通り過ぎて、今は前よりは平和な土地に来てしまった。

だけど、今まさに無意識に自分をいじめている若い女の子たちの肩を揺さぶって、「本当にそれでいいの?」と問いかけたい気持ちがあるというか。

フェミニズムにはあえて振らなかった

――はるなさんは、少しずつ「平和な土地」にたどり着けたのでしょうか。

いえ、私の場合ははっきりビフォーとアフターがありました。25歳のときにつきあっていた人と別れて、3日ぐらいごはんが食べれなかったことがあって。そのときにノートが1冊埋まるぐらいの勢いで、自分の気持ちをめちゃくちゃに書き連ねたんです。

それを全部書き終えて、読み返したときに、スッと何かが抜けて、地に足が着いた感覚があった。世界の見え方が全然変わっちゃったというか…。脱皮して別の人間に生まれ変われたような感覚がありました。

それまでは自分の気持ちをごまかして、信じたいものだけを信じようとしていた。自分も相手も実際よりちょっと上のあたりに置いて、「良きもの」と思い込んでいた。

でも現実はそうじゃなかった。

自分も彼も当たり前に欲深い、ほころびだらけのただの人間だった。

そういう現実を見つめる勇気を初めて持てたときに、「あ、自分で自分を受け入れるってこういうことか」と初めて実感としてわかったんです。自分のダメなところをひとつひとつ認めていくと、すごくつらいけどすごく楽になれるんだな、って。

だから、『ダルちゃん』は、ジェンダーやフェミニズムを描く方向にはあえて振らなかったつもりです。そういう風に捉えてもらってもいいのですが、私としてはそこよりも自分で自分を騙している状態、気づかず自傷している人の普遍的な物語を描きたかったのです。

誰かに受け入れられた記憶は、孤独の糧になる

――『ダルちゃん』前半のクライマックスは、自分を見下している男性社員のスギタさんとダルちゃんがラブホテルへ行くくだりです。

ここは痛いですよね。私も描きながら超つらかったです、ここ。

でも、ダルちゃんはここで一回傷ついてもらわないといけなかった。自分を守ろうとするつもりで、自分を裏切っている。そういう底まで落ちるくらいの出来事がないと、物語として次へ行けないと思っていたので。

『ダルちゃん』(はるな檸檬)

――手ひどく傷つけられる一方で、恋愛のいちばん美しい瞬間も描かれます。足に障害のあるヒロセさんとの恋は、ダルちゃんの世界を広げてくれますね。

恋愛の初期の頃って、好きな人と一緒にいられれば場所なんてどこでもいいじゃないですか。道端でしゃがんでるだけで「超楽しい!」みたいな。自分が好きな人が、自分のことを好きだと言ってくれる。世界がキラキラするような奇跡ですよね。

誰かに受け入れられる体験って、生きていく上ですごく大きい後押しになるというか。それがあることでだんだんと人は自分を受け入れられるようになるし、いつかひとりになったとしても孤独を受け入れられるんじゃないかな、と私は思っています。

『ダルちゃん』(はるな檸檬)

でもそれとは別に、恋人や家族でも侵してはならない領域があると思うんですね。他人が判断を加えるべきではない、その人だけの苦しみや悲しみもある。そのことを表現しようと思って描いたのが、終盤のダルちゃんとヒロセくんの美術館デートの場面です。

ちっちゃいコマなんだけど、ヒロセくんが美術館の人に車椅子を薦められるシーンを挿れてるんですよ。その光景を見たダルちゃんが「ああ、この人はずっとこうやって生きてきたんだ」と実感してしまう。彼には彼の苦しみがあるんですよね。

『ダルちゃん』(はるな檸檬)

雨宮まみさんも、女性たちの幸せを願っていた

――ダルちゃんを励ます年上の女性サトウさんは、20代の女性たちにエールを送るはるなさんの姿にも重なって見えます。個人的な感想ですが、はるなさんとの共著もあるエッセイストの雨宮まみさんを思い出しました。生前の彼女もまた、”妹”世代の女性たちに心を寄せてエールを送っていましたよね。

……雨宮さん。……すみません、雨宮さんを思い出すと……いっつも泣いちゃう……。ああ、でも雨宮さんは本当にそうで、「後進をいかにハッピーにするか」みたいな使命感をすごく持っていましたよね。

私も同じで、自分より若い子たち、年下の女性たちに、幸せになってほしいんです。すごく。

すごく清らかで、でもずっと戦っているような人でしたよね。……今でも時々、雨宮さんにすごく会いたいなって思う瞬間があります。実際会ったときは宝塚の話しかしてなかったんですけど(笑)。今になってそういうことがすごく悔やまれます。

HUDDPOST JAPAN

次作は「欲望」が行き着く先を描きたい

――WEB発でコミックエッセイ「れもん! 産むもん!」を経て、ストーリー漫画『ダルちゃん』で作家として新境地を拓かれましたが、次作の予定は?

直近でやりたいなと思っているのが「欲望」をテーマにしたお話です。欲望が行き着く先、みたいなものを、一切共感できないであろう女性を主人公にして描きたい。

「ダルちゃん』を読んで「共感しました」という感想をたくさんいただけて、それはすごく嬉しかったんですね。でもだからこそ、次はちょっと違うことを描いてみようと思っています。

「ダルちゃん」1.2巻(小学館)

(『ダルちゃん』1.2巻、小学館より発売中)

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(取材・文:阿部花恵 編集・写真:笹川かおり)


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